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侵入者

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「もう、なんで行っちゃうのよ」

 三度目の交わりの直前、警察長官からの呼び出しで翔は急いで報告書を纏めて出て行った。
 メールで報告すれば済むのに直接報告を求められたためだ。
 自分が大事では無いのか、パラダイムが滅びたのだからゆっくりでも良いのではないかと晶は思った。
 しかし、今後のエーテル研究の事と既にパラダイムが滅びたことを報告するためにも行かなければならない。
  エーテルの研究者である翔は研究の最前線に立つ為に、様々な準備や交渉を行わなければならない。そのためにパラダイム捜査で培った経験や技術を上層部に発表し地位を固めないといけない。
 晶もそれは理解していたが、ようやく愛し合えたのに途中で中断されるのは納得出来ない。しかし、翔の将来の為と自分に言い聞かせて、不承不承に翔との性交を中断した。
 翔はベッドから晶を残して起き上がるとデスクで報告書を書き上げシャワーを浴びると出て行ってしまった。
 晶は出て行くまで翔を目で追いかけ続けた。

「はあ、私もシャワーを浴びようかな」

 ベトベトになった身体のままでいた晶は部屋を出て通路を歩く。
 身体を清めなかったのは翔と一体に慣れた幸福感を少しでも長く味わいたかったからだ。

「っ」

 初めてで付いた傷口にインナーのハイレグが歩く度に食い込み痛みが走る。
 しかし、それが翔との絆に思えて嬉しくもあった。
 身体も洗いたくなかったが、翔に臭いと言われるのと流石に後輩のミーネに見られたくないのでシャワー室に向かう。
 晶がシャワー室に通じる通路を曲がろうとしたときだった。
 全ての感覚が敏感になっていた晶の耳に前の方から足音が聞こえてきた。
 ミーネかと思ったが二人以上歩いているから絶対に違う。翔は既にこの施設を出ていて帰ってきた様子もない。

「侵入者!」

 ジャスティスセイバーの施設はエーテルの機密防衛とパラダイムの襲撃に対応出来るように設計されている。
 無数の警備装置と迎撃装置が無人で稼働する警戒厳重なシステムで晶でさえ、このシステムを突破するのは骨が折れる。
 なのにこの施設に警報を鳴らさずに密かに侵入者が入り込んだのは晶には信じられなかった。
 だが、実際に複数の人間が通路内に存在しているのは確かだ。
 晶は曲がり角まで音もなく歩いて行き、侵入者が間合いに入ったのを見計らうと通路に躍り出る。
 手に荷物を持っていたこともあり晶は不審者二人を奇襲。
 エーテルが十分に身体に満ちていたこともあり、晶は変身せずに常人以上の力を出すことが出来た。お陰で、それぞれ時間差で腹部に左右の拳を入れて気絶させて制圧した。

「パラダイムの女戦闘員!」

 倒してから床に倒れた侵入者が、全身タイツに白の防具を身につけたパラダイム女戦闘員であった事に晶は気が付き、戦慄した。

「残党が残っていたというの」

 だとしても侵入時に警報が鳴らないのはおかしい。
 晶達でさえギアを付けて正規ルート以外から侵入しようとしたら、警報が鳴ってしまう。
 なのに施設内に侵入し悠然と歩いていたのはおかしかった。

「そういえば治療の為に何人か連れてきているって言っていたわね」

 改造されたパラダイムの戦闘員を元に戻すための研究を、この施設でも行う事になっていた。
 そのために何人かこの施設に送られてきている。
 その治療と受け入れおよび管理を担当しているのはミーネ一人だ。
 治療が終わったという報告は受けていない。
 元に戻す治療法の開発から行わなければならずかなりの日数が掛かる事が予想されており、回復して動けるはずが無い。
 洗脳を解くにも時間が掛かり、一日で自分の意志で動けるはずが無かった。
 つまり、この女戦闘員はパラダイムの支配下で動いている可能性が高い。

「ミーネ!」

 自分の妹のような後輩が危ないと思った晶はミーネの居るラボに向かって駆け出した。
 入り組んだ施設の通路を掛け抜けてミーネが居るはずのラボへ向かって突進する。

「ミーネ! 無事! 大変なのよ、施設内をパラダイムの女戦闘員が徘徊している」

 扉を勢いよく開け中に入ると晶は叫んだ。だが直ぐに絶叫に変わった。

「ミーネ!」

 目の前で椅子に座ったミーネを囲むようにパラダイムの女戦闘員が数人立っていた。

「ミーネから離れなさい!」

 ミーネが捕まって仕舞ったと思った晶は直ぐにギアを装着するとパラダイムの戦闘員に向かって走った。
 不意の攻撃で手前にいた女戦闘員の二人は晶の拳によって制圧。
 更に二人を制圧する。

「この!」

 ミーネを守ろうという強い意志から身体の中から力が湧き上がり、晶は次々と戦闘員を倒していく。
 女戦闘員達も晶に対抗しようとするが、先ほど翔によってエーテルの量を増大させた晶には簡単に倒せる相手だった。
 一分もしないうちにラボの中にいた全ての女戦闘員を倒してしまった。

「ミーネ、無事だった?」

 全ての女戦闘員を制圧して晶はミーネを見た。
 拘束された様子も無く怪我がないようだった。
 安心した晶はミーネに近寄って抱きしめた。

「先輩」

「ミーネ」

 晶はミーネが無事だったことが嬉しくて強く抱いた。

「なんて事してくれたんですか」

「え?」

 だが、ミーネから返ってきた言葉は冷たいものだった。
 思わぬ言葉に晶は固まってしまう。

「まだ準備出来ないのに、ドクトルから奪い取ったパラダイムの機材の準備が出来ていないのにどうしてきてしまうんですか。配下の女戦闘員まで気絶させて、これじゃあ準備が遅れてしまいます」

「ちょ、ちょっと、ミーネどうしたの。落ち着いて」

 何を言っているのか晶には理解できなかった。
 今までは愛らしい後輩だったのに豹変したように晶を責め立てる。
 そのため、晶は制止する言葉を言うだけで精一杯だった。

「どうしたのって、先輩を改造するための準備に決まっています。落ち着いて? 出来ませんよ邪魔されたんですから。もう、邪魔しないで下さいよ。準備が整うまで待っていて下さい」

「え、どういう」

 ミーネの冷たい声が響いた、幻聴かと思った瞬間、晶の身体に電撃が入り、気を失った。
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