28 / 70
悪の敵
しおりを挟む
パワーはウルフを持ち上げたまま壁際まで移動するとそのまま掴んだ頭部を壁に力一杯叩きつける。
ミシリと壁に大きなヒビが入り、あまりの痛みにウルフが悶絶した。
右手でウルフの頭を掴んだまま左拳を握り締めるパワー。放たれるは必殺のボディブロー。内蔵まで響くその一撃。
パワーはパッと頭を掴んでいた右手を離すと身をかがめたウルフの頭部に鮮やかな回し蹴りを撃ち込んだ。
ドウと力なく倒れるウルフ。
圧倒的だった。
彼の能力は ”力こそ全て”(ザ・パワー)
純粋な筋力強化の超能力。
シンプル、故に使い勝手が良く強力な力だ。
勝負はついたと判断したパワーが腰のポーチから無線機を取り出してボスへの連絡を図る。即ちこの侵入者の処理をどうするのか。
しかし明らかに致命傷のダメージを負ったはずのウルフがゆっくりと立ち上がった。その目の光りはまだ消えていない。
「・・・思ったより頑丈ね。少し手加減しすぎたかしら」
立ち上がったウルフの姿を確認したパワーは無線機をしまうと両手を握り締め、両手を頭の横に構えた。それはボクシングのソレと言うよりもどちらかと言えばムエタイの構えを思わせる形だった。
「・・・認めよう貴様は強い。普段の俺だったら勝てなかったかもしれないが・・・運が悪かったな出会ったのが今日だった事を呪うが良い」
ポツリと呟いたウルフの言葉にパワーは眉をひそめる。
「あら? 今日は何か特別なのかしら」
嘲るようなその言葉にウルフはゆっくりと頷いて背後の窓を右手の親指で指さす。
「残念ながら今日は満月だ」
窓の外に広がる夜空。
漆黒の闇に美しい真ん丸な月が浮かんでいる。
そう
今夜は満月なのだ。
「アォオオォオオン!!」
ウルフの喉から高らかな遠吠えが迸る。
それは醜い彼の外見に似合わぬ、心にスッと染みいるような透明な響きを持っていた。
そして
変化が始まる。
牙や爪はその鋭さを増し、体毛がワサワサと伸びてくる。骨格はさらに組み替えられより大きく頑丈に、筋肉は大きく隆起してもはやその身体がはち切れんばかりだ。
能力 ”月よ我が野性を照らせ”(ワイルド)
基本的には能力者の肉体を獣のソレに変化させる能力なのだが、その力は月の満ち欠けによって大きく左右される。
満月の時彼の能力は本来の力を発揮するのだ。
変化を終えたウルフはより明瞭になった視界でパワーの姿を捕らえると一瞬で間合いを詰めて彼の胸ぐらを掴みあげる。
「ちょっ・・・何を・・・」
バタバタと暴れるのをモノともせずにウルフはそのままパワーを窓に向かって放り投げた。 野球の投球を思わせるそのフォーム。
192センチメートル105キログラムの巨体が猛スピードで飛んでいき、窓を突き破って外に落ちていった。
ここはビルの上層階である。生存は絶望的だろう。
「邪悪滅ぶべし・・・」
ちらりと割れた窓を一瞥したウルフはくるりと背を向けて歩き出す。
目的は先ほどの男では無い。
ビルの見取り図を思い出し、向かう先は社長室。この組織の長、近年まれに見る巨悪の殲滅こそがウルフの目的だった。
ミシリと壁に大きなヒビが入り、あまりの痛みにウルフが悶絶した。
右手でウルフの頭を掴んだまま左拳を握り締めるパワー。放たれるは必殺のボディブロー。内蔵まで響くその一撃。
パワーはパッと頭を掴んでいた右手を離すと身をかがめたウルフの頭部に鮮やかな回し蹴りを撃ち込んだ。
ドウと力なく倒れるウルフ。
圧倒的だった。
彼の能力は ”力こそ全て”(ザ・パワー)
純粋な筋力強化の超能力。
シンプル、故に使い勝手が良く強力な力だ。
勝負はついたと判断したパワーが腰のポーチから無線機を取り出してボスへの連絡を図る。即ちこの侵入者の処理をどうするのか。
しかし明らかに致命傷のダメージを負ったはずのウルフがゆっくりと立ち上がった。その目の光りはまだ消えていない。
「・・・思ったより頑丈ね。少し手加減しすぎたかしら」
立ち上がったウルフの姿を確認したパワーは無線機をしまうと両手を握り締め、両手を頭の横に構えた。それはボクシングのソレと言うよりもどちらかと言えばムエタイの構えを思わせる形だった。
「・・・認めよう貴様は強い。普段の俺だったら勝てなかったかもしれないが・・・運が悪かったな出会ったのが今日だった事を呪うが良い」
ポツリと呟いたウルフの言葉にパワーは眉をひそめる。
「あら? 今日は何か特別なのかしら」
嘲るようなその言葉にウルフはゆっくりと頷いて背後の窓を右手の親指で指さす。
「残念ながら今日は満月だ」
窓の外に広がる夜空。
漆黒の闇に美しい真ん丸な月が浮かんでいる。
そう
今夜は満月なのだ。
「アォオオォオオン!!」
ウルフの喉から高らかな遠吠えが迸る。
それは醜い彼の外見に似合わぬ、心にスッと染みいるような透明な響きを持っていた。
そして
変化が始まる。
牙や爪はその鋭さを増し、体毛がワサワサと伸びてくる。骨格はさらに組み替えられより大きく頑丈に、筋肉は大きく隆起してもはやその身体がはち切れんばかりだ。
能力 ”月よ我が野性を照らせ”(ワイルド)
基本的には能力者の肉体を獣のソレに変化させる能力なのだが、その力は月の満ち欠けによって大きく左右される。
満月の時彼の能力は本来の力を発揮するのだ。
変化を終えたウルフはより明瞭になった視界でパワーの姿を捕らえると一瞬で間合いを詰めて彼の胸ぐらを掴みあげる。
「ちょっ・・・何を・・・」
バタバタと暴れるのをモノともせずにウルフはそのままパワーを窓に向かって放り投げた。 野球の投球を思わせるそのフォーム。
192センチメートル105キログラムの巨体が猛スピードで飛んでいき、窓を突き破って外に落ちていった。
ここはビルの上層階である。生存は絶望的だろう。
「邪悪滅ぶべし・・・」
ちらりと割れた窓を一瞥したウルフはくるりと背を向けて歩き出す。
目的は先ほどの男では無い。
ビルの見取り図を思い出し、向かう先は社長室。この組織の長、近年まれに見る巨悪の殲滅こそがウルフの目的だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる