正義の方程式 ～ヒーローにあこがれた少年は気が付くと悪の親玉になっていた～

新手

　突然の新手の出現。




　しかしヒーローとして鍛え上げられてきたケイゴの動きは素早かった。今ヒーローとして優先すべきは撃たれた仲間の安否確認よりも敵の無力化。敵が銃器を所有している以上、再び銃口を人質に向けられるだけで形成が逆転する可能性があるからだ。




　敵が発砲したその一瞬で判断を下したケイゴは男の視線がエマに向いているその内に一気に距離を詰める。




「良い判断ね。でもアタシはそんなに甘くないわよ？」




　視線はエマの方向を見ていてもしっかりケイゴの位置も把握していたのだろう。駆け寄ってくるケイゴに不気味な笑いを見せると銃を構えた。




　銃口の向かう先はケイゴでは無く人質にされた一般市民達の方向・・・。




「まさか！？」




　迷いは一瞬だった。




　否、ケイゴのヒーローとしての信念がそれ以外の行動を許さなかったと言い換えてもいい。ケイゴは思い切りジャンプすると銃口と狙われた人質の間に身をねじ込ませ、自らの身を盾とする。




　銃が火を噴いた。




　放たれた弾丸は飛び込んだケイゴの肩を貫いて進路が逸れ、そのまま銀行の壁に穴を空ける。




　ケイゴが自分たちを庇って撃たれたのだと理解した人質たちが悲鳴をあげた。




「アーッハッハッハ！　大変ね正義のヒーロー様は。一般市民を護りながら戦うなんて縛りプレイをしながら悪党と対峙しなくちゃいけないんだもの。言い換えれば道歩いてる人全てがヒーローの弱点になり得るわ・・・ならアタシはまっとうな悪党としてソレを狙わない訳にはいかないわよねえ？」




　大声で笑い声をあげる男。




　そんな敵を睨み付けながらよろよろとエマが立ち上がる。




「あら？　今度はアナタが相手をしてくれるの？」




「ええその通りよ！　そのタイプの銃ならもう弾を装填しないと撃てない筈・・・私の機動力なら装填する間にお前をぶちのめせる！」




「・・・ふうん、じゃあやってみたら？」




　エマは駆けだした。




　片翼を撃ち抜かれたがコレは能力で生やした翼、普通のソレより何倍も頑丈に出来ている。確かに痛みはある、しかし無理をすれば動かせない訳では無い。




　エマは歯を食いしばり翼を大きく羽ばたかせて加速する。




　グンと縮まる両者の距離。しかし男に自身の銃弾を装填するような気配が無かった。エマのスピードを見て装填は間に合わないと判断して迎撃に徹するつもりなのだろうか？　しかしそれにしても余裕な表情が気になるのだが。




（・・・いいえ、関係ないわね。私はただ、コイツをぶちのめせばいい！）




　翼の推進力で加速した勢いをそのままにオカマの腹部に向けて蹴りを叩き込む。しかし足に伝わってきたのは鋼のような硬質な感触。ピクリとも動かないその巨体に驚愕していると男がニヤリと口角をつり上げた。




「何かしたかしら？　まったく効かないわ」




　そして手にしていた銃を振り上げると銃底で強かにエマの足を殴りつける。




　ボキリという嫌な音と供に足の骨の折れる感触。エマはあまりの痛みにその場に倒れ込んだ。




「情けないわね。そんなんでヒーローを名乗るとか笑えるわ」




　そう言うと男はまるで動けないエマに見せつけるかのようにゆっくりと目の前で銃弾の装填を行う。




　そして意地の悪い笑みを浮かべながら銃口をエマの頭に突きつけた。




「死になさい。ヒーロー気取りのお嬢ちゃん」