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悪の敵

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 店から出たウルフは足早に最近仮宿として利用している安いビジネスホテルに向かう。路地裏から表通りに出ると観光客であろう平和な顔をしたカップルにばったりと出くわした。




 金髪の女は薄暗い路地裏から出てきたボサボサの黒髪の目つきの悪いウルフを見て思わずといった風に短い悲鳴をあげる。




 暴漢か浮浪者にでも見えたのかもしれない。




 少なくともウルフのその外観は一般人と呼ぶには少しはばかられるようなある種の迫力を持っていた。




「こらっ、失礼だろ。・・・すいませんウチの連れが、どうにも薄暗い路地から急に人が出てきたので驚いたようでして」




 カップルの男性の方が慌てたように恋人の失態を詫びる。




 しかしウルフは特に気にしてもいなかった。ウルフの異様な雰囲気が周囲の人間を怖がらせるのは知っていた。酒場の強面の男ですら目を逸らすのだ、目の前の女性の反応は仕方が無いとも言えるだろう。




「いえ、お気になさらずに」




 ウルフがそう言うと、二人はもう一度先ほどの非礼を詫びてから立ち去った。




 去りゆくカップルの平和な姿にウルフは目を細める。




 それは彼がかつて取り逃がした姿で・・・そしてもう望んでも手に入らぬ日常だったのだ。



















 ホテルの部屋についたウルフは封筒を破り、中に入っている資料を取り出す。中にはソードの所属する組織の概要と、そして拠点の場所、建物内の見取り図まで入っていた。




 どこからこれだけの情報を集めているのか毎回謎ではあるのだが、ウルフはリーの情報の精密さに驚くよりその拠点の場所に目が釘付けになった。




「これは・・・クイックリー警備の本社?」




 クイックリー警備。




 それは素早くお手軽にお手続きをモットーにした大手の警備会社。ヒーローの活動にも提携している市民の味方だ。




 慌てて付属している書類を読み込むウルフ。




 どうやらクイックリー警備の社長がソードの雇い主らしい。彼は表向きは大手警備会社の社長だが、裏ではそのありあまる資金を使ってマフィアまがいの仕事を誰にも悟られぬ事無く行っているとの事だ。




「・・・予想外の事だったが・・・関係ないな」




 クイックリー警備ほどの規模の会社となると当然侵入は困難を極めるだろう。しかもその本社は街のど真ん中。今までの裏社会の組織とは訳が違い、向こうには社会的地位がある。




 もし騒ぎを起こそうものならすぐにでも警察が飛んでくる。もしかしたらヒーローもやってくるかもしれない・・・。




 しかしウルフにはそんな事関係が無かった。 




 困難だから諦めるのか? 




 相手が強大だから見過ごすのか?




 否




 断じて否だ




「悪は・・・滅ぼさねばならない」




 決行は今夜。




 幸いにも今夜は満月らしい。




 ウルフはニヤリと凶暴な笑みを浮かべた。











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