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 男の指が引き金にかけられてエマはギュッと目をつぶった。やってくるであろう衝撃と自らの死を悟って身を固くする。




「まだ拙者がいるでござる」




 気配も無く男の背後に立つニンジャボーイの黒装束を身に纏ったケイゴ。彼は男の身体に腕を回すと、グッと身体を密着させて柔道の大外刈りの要領で地面に叩きつけた。




「っ痛いわね!!」




 普通なら硬い床に叩きつけられて骨が折れても不思議じゃ無いほどのダメージを負っている筈なのだが、男は全くひるみもせずに密着したケイゴの肩を銃底で殴りつける。




 先ほどライフルで撃ち抜かれた傷口を的確に殴られたケイゴはうめき声を上げてよろよろと後ずさった。




 その隙を逃さずに素早くライフルを構えて発砲する男。




 しかし何故か先ほどまでその場にいたケイゴは忽然と姿が消えており、放たれた銃弾は虚しく壁に着弾する。




「どこに行ったの?」




 キョロキョロと辺りを見回す。




 不意に後方から放たれる殺気に振り向くと、刀を振り上げたケイゴが背後から襲い来る姿が見えた。




 回避も間に合わず、その一刃を身に受ける。




 斬られたのは右手。吹き出す血と遅れてくる痛みに銃を取り落とした。




「これで終わりでござる」




 喉元に突きつけられた刃の冷たさに、男は薄く笑った。




「やるじゃないニンジャボーイ。玉無しのガキかと思って侮ってたわ。どうやってアタシの背後を取ったのかしら?」




「能力 ”我が生は影のごとく”(シャドウ イズ マイライフ)。影を移動する我が刃からは逃れられぬと知れ」




 影から影へ移動する能力。




 一見非常に強力な能力に見えるが、移動距離と影の中に滞在できる時間は非常に短く、ここぞという時にしか使えないピーキーな能力だ。




「なるほど、良い能力ね・・・・・・今回はアタシの負けよニンジャボーイ」




 負けを宣言しながらその表情にはどこか余裕が見えた。




 何か違和感を感じたケイゴが口を開こうとしたその瞬間、突如外から装甲車が銀行のドアを突き破って中に乗り込んできた。




「何事だ!?」




 驚いて振り返ったケイゴ。




 手に持った刃からケイゴが意識を外したその瞬間に、するりと刃の拘束から抜け出した男は、突然の出来事に呆気にとられているケイゴを思い切り殴りつけた。




 尋常ではない膂力で殴られたケイゴは数メートルほど水平に吹き飛び、壁に激突して地面に落ちる。




「もっと遊んであげたかったけどお迎えが来たわ。じゃあねニンジャボーイ、また会いましょう!」




 そう言って去り際に投げキッスをして装甲車に乗り込む男。




 装甲車はそのままUターンをすると破壊されたドアから外に逃げていくのだった。



























 狭苦しい装甲車の中、乗り込んだ男は運転手に向かって片手をあげた。




「お迎えありがとねソーちゃん。ちょっと油断して危ないところだったわ」




 ソーちゃんと呼ばれた運転手・・・黒いフード付きのパーカーを身に付けた男は不機嫌そうな顔をして返事をする。




「ソードだ、ソーちゃんと呼ぶな。しかしパワー、新人のヒーローはお前が追い詰められるほどの奴なのか?」




 男・・・パワーはその問いに首を横にふる。




「いいえ、あの娘は一見派手な能力だけどまだまだひよっこね。アタシ達の脅威にはなり得ないわ。アタシが評価しているのはニンジャボーイの方よ」




「ほう? ボスの情報だとニンジャボーイは今まで大した功績をあげていないようだが?」




「そうね。でもあの判断力と能力はやっかいよ。恐らく今までもサポートしか出来なかったのでは無く敢えてサポートに徹していたと考える方が自然ね」




「・・・なるほど、お前がそう見たのなら正しいだろうな。ボスにはオレから伝えておく」



「お願いねソーちゃん。・・・それから警察が追って来てるけど逃げられるの?」




「それに関しても問題は無いな。我が組織の工作員が手を回している頃だろう」




「そうなのね、了解」




 会話を終えたパワーはそっと自身の腕に刻まれた傷跡を確認した。




 今までニンジャボーイが犯罪者の制圧に刃物を用いたという記録は残っていない。必要以上に怪我を負わせないという目的もあるのだろう。その戦闘はすべて素手で行われていた。




 パワーの耐久力を見て素手では制圧できないと判断してから刃を取り出すまでの対応の早さ、そして腕を斬り落とさんばかりに全力で斬り付けるその思い切りの良さ・・・。




「なかなか良い男じゃないのニンジャボーイ」




 ポツリそう呟いたパワーは顔を歪に歪めてペロリと傷口を舐めるのであった。










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