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クッキーの味見

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 天宮神社の社務所の裏にある一刀達の家。その台所の一角に玉兎は立っていた。
 いつものバニーガール姿ではなく室内着にエプロンというラフな格好だ。
 一刀と雅も同じように室内着にエプロンという姿で玉兎の前に立ち、その時を待つ。

「出来たのじゃ!」

 電子レンジがチンと鳴って玉兎は歓声の声を上げると共に扉を開く。
 中からは熱気と共に甘い香りが漂ってくる。

「慌てるなよ。火傷するぞ」

 玉兎が興奮のあまり手で触れないように一刀は間に入って、器具を使ってクッキーの載った鉄板を取り出す。
 鉄板の上には一刀、雅そして玉兎が作ったクッキーが焼き上がっていた。

「美味しそうじゃ」

「まあ、クッキーは簡単にできるからな。しかし、一から作り出すなんて」

「したかったのじゃよ。学校では自分で作った生地を使えなかったのじゃ」

 学校の調理実習だと生地を寝かせている間授業が中断してしまうし時間が無い。そのため前の時間に別のクラスが作った生地を利用して行う。
 そのことが心残りだった玉兎は最初から自分で作ったクッキーを作りたいと言って来て家で作ることになった。

「ふふ、玉兎も案外子供なのね」

 一緒に作っていた雅が微笑ましく笑う。

「うむ、其方と雅と一緒に暮らし始めてからまだ間もない。三人での思い出が少ないので少しでも多くのイベントを作りたいのじゃ」

 玉兎の屈託のない言葉に一刀と雅は頬を赤くする。
 いつも傲岸不敵な笑みを浮かべ見下すような態度なのに、ここ最近は二人に対して甘えるような仕草をする。
 二人と一緒に生活するのが好きなようだ。

「ほれ、其方よ、食べてみよ」

 少し冷めて手で持てるようになったクッキーを玉兎は摘まむと一刀に向けて差し出した。

「いや、自分で食べるよ」

「ほれっ」

 遠慮して自分で取ろうとした一刀に対して玉兎はクッキーを突きつけるように差し出す。有無を言わず食べよという意志が、玉兎の瞳に強く輝く。
 段々と眉間の眉の間隔が狭まりつつある。
 その迫力に一刀は抵抗出来ず、口を開けてクッキーを半分ほど囓って食べた。

「うん、美味しい」

 焼きたての香ばしい香りと甘さが口の中に広がり、一刀は顔をほころばせた。
 料理をするのは良いものだ。

「残りも食べるのじゃ」

 玉兎は手に残った部分を差し出して食べるように促した。
 しかしクッキーの部分は少なくこのままでは玉兎の指まで食べてしまいそうだった。
 だから一刀はクッキーの箸を摘まむように噛んで引っ張り出そうと口を開きクッキーに近づける。
 その瞬間、玉兎は手を前に動かして指ごとクッキーを一刀の口の中に入れた。
 そして指を動かしてクッキーを一刀の歯に押し付けて砕き、食べさせた。
 そこまでにする予定だったが、口の中の感触が蠱惑的で玉兎は指を動かして上顎を撫でたり舌を絡ませたり、挟んだりして、一刀の中を堪能する。
 指をぬくとき丹念にクッキーの欠片を舐め取る一刀の舌が玉兎には名残惜しかった。

「うむ」

 涎で光る自分の指を自分の唇に当ててその感触を玉兎は楽しんだ。
 その仕草に一刀はドキリとする。
 雅と一刀が昔からの幼馴染みで、まだ家に馴染まない一刀に雅が料理を箸で摘まんで差し出した、いわゆる<あーん>をして一刀と心を通わせた、と。
 その話しを聞いた玉兎は羨ましくなり自分でもして見たかった。
 今日、クッキーを作りたいと言ったのは玉兎自らの手で一刀に食べさせるためだった。
 その時玉兎は悪戯心で一刀の口の中に指を入れる事を思いつき、実行したが中々良かった。
 色々と試してみるものだ、と玉兎は思った。

「むーう」

 だが雅にはそれが面白くなかった。
 確かに玉兎から料理の相談を持ちかけられていて、お膳立てはした。しかし指まで入れるのは聞いていない。この時思いついて試しにやってみただけだったのだが、普段の言動から雅は玉兎が最初から企んでいたと思い込んでしまった。
 玉兎は大切な存在だが、一刀を譲るつもりは無かった。
 二人で愛する事は決めているが、独占させるつもりはない。
 だから雅は鉄板の上のクッキーを一つつまみ上げると一刀に声を掛けた。

「一刀」

 玉兎の好意に放心状態だった一刀を振り向かせると、目の前で持っていたクッキーを口に咥えて一刀に向かって突き出す。

「!」

 雅の今まで行ったことのない行為に一刀は驚いた。
 普段大人しい雅では考えられない。
 だが、雅は元から情熱的で子供っぽい所がある。
 学校で玉兎に意識を乗っ取られたとき、一刀にクッキーを口で咥えて差し出しキスをしたという話を聞いて雅は強い嫉妬心を抱いていた。
 自分が行うのは勇気が無かったが、いま玉兎が一刀に行った行為を見て自分もと思い、実行に移した。
 一刀は戸惑った。
 だが思い詰めたような表情と、受け容れて欲しいと懇願する表情が混ざって、潤んだ瞳で雅に見つめられると拒むことは出来なかった。
 一刀は差し出されたクッキーを口に入れてそのままキスをした。
 かみ砕いたクッキーの甘い香りと共に雅の舌が入ってくる。
 口の中に付いたクッキーの欠片を取り除くように雅の舌は一刀の口の中を丹念に舐め上げて行く。
 雅の体液と混ざったクッキーはより甘くより香ばしくなり、一刀は少しずつ飲み込んでゆく。

「ぷはっ」

 長いキスの後、ようやく二人の唇は離れた。
 雅はようやく自分の望みを叶えた満足感と達成感の快感に酔ったが、直ぐに冷めて羞恥心が広がり、顔を真っ赤に染める。

「部屋に戻ってクッキーを食すとしよう」

 玉兎がそう言っていなければ、二人は何時までも台所で立ち尽くしていただろう。
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