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新たなる火種
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PC画面の明かりだけが周囲を照らす薄暗い小部屋で、ボスと呼ばれる男は一人今朝の紙面を広げていた。
机の上に置かれたマグカップを手に取り、少し冷めたコーヒーを一口啜る。口内に広がる安物の豆の香りとほのかな苦みに脳が覚醒するのを感じながら男はペラリと紙面をめくった。
新聞の一面にデカデカと昨日の銀行強盗事件の記事が載っている。
新人ヒーローであるウィングのデビュー戦。若きヒーローニンジャボーイとコンビを組んでのその初任務は主犯格を逃すという失敗に終わったそうだ。
幸い死人や怪我人は出なかったそうだが、若いヒーローの実力不足が嘆かれると記事には書かれていた。
「・・・失敗ねえ」
男は少し残念そうに呟くと紙面をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に放り投げた。
世間の一般の意見では先の事件解決は失敗だという。結果として主犯格であるパワーは取り逃がしたモノの、銀行の金は盗まれず、人質にされた一般市民に傷一つ負わせなかったヒーロー達の評価は ”実力不足” だ。
護るということがどれだけ難しいかも理解していない一般市民はお気楽なモノだ。だからこそヒーローという正義の輝きは何よりも尊く見えるのだろう。
「・・・私は君たちヒーローが好きだ・・・だけどこんな腐った世界を君たちが護る価値なんてあるのだろうか?」
そう呟いた男の脳裏に少年の頃のトラウマが蘇る。
舞い上がる炎。
つないだ手を振り払った両親の後ろ姿・・・。
ズキリと顔の火傷跡が疼いた。
彼に取ってこの世とは形容しがたいほど醜悪に見えて、だからこそ正義を志すヒーローが何より輝いて映るのだ。
物思いにふけっていると扉の外からノックの音が聞こえた。
男は机の引き出しを開けて中から安物のハロウィンマスクを取り出すとそれを顔にかぶせて「入りたまえ」と入室の許可を出す。
「失礼します」
入ってきたのは男の最も信頼する部下、黒いフード付きのパーカーを身に付けた目つきの悪い男、ソードだ。
「やあソード。何かようかな?」
「・・・少し面倒な事態が起こりましたので指示を頂きに参りました」
「面倒な事態?」
ソードはコクリと頷くと男の元に数枚の書類を差し出した。
「我が組織が金銭面で支援していた武器商人が何者かに殺されたようです」
書類に視線を下ろすと、無残に引き裂かれた武器商人達の肢体が写っている。
「・・・この死体、マフィアの抗争に巻き込まれた感じじゃないね。鋭い牙や爪で引き裂かれたような跡が残ってる」
「ええ、こんな街中で大型の獣が野放しにされている筈がありませんので、おそらくは新手の能力者かと」
ソードの話を聞きながら書類をめくる。男は次の書類の文章を読んでピタリと動きを止めた。
「ここ数ヶ月で同じような死体がいくつか出ているようだね」
「はい、しかもそれら全て我が組織に関わる駒です」
「・・・なるほど。これは少し面倒だね」
どうやら組織に敵対する強力な能力を持った何者かが暴れているようだ。
「・・・ソード、君にいくつかの部隊の指揮権を渡そう。早急にこのふざけた野郎の正体を突き止めてくれるかい?」
「はっ、お望みとあらば」
その後いくつかのやりとりをして退室したソードの背中を見送り、男はマスクを脱ぎ捨てた。
その顔には激しい怒りの感情が浮かんでいる。
「屑が・・・ヒーロー以外がよくも私の手間を取らせてくれたな」
◇
机の上に置かれたマグカップを手に取り、少し冷めたコーヒーを一口啜る。口内に広がる安物の豆の香りとほのかな苦みに脳が覚醒するのを感じながら男はペラリと紙面をめくった。
新聞の一面にデカデカと昨日の銀行強盗事件の記事が載っている。
新人ヒーローであるウィングのデビュー戦。若きヒーローニンジャボーイとコンビを組んでのその初任務は主犯格を逃すという失敗に終わったそうだ。
幸い死人や怪我人は出なかったそうだが、若いヒーローの実力不足が嘆かれると記事には書かれていた。
「・・・失敗ねえ」
男は少し残念そうに呟くと紙面をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に放り投げた。
世間の一般の意見では先の事件解決は失敗だという。結果として主犯格であるパワーは取り逃がしたモノの、銀行の金は盗まれず、人質にされた一般市民に傷一つ負わせなかったヒーロー達の評価は ”実力不足” だ。
護るということがどれだけ難しいかも理解していない一般市民はお気楽なモノだ。だからこそヒーローという正義の輝きは何よりも尊く見えるのだろう。
「・・・私は君たちヒーローが好きだ・・・だけどこんな腐った世界を君たちが護る価値なんてあるのだろうか?」
そう呟いた男の脳裏に少年の頃のトラウマが蘇る。
舞い上がる炎。
つないだ手を振り払った両親の後ろ姿・・・。
ズキリと顔の火傷跡が疼いた。
彼に取ってこの世とは形容しがたいほど醜悪に見えて、だからこそ正義を志すヒーローが何より輝いて映るのだ。
物思いにふけっていると扉の外からノックの音が聞こえた。
男は机の引き出しを開けて中から安物のハロウィンマスクを取り出すとそれを顔にかぶせて「入りたまえ」と入室の許可を出す。
「失礼します」
入ってきたのは男の最も信頼する部下、黒いフード付きのパーカーを身に付けた目つきの悪い男、ソードだ。
「やあソード。何かようかな?」
「・・・少し面倒な事態が起こりましたので指示を頂きに参りました」
「面倒な事態?」
ソードはコクリと頷くと男の元に数枚の書類を差し出した。
「我が組織が金銭面で支援していた武器商人が何者かに殺されたようです」
書類に視線を下ろすと、無残に引き裂かれた武器商人達の肢体が写っている。
「・・・この死体、マフィアの抗争に巻き込まれた感じじゃないね。鋭い牙や爪で引き裂かれたような跡が残ってる」
「ええ、こんな街中で大型の獣が野放しにされている筈がありませんので、おそらくは新手の能力者かと」
ソードの話を聞きながら書類をめくる。男は次の書類の文章を読んでピタリと動きを止めた。
「ここ数ヶ月で同じような死体がいくつか出ているようだね」
「はい、しかもそれら全て我が組織に関わる駒です」
「・・・なるほど。これは少し面倒だね」
どうやら組織に敵対する強力な能力を持った何者かが暴れているようだ。
「・・・ソード、君にいくつかの部隊の指揮権を渡そう。早急にこのふざけた野郎の正体を突き止めてくれるかい?」
「はっ、お望みとあらば」
その後いくつかのやりとりをして退室したソードの背中を見送り、男はマスクを脱ぎ捨てた。
その顔には激しい怒りの感情が浮かんでいる。
「屑が・・・ヒーロー以外がよくも私の手間を取らせてくれたな」
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