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ヒーロー

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 超能力って奴が珍しくもなんともない、普通の存在になったのはいつの話だっただろうか。それは突然多くの人類が何の予兆も無く能力に目覚め始め、一時期世の中はパニックに陥った。




 しかしそのパニックは長くは続かなかった。




 何せ多くの人が持っている超能力ってのが、サイコキネシスだとかテレポーテーションだとかいう派手な能力なんて持って無くて、身体の色を変える事ができるだとか、地面から数センチ浮かぶことが出来るだとか・・・ソレはどこで使うんだ? ってな具合の微妙な能力しか持っていなかった。




 そして多種多様な超能力を、この世界は図々しくも、未だに正常運転って具合にこの異常事態を飲み込んでしまった。




 これは、そんな異常な世界で生きる超常の力を持つモノ達の物語・・・。
























「近寄るなぁ! この女がどうなってもいいのか!?」




 そう言って周囲の警察を威嚇するのは、パーカーのフードを深く被った男。男は左手で女性を拘束しており、彼女の首元には鋭い刃が突きつけられていた。いわゆる人質というやつだろう。




 よくあるような普通の犯罪者の光景、しかしその人物が普通と違うといえる点が一つ。人質の女性に突きつけられている刃は、その男の右腕が変化した姿だったのだ。




 超能力者。




 一般人が通常持っている、使いどころのわからないような能力と比べて、男の持つ能力はエラく物騒で、戦闘向きなモノだ。その力をアピールすれば警察でも軍隊にでも良い待遇で就職できただろうに・・・何が男を犯罪者にしたてあげたのだろうか。




 男の目はギラギラと怪しい光りを放っており、今にも警察の制止を無視して人質の女性に危害を加えかねない危うさを持っている。




 周囲を取り巻く野次馬がざわざわと騒ぎ出す。




 誰かこの女性の命を救える者はいないのか。皆がそう願った時、その男は現れた。




「助けを求める声が聞こえたとき、ヒーローはそこに現れる!」




 腹に響くようなバリトンボイスが聞こえ、どこからともなく宙から下りてきた男が犯罪者の目の前に着地する。




 身長は目測で180センチ以上。プロレスラーのように鍛え上げられた筋肉の鎧を黄色の全身タイツが包み込んでいる。




 顔には厳ついサングラスと輝く太陽のような笑顔。




 奇妙な事にその男は靴を履いておらず、ゴツゴツとした無骨な素足が顔を覗かせていた。




「ミスターT、ここに参上!」




 男のその名乗りに周囲の野次馬がワッと沸き上がる。




 ヒーロー。




 それはごくまれに存在する強力な超能力を持って生まれた人間が、同じく強力な能力を有する犯罪者に対抗するために組織された正義の集団。




 弱きを助け強きを挫く。




 ヒーローはまさに正義の体現者なのだ。




「ヒヒッ、来やがったかヒーロー! でもどうするよ? それ以上近づいたらこの女の命はねえぞ?」




 男はせせら笑って人質の女を見せつける。刃に変化した右手がギラリと凶暴に光った。




「それは問題ないでござる」




「・・・あん?」




 突如背後から聞こえた声に振り返った男は、至近距離から飛んできた拳に顔面を強打される。




 鼻血を吹き出し、殴られた衝撃で人質を手放してしまった男。




 自由になった人質を抱えて、風のような素早さでその場から離脱するのは黒の衣装に身を包んだ小柄な男。




「ニンジャボーイだ! ニンジャボーイが人質を救出したぞ!」




 周囲の人間が歓声をあげる。




 ニンジャボーイはミスターTとコンビを組んでいる東洋人のヒーローだ。全身を黒の装束で固め、影のように音も立てず移動するその姿はまさに忍者。




「さて人質もいなくなった。観念するんだな」




 ゆっくりと男に詰めよるミスターT。




 男はぶんぶんと首を振って気を持ち直すと、奇声を発してミスターTに襲いかかった。その両手は恐ろしく鋭い刃へと変化している。




「投降は無し・・・か。仕方ない、お前がそれを望むなら制裁を加えてやろう」




 襲い来る二本の刃に、ミスターTは短く息を吐き出すと右足ぐっと引きつけて上体を回しながら鮮やかな回し蹴りでソレを迎撃した。




 全てを斬り裂く鋼鉄の刃に対してあまりにも無謀な行動、しかし素足である筈のミスターTの蹴りは男の刃をへし折って、そのまま頭を加減して蹴り飛ばすと一気にその意識を刈り取った。




 ぐったりと地面に倒れる男に周囲にいた警察官がかけよるとその両手に手錠がかけられる。その様子を確認したミスターTは右手を大きく振り上げると勝利を宣言した。




 歓声が巻き起こる。




 誰しもがヒーローの姿に酔いしれ、その正義に敬服したのだ。














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