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学校編2

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「結局、会話出来なかったな」

 一夜明けて一人登校する一刀は呟いた。
 雅は学校の部屋から出て行った後、先に帰ってしまい話す機会が無かった。
 今日も先に登校されてしまって雅と会っていない。

「教室まで話せないか」

 一刀は重たい足取りで自分が所属する剣道部の部室に入っていった。
 文武両道をアピールする国邑高校は全ての生徒に部活への参加を強制している。
 そのため一刀も剣道部に所属していた。
 学生の自主性による活動の筈なのに強制して良いのか。
 働き方改革が叫ばれる中、朝練を強要する部活動も改革の一環で見直した方が良いのでは無いかという思いがある。

「伊庭君おはよう」

「あ、先生おはようございます」

 顧問の先生に頭を下げて挨拶する。

「もうすぐ県大会だね。一本刀には剣道部のみならず高校の皆が期待しているんだ」

「ありがとうございます」

 一刀は剣道未経験者だが偶々割り当てられてしまって顧問をやっている先生に同情の念と共に笑顔で答えた。
 部の存廃は活動実績で決まる。運動部なら何かの大会に出て成績を残すことでアピールする。
 剣道部の場合は大会だが、国邑高校の剣道部は一刀を除いて強くない。
 一刀は妖魔討滅の役目で刀の扱いや身体捌きを習っており、例え有段者でも剣道家には負けない自負と実力が一刀にはある。
 そのため、剣道部の実績は現在、一刀によるものが大半である。
 一本刀という二つ名も、一刀が抜きん出た実力を持っているが、他の部員が弱いため一刀の実力が際立っているからだ。

「今年は頑張って優勝してくれよ」

「は、はあ。でもスタミナが無くて長丁場は苦手で……」

 一刀は気まずい笑顔で誤魔化そうとする。
 剣道が強い一刀は大会の上位入賞者常連だが優勝したことはない。
 団体戦は勿論だが個人でも準優勝止まりだ。
 何故なら優勝したら全国大会へ行かなくてはならず、天宮神社から離れなくてはならない。そうなると途中で討滅の依頼があったとき対応出来ない。
 だから一刀は県大会の決勝ではワザとバレないように力尽きたように演技をして負けている。
 卑怯かもしれないが、役目を果たすために仕方が無いと思っている。

「済みません。朝練で着替えますので」

 深入りさせないように一刀は話の途中で切り上げて逃げた。その時、胴着と袴、胸当てをした女子が駆け込んできた。

「一刀君!」

 駆け込んできたのは雅が所属している弓道部の女子だった。

「雅が朝練中に倒れて保健室に運ばれたよ!」



 雅が倒れたと聞いた一刀は直ぐに保健室に駆け込んだ。

「雅! 大丈夫か!」

 勢いよく入って中を見渡す。そして使用されているベッドに駆け寄り、横たわる雅の顔を見た。
 顔は安らかだった。血色は少し悪いが徐々に生気を取り戻していくようでほんのりと赤みが増している。
 雅が無事なことに一刀は少しホッとした。
 しかし、雅の目が開き、うっすらと細く切れ長のままな事に一刀は不安を抱き、強気な光が宿ると確信に変わった。

「玉兎か」

「そうじゃ」

 口元に不敵な笑みを浮かべて玉兎は肯定した。
 雅の中に封印されている妖魔玉兎が再び現れた。

「どうして出てくるんだ」

「妾にも分からん。この娘の精気が弱っているだけだ」

「ならまた封印させて貰う」

「その時は、大声で先生とやらを呼ぶぞ」

 一刀は歯がみした。
 封印するためには濃い精気を雅の身体に送る必要がある。そのためには濃厚な接触、雅の膣内に精液を入れるのが一番だが、学校の保健室でやってバレたら退学、最悪逮捕だ。

「なら服を着替えるんだ。神社に帰って封印する。ほら着替えろ」

 一刀は弓道部の部員が持ってきたであろう雅のバッグをベッドの下から取り出して、玉兎に渡して着替えるように命じた。

「いやじゃ、其方達が通う学び舎に興味がある。案内いたせ」

 そう言って玉兎は一刀の目の前で胴着と袴を脱ぎ始めた。
 袴の結び目を解いてベッドの上に落ちると秘所を隠す白いショーツが現れ肌の上に映える。
 続いて帯を外して胴着の前が開くと豊満な乳房によって異様な形に引き延ばされたスポーツブラが露わになり、胴着が腕から落ちるとスレンダーながらも凹凸がハッキリした優美な曲線を描く裸体を露わにした。
 そしてゆっくりとセーラー服の袖に腕を一本一本入れて行き、頭を入れて妖艶な笑みをうかっベタ顔を出す。
 続いてスカートの端を指で摘まみ、長い足を入れてゆっくりと引き上げて行く。
 臍のしたまで上げると裾のファスナーを徐々に閉じて行きくびれた腰を包み込む。

「何やっているんだよ」

 いきなりベッドの上で行われた着替えショーをする玉兎に一刀は注意する。

「おお、すまぬの。今着けようぞ」

 そう言って一刀の目の前で黒いタイツを精気で成形し取り出してベッドの上で履く。
 細い足を伸ばして縮んでいるタイツをスラッとした足の先端を入れて引っ張り、足のラインを寸分違わず引き出すようにピッタリと履いていく。そしてスカートの裾をまくりながらショーツの上まであげると両手を離し、スカートを広げて自然に下りると足を組んでポーズを決めた。

「どうじゃ? 其方はこれが好きなのであろう」

「違う」

 いつもタイツを履かない雅だが、タイツ姿となり保健室にいるというのはギャップがあってくるものが一刀にはあった。
 大体精気でタイツを成形できるのなら、初めから履いた状態に成形している。
 わざわざ履いたのは一刀に見せつけ興奮させるためだ。
 実際一刀は玉兎がタイツを履く姿に興奮しており、それを認めるのはシャクなので、ワザと否定した。

「そうか、おお、妾としたことが忘れておった。其方はバニーガール姿が好みなのであろう。今姿を変えるから待って欲しい。それから其方のクラスに向かおうぞ」

「制服で向かってくれ」

 いつも玉兎の来ているバニーガール姿で行こうものなら、大変な大騒ぎになる。
 ライトノベルじゃあるまいし、現実の学校でやったら大問題だ。
 こんな状態で大丈夫かと一刀は目眩がした。
 そんな一刀を尻目に玉兎は案内を頼みながらスタスタと歩いて保健室を出て行く。

「お、天宮じゃないか」

 一刀が話している間に玉兎は制服を着崩した不良学生に声を掛けられた。

「いつも一緒に居る一刀と離れているな。捨てたなら俺と付き合えよ。今日はなんだか色っぽいしな」

 いつもの雅は、顔を俯けしずしずと歩いて行く静かなタイプだ。
 だが、玉兎は逆に肩で風を切り、背筋を伸ばして躍動感溢れる動きで歩いて行く。何より顔を上げて自信満々に、色気さえ漂う笑みを浮かべている。
 いつも数倍の魅力を放っており声を掛けられても不思議では無かった。

「まさか、あれほど良い男を捨てるはずなかろう。そもそも、お主のような猿と妾が付き合うなどあり得ぬ事じゃ」

 雅のいつもと違う口調に不良は、呆気に取られたが、自分が馬鹿にされたことは直ぐに分かった。

「てめえ、俺のことを馬鹿にしたな。落とし前はキッチリ付けさせてもらうぜ」

 不良は雅に掴みがかろうとした。

「笑止」

 しかし玉兎は嘲笑を浮かべると、半身だけ退いて腕を買わしそこへ自分の力を加えて、不良を下駄箱へ放り投げた。
 投げられた不良は目を回して気絶した。

「……先が思いやられる」

 脇で見ていた一刀は、更に目眩が酷くなり顔色が青くなった。
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