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全国大会編2

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「大丈夫かな」

 一刀は置いてきた雅が心配だった。
 最近は突然、何の前触れも無く玉兎と入れ替わる事が多い。
 自分が全国大会に出場している間に入れ替わらなければ良いが、入れ替わっていると一刀が交わって膣に射精しなければ再封印は出来ない。

「射精……」

 出発前のあの玉兎との一戦は凄かった。必要な事と言い聞かせているが最近は、それを楽しみにしている一刀だった。
 妖艶で蠱惑的な雰囲気を醸し出す玉兎は古より生きている妖魔のためか床上手で非常に上手い。
 自分の身体が蕩けそうだ。
 雅も悪くない。同い年の幼馴染みのため経験は少なく拙いが、一生懸命だし、こちらからリードすると顔が紅く可愛くなり、受け容れてくれる。
 同じ身体なのに意識が違うだけで反応も動きも雰囲気も全て違ってしまうのは面白い。
 気持ちの持ちようで人はあんなに変わることを一刀に教えてくれる。
 しかし、雅が肝心の部分まではまだ恥ずかしいのか許してくれない。
 三回に一回は許してくれるが、二回はダメだ。互いに許嫁で既に婚前交渉しているが、結婚していないことが障害になっているようだ。
 そのため封印を維持する為に必要な精気を雅に送ることが出来ない。
 度々玉兎の封印が解けて入れ替わるのはそのためだと一刀は思っている。
 しかし、受け容れて欲しいと思っている。

「どうするかな」

「めええええんんんっっっっっ」

 一刀が考え込んでいると裂帛の気合いを入れた掛け声が響いてきた。
 対戦相手が踏み込み竹刀を突き出し面を狙っている。
 一刀が気が付いた時には既に竹刀は目前だった。

「おっと」

 しかし一刀は半歩だけ右前にずれると竹刀の軌道から僅かに外れる。
 そして竹刀を少し下げて叫んだ。

「胴っ!」

 相手が突っ込んできたこともあり、綺麗に胴が決まった。

「一本!」

 審判と副審二人が一刀の方へ旗を揚げて一刀が一本を取った。
 三本勝負のため、再び開始位置に付いて互いに竹刀を構える。
 相手は型が基本を守って気合い十分だが、何処か気持ちだけが先走っている。
 いつも相手をしている玉兎に比べて余裕も色気も無い。
 玉兎は圧倒的な力を持っているが、バニーガールの淫靡な衣装を着ていてもその動きに隙は無い。隙があっても余裕があり、不用意に攻撃すれば簡単に反撃されてしまう。
 そんな相手と毎回命がけの勝負するのだから、スポーツの剣道で一刀が負けることは無かった。
 ルール違反や禁じ手という制約で負けることはあっても、生き残ることが最重要である実践とはそこが違う。
 それでも十分な実力を一刀は持っていた。

「始め!」

「やあああっ」

 審判の合図と共に試合相手が先に仕掛けてきた。
 しかし、先の一本で警戒しているのか踏み込んでこないため竹刀の先端で叩き合うだけだ。
 動きも力が入りすぎて堅くぎこちない。
 信じられないくらい柔らかく身体を動かしてくる玉兎に比べて幼稚だ。
 出発前におこなった一戦での腰の動かし方など自分の腰が抜けるのでは無いかと心配したほどだ。

「たああっ」

 一刀が玉兎との艶舞を思い出していると相手が籠手を狙って突き出してきた。
 しかし一刀は直ぐさま竹刀を振り上げて、避けるとそのまま前に突き進んだ。

「めえええんんんっっっっ」

 一刀は大声で叫び、相手の面に竹刀を叩き込む。

「一本!」

 再び三本の旗が一刀に揚がる。三本勝負で二本先取して一刀の勝利が決まった。

「危ない危ない」

 一礼して控え室に静かに戻る一刀。剣道は礼儀の武道であり、軽はずみな挙動は罰の対象だ。
 試合に勝っても一礼した直後、軽くガッツポーズをしたのを見とがめられて、勝利を取り消された事例があるほどだ。
 だから試合が終わった後も気を張っていた一刀だが、試合の最中に玉兎との情事を思い出してしまったのは危うい。
 置いてきた二人の事が気になっているのだ。
 勝った事を喜ぶ顧問の先生に適当に返事をした後、一刀は雅にスマホを掛けた。

『一刀、どうだった?』

「試合には勝ったよ」

 ワンコールで出てきた雅に一刀が報告すると彼女は大喜びで祝福した。

『おめでとう! それでこのまま勝てるの』

「明日、三回戦、準々決勝、準決勝、決勝がある」

 全国大会はトーナメント制で勝ち抜けてくのだ。
 そのため一回戦と二回戦の試合数は多く、初日は試合が少ない。後になるほど試合の間隔が詰まっていくのだ。

『一刀なら全部勝てるよ』

「ありがとう」

 ワザと負ける必要はない。全力を出し切ることが出来るので確かに勝負は付くだろう。
 しかし、まだ何処か一刀に心残りがあった。

「そっちはどうだい?」

『大丈夫だよ。あ、明日、近くで妖魔が出て私が討滅に行くことになった』

 突然の妖魔が出てきて討滅してくれという事は良くある。だから雅が残る事になったのだ。
 想定していた最悪の展開に一刀の不安は募る。

「今から戻ろうか?」

『ダメよ! 折角出たんだから優勝してきて』

「あ、ああ」

 雅に強く言われて一刀は弱々しく従った。
 本当は帰ってきてと言われたかった、そのことを望んでいる自分がいるのも確かだった。

『じゃあね。一刀が優勝するまでに私も討滅のお役目を果たしてくるよ』

「大会から帰ってきてからにしても良いんじゃないのか」

『無理、どうも急いで討滅しないと不味い妖魔みたいなの。だから明日中に討滅しなきゃ行けないの』

「そうか、無理するなよ」

『うん、一刀が全力を出せるように頑張るから』

 そう言って雅は通話を切った。

「不安だな」

 雅の言葉が空回りしているように聞こえる。
 一刀を安心させるために精一杯、背伸びをしているように感じられる。
 いっそこのまま帰ってしまおうかと考えたが、顧問の先生に声を掛けられて、機会を逸した一刀はそのまま宿泊先のホテルに向かった。 
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