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離別編2

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「一体どうしたんだよ雅は」

 自分の部屋に戻った一刀は悶々としていた。
 先ほど雅に声を掛けて、愛撫しようとした。
 やましい気持ちはない。
 雅は身体の中に妖魔である玉兎を封印しており、その封印が弱まると意識を乗っ取られてしまう。
 そうならないように定期的に愛撫して精気を雅に送り込み維持するのだが、それを雅は拒否している。
 少し無理矢理抱き寄せたが、舌を噛まれて強く拒絶されてしまう。

「全く良いのかよ。封印しなくて」

 雅の事を思ってだが、同時に寂しさを感じる。
 封印されている玉兎は協力的な妖魔で雅を乗っ取っているときも協力的な事が最近は多い。
 協力して他の妖魔を討滅する事もあるため、最近は玉兎に対して一刀は悪感情を抱いていない。
 それどころか再封印するとき交わるため、肌を合わせることが多く心身共に嫌っていない。
 玉兎を封印したままで良いのか、だが入れ替わると雅の意識は封じられてしまう。
 どうするべきかと一刀は考え込えて、答えが出ずにベッドの上で悶えていた。
 その時、部屋のドアが開いた。
 入って来たのは、先ほど別れた雅、では無かった。
 吊り上がり気味の切れ長の瞳に挑発的な物腰。

「……玉兎か」

「うむ」

 小さく頷いて肯定した。同じ身体なのに、意識が文字通り変わるだけで雰囲気も変わる。

「どうしたんだ?」

 ただ、いつもなら妖艶で傲慢な笑みを浮かべて嘲笑うのだが、この日は口をキュッと閉じていつになく真剣だった。
 だから一刀は玉兎に尋ねた。

「妾と共にデートに行け」

「急だな」

「女子の用事は急なものじゃ。それに応えるのが男の子というものじゃ」

「そういうことか」

 一刀は自嘲気味に笑うと、準備を整え玉兎の手を握って部屋を出て行った。
 玉兎を封印するために彼女の身体に精気を注入する方が、今の雅を相手に注入するより効率が良いと判断して一刀は付き合うことにする。
 何より、雅と喧嘩してしまって気分転換がしたかった。
 妖魔と出て行くのは気がかりな部分があったが、それ以上に最近肌を重ねることで気心を知り始めた玉兎と一緒に居たいという思いが勝った。



 天宮神社を抜け出して、電車に乗って、近くの町まで行く。
 人里と山の境界線に位置する天宮神社から一寸電車に乗って行き終着駅まで行けば少し建物が多い地方都市も一刀達にとっては大都市だ。
 最近はショッピングモールが出来たので、そこをデートの目的地にした。
 その中の一軒の洋服店に玉兎は入っていった。

「あら、玉兎さん、いらっしゃいませ」

「久しぶりじゃのう」

 入っていったのは前に知り合ったファッションデザイナーの女性だった。
 洋服店経営のために良くない筋に借金をして彼等が撮る女性ポルノの衣装を製作していた。
 それを玉兎が成敗し、彼女を解放した。勿論都合の良いように記憶を改竄しているが、玉兎は彼女の服を気に入って、その後も度々訪れて服を買っていた。
 因みに服の購入代金は成敗した悪党が溜め込んだ金を奪ったものである。
 因みに服の良さが評価されて人気店となり、ショッピングモールに移動してきた。
 それでもファッションデザイナーの彼女に執って玉兎はかけがえのない恩人だった。

「さて、何か良い服はないかのう」

「でしたら、玉さんの為に作った新作があります」

 そういうと二人は店の奥に入っていく。そして一分もしないうちに玉兎が戻ってくる。

「どうじゃ」

 出てきたのは女王様だった。
 革の首輪からベルトを下ろしショルダーオフのレザーボンデージを吊り上げている。
 正中線に沿って金具の付いたベルトで身体を締める。艶やかで妖艶な黒光りを放つ黒レザーにハイレグカットから出てくる長い足の白い肌が対照的だ。
 編み上げたロングブーツとロングローブも黒いレザーで繊細な技術で縫製されたため玉兎の身体にピッタリ密着する。
 そして、右手に持った長い鞭を持って、見下すような切れ長の吊り目に諧謔の光を放ち、見下すように口端を歪める姿は完璧に決まっていた。
 思わずその姿に土下座して服従したいという思いを一刀に抱かせるには十分なくらいにピッタリだった。

「いかがでしょう」

「気に入ったぞ、これを貰っていこう」

「このまま買い物に行く予定だろう」

「似合っとるじゃろう」

「だからってそのまま来て外へ行くな!」

 そのまま出て行こうとした玉兎に一刀は突っ込んだ。



 結局、普通の服装が良いと言うことで、白のパンツに、黄色いシャツ、薄手の白い上着を購入してその姿で買い物に行くことにする。
 因みに先ほどのボンデージを含む衣装の一式は購入となり後日引き取る事になっている。

「さて、何処に行こうか?」

「アレに乗りたいぞ」

 玉兎が指さす先にあったのはショッピングモールのシンボルと成るべく作られた観覧車だった。

「そんなに混んでいないようだからいこうか」

 そう言って一刀は玉兎を連れて観覧車に向かった。

「見よ。高いところまで登っていくぞ」

「そうだな」

 カゴに乗ってから腕を絡めてはしゃぐ玉兎に一刀は困った顔をする。
 胸が腕に当たってその感触が心地よい。しかし、今は雅に変わって玉兎が操っているため、このまま一緒に居るのは二股では無いかと考えてしまう。
 しかし、身体は強烈に玉兎の身体を意識していた。漂ってくる女子特有の甘い香りもあって心臓の鼓動が早くなっている。

「ドキドキせぬか?」

 下から見上げるように一刀を見つめた玉兎は尋ねた。分かっていて尋ねているのが、一刀にも理解出来て、一寸反発する。

「しない」

「これほどの美女が横に居るのに?」

「しない」

 意地になって一刀はそう答えてしまった。

「ていっ」

 その一刀を見て玉兎は突然自分の手を一刀の両脚の間に入れて掴む。

「な!」

 興奮して立っている男の象徴を妖魔に操られているとはいえ女子が触れると、更に大変な事になる。

「ほほほ、ドキドキしておるようじゃのう。正直者の身体に免じて嘘は吐いた無礼は咎めぬぞ」

 ニヤニヤと笑う玉兎に一刀は黙ったままだった。



 その後も、二人のデートは続いた。
 映画館で恋愛映画を見たり、カフェでパフェを食べたりした。
 楽しい時間であり、雅との喧嘩を忘れて一刀の気は晴れて楽しく過ごしていた。
 そして楽しい時間はあっという間に過ぎて行き、気が付けば夕方だった。

「ふむ、妾は満足じゃ」

「それは良かった」

 夕日の中で笑う玉兎は本当に楽しそうで、一日を一緒に過ごした一刀も嬉しかった。
 ただ、このままだと雅が眠ったままなのでどうにかしないといけない。
 一刀は玉兎と天宮神社に向かい、その途中の人気の無い場所に誘った。

「ふむ、今日は其方に連れて行って貰ったのじゃからな。構わぬよ」

 一刀の考えを察した玉兎は言う前に承諾した。
 一刀はホッとすると共に玉兎との逢瀬を思い、身体が高揚する。

「その前に、其方に一つ頼みがある」

 しかし、その前に玉兎は寂しげに一刀に頼みを出す。

「どうした?」

「一度で終わらせず何度もして欲しい」

「おい、雅に負担を強いるつもりか入れ替わったらそれで終わりじゃ無いのか」

「いや、此度は違う。何度も入れて雅へ精気を際限なく入れて欲しい。そして」

 玉兎は一度言葉を切り、黙り込む。
 そして意を決するといつもの妖艶な雰囲気は無くなり、切れ長の瞳に強い意志を宿して悲しげに一刀に告げた。

「妾を消滅させて欲しい」
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