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水紀の夢

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「ひゃあっ」

 いきなり胸をつかまれて水紀は悲鳴を上げて逃げ、振り返る。

「ふうむ、先月より三ミリの成長を確認……これが成長期……何処まで成長するのだ」

 犯人は胸を掴んだ両手をワキワキと動かしながら、驚きの表情を見せつつ分析を呟く。

「何するのよ美佳!」

 水紀の胸を掴んだのは、ウェーブしたセミロングを持つ同級生の美佳だ。

「おはよう水紀!」

 水紀に睨み付けられても意に介さず、先ほどまでの深刻な表情を取り払い笑顔で手を上げながら挨拶をした。
 真面目でおしとやかと言われる聖女子学園に通っているが、どこかやんちゃなギャルのイメージがある。
 そして隙あらば毎日行う過剰なスキンシップを水紀に炸裂させる。

「いやー、今日は久々にチャンスがあったからつい」

「うう」

 美佳の言葉に水紀は言い返せなかった。考え事をしていて油断したのは水紀でありセーラー美少女戦士としてふがいないからだ。

「あ、そうそう、昨日貸してくれたノート返すよ。サンキュ」

 悪びれもせず美佳は鞄からノートを取り出して水紀に渡した。

「もう、たまには自分でやってよ」

「あはは、今度やるよ」

 その今度という言葉が中学時代から続いていることを水紀は指摘しなかった。

「ところでどうしたの? 何か悩み事? 顔が暗いよ」

 久方ぶりにセクハラできた理由、水紀が何か考え事をしていると美佳は理解しておりなにがあったか尋ねた。
 タイプの違う二人だったが、そのため互いの弱点を補い合っているため仲が良い。
 真面目で考え込みやすくなかなか動かない水紀に対して楽天的で強引な美佳が引っ張る。
 時に孤独になりやすい水紀に声をかけてくれる美佳は水紀にとってかけがえのない存在だ。

「相談事や悩みなら聞くよ」

 人に少し話しにくいことでもこうして切り込んでくれる美佳は水紀にとってちょっとした救世主だった。

「実は登校途中で他の人の結婚話を聞いて」

「うらやましくなったと」

「うん」

 少し恥ずかしそうに話す。
 話の途中で学校に着いた二人は靴箱で上履きに履き替えて教室へ向かう。
 二人は階段で話を再開した。

「結婚か。あたしはイケメンで金を持っている人ならいいや。不自由したくないし、キモい顔見て一生過ごしたくないし」

「もう美佳ったら」

「理想くらい高くても良いっしょ。で、水紀はどうなの? 現実とか考えずにこんなの良いなって言ってみて」

 教室に着いた水紀は自分の席に座り、その前が席の美佳は椅子の背もたれに腕と顔を乗せて尋ねる。

「……優しい旦那さん」

 ぽつんと水紀は話し始めた。

「ほほう、どんな風に優しいのですかな」

 美佳は目を細めて水紀に尋ねる。
 尋ねられた水紀は子供の頃、セーラー美少女戦士アクアになる前の夢をゆっくりと記憶を辿るように思い出す。

「私を優しくしてくれる人、愛してくれるのお嫁さんになって幸せな生活を営みたいな」

「どんな風に?」

「うーん……胸に私がすり寄ると撫でてくれる」

「ほほう、頼りがいのある強い人ですか」

「うん、まあね」

「身体の細い水紀だけど、縋るんなら胸板は厚くて大きい人が良いよね」

「うん」

 美佳は巧みに水紀の望みを聞き出す。

「あと私の事理解してくれる人がいいな」

「水紀のこと理解できる人なんてそんなにいないよ」

 学年トップの成績の水紀に並ぶ男子はいなかった。
 そのため、高峰の花と見られており、なかなか水紀にプロポーズする勇者はいなかった。
 時折、勘違いした馬鹿が目立つためにプロポーズしてくるが、当然却下だ。
 逆恨みしてくる奴もいるが、セーラー美少女戦士として鍛えた動きで投げ飛ばし、黙らせている。

「ううん。そう言うのじゃ無くて、私がしたいなと思うことを察してしてくれる人」

「うわあ、尽くさせるんだ。尻に敷くタイプ」

「そんなこと無いよ。私も尽くすもん。それで平等だもん」

「だとしたら水紀が尽くしたくなるような人だね。どんな人?」

「やっぱり優しい人で強い人かな。その人を支えたいの。その代わり、私の事も支えて欲しいの」

 巧みな話術で水紀の話を引き出しニヤニヤと見ながら聞く美佳だがセーラー美少女戦士として戦うの日々の中で忘れていた子どもの頃の夢を水紀は思い出した。

「そんなこんなで毎日、私の元に来て優しくしてくれる人がいいな」

 と水紀は呟きついには美佳に聞かれるまでも無く夢想したことが口から出ていた。
 口にするたびに心が穏やかになっていく水紀。
 日々の戦いは過酷で、もしかしたら怪人の手によって葬られるかもしれない。
 継承した先代のセーラー美少女戦士は無事に引退したが、何人ものセーラー美少女戦士が戦いに倒れ散っていき、何人かは怪人によって掠われた。
 無事に戻ってこれる保証の無い戦いに身を投じるアクアは何時しか未来を夢見ることを止めていた。
 だがそれは心の中に澱のように溜まり、燻っていた。それが美佳の言葉であふれ出していた。

「うんうん、いいね。でも、水紀って初対面におも容赦ないからな。出会った瞬間にダメ出しするね」

 水紀にプロポーズした男子の中には本気で付き合いたいというのもいた。
 だが成績優秀者である水紀からすれば低レベルで話にならない。それに日々セーラー美少女戦士として生死の境を戦い続ける水紀からすれば男子高校生など弱い存在でしかないため付き合いたいと思えなかった。

「それでも付き合えるのはそれでも懲りずに何度もアタックしてくる根性のある奴だな」

「確かにそうかもね」

 不本意ながら水紀は美佳の意見に同意する。
 こうして美佳と仲良くなったのは、学年成績トップの水紀のノートを狙った美佳が執拗にアタックしてきたからだ。
 最初こそ断っていたが根負けした水紀が貸しはじめ、やがて思ったよりも気が合うことを知って仲良くなったのだ。
 スキンシップが過剰だが、こんなことができる相手は美佳だけだった。

「理想の旦那様、現れないかな」

 遠い目をしながら言う水紀。
 そのとき、校庭に異変が起きた。

「な、何あれ」

 突然校庭に現れた黒い影を美佳は指さす。
 水紀がその方向に目をやると異世界との通路となるゲートが開いて、そこから鎧姿の怪人二人が現れた。
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