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鎌鼬編3

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 玉兎を前にして、その提案を一刀は拒絶した。
 巨大な光弾を生み出す黒い檜扇を持つ細く優雅な指先を生やしたくびれた手首。それらを二の腕まで包み妖しく黒光りするロングローブ。ファーから出る腕と肩の白く輝く肌。
 細いラインを描く身体から溢れんばかりに張り出し横乳を見せる豊かな胸と、くびれた腰に引き締まった尻を包む黒いレオタードは、際どいカットで秘所を隠しエナメル独特の照り返しを放つ。丸く白い尻尾がアクセントとなり、大きくカットされた太ももから伸びる足はタイツに包まれ、若鹿のような細い足を膝まである黒のロングローブに入れる。
 足首は細く、ヒールは気高さを表すように高く、つま先はピンと尖っている。
 その身体の持ち主の顔も険しいが切れ長の輝く瞳に長いまつげ。小さい口は自信満々に口端が上がり、眉は力強い弧を描く端正で迫力のある顔だ。
 髪は風になびくほど軽く滑らかで艶やかに光を照らし返す。長い黒髪は後ろで束ねられ、しだれ桜のように輝きながら垂れている。
 それらが作り上げた美の極致と醸し出す妖艶で淫靡な造形物の集合体が放つ神々しいまでの美が一直線に自分に向けられ、強大な力を放つ檜扇の前に立ちすくんでいた一刀の心を射貫いた。
 もし愛の告白なら一瞬で肯定を示したが、妖魔の僕など降魔を生業とする天宮神社の末席に連なる身としてはお断りだ。

「強がりを言うでない。妾の身体が好きなのじゃろう」

 玉兎は見下すように首を傾げ問いかける。
 その通りなのだが、男のプライドもあってか一刀は認める言葉を言わず、話を逸らす。

「どうして俺なんだよ」

「お主、この身体の女子を好いておるのじゃろう」

「ま、まあな」

「隠さなくても良い。お主に精気を貰ったとき、お主の女子への思いも妾に流れて来たのだからのう」

「搾り取ったくせに」

「それだけお主の身体が良かったのよ。そしてお主の身体もこの身体が好きであろう」

 その瞬間、玉兎は動いた。しかし突き出した檜扇だけはそのままの位置に留めたため一刀が気が付いた時には玉兎は一刀の目の前に居た。
 突然目の前に現れた玉兎に驚いていると背後から回った玉兎の左腕が一刀の左首筋をなで上げた。

「あうっ」

 淫靡な刺激が電撃のように一刀の全身に走る。前回の戦いで傷ついた後、玉兎に性感帯にされた部分だ。

「まだ妾の身体を覚えておるようじゃのう。こちらも覚えさせようぞ」

 そう言って目の前にあるカマイタチによって今回傷ついた右首筋の傷を玉兎は愛撫した。玉兎の精気が流れこみ、淫靡な感覚が全身に広がっていくのが一刀には分かった。

「巫山戯るな」

 一刀は右手を振り上げて玉兎を振り払った。

「ほほほ、ほんの戯れじゃ、むきになるな。ああ、傷は治したが礼などいらぬぞ」

 一刀は右の首筋を左手でそっと触れる。確かに傷は治っていたが全身に響く疼きが走る。
 こっちも性感帯にされて一刀は眉をしかめる。
 その様子を見て玉兎は笑いながら再び同じ位置に戻り、檜扇で口を隠しつつ話を続ける。

「何より精気の質じゃ。女子への思いが強いのか入り込む精気も質が良く美味じゃ。この身体と共にずっと味わいたい」

「そうか、ならいいぜ」

「ほほほ、そうして身体を開いて精気を送り込み女子の魂に注ぎ封印を復活させるのであろう」

「ちっ」

 前回再び封印に成功したのは、玉兎の身体に流れこんだ精気が雅の魂に注がれて封印の力が復活したからだ。
 今回も同じ事を一刀は目論んでいたが見抜かれていた。

「その点は妾も同じ轍は踏まぬ。交わりはダメじゃがキス程度での精気のやりとりならば大丈夫じゃろう」

 檜扇を閉じ、その先端を突き出した唇に玉兎は当てた。

「ああ、安心せい他にも方法が無いか試してみるぞ。お主好きであろう。どうじゃ、今一度尋ねる。妾の僕となれ」

「断る」

 再び檜扇を開いて突きつけてきた玉兎に一刀は強く言うと刀を構え直した。

「ほほほ、そう言うと思っていたぞ。ならば妾も力ずくで従えさせよう」

 玉兎は一刀に向けた檜扇を静かに上げ、自分の頭上に掲げると巨大な光弾を作り出した。

「命までは取らぬが、従うまで徹底的に調教するぞ。多少の傷を付けても精気さえ獲れればそれで良いのじゃからな。無傷では済まぬぞ小僧」

 光弾から放たれる光の中で諧謔な笑みを浮かべながら玉兎は一刀に言った。

「はあっ」

 玉兎、バニーガール姿の妖魔は檜扇から作り出した巨大な光弾を一刀に向けて放った。
 一刀は横に避けて躱して地面に伏せる。光弾が一刀の居た場所に着弾し巨大な爆発を起こして当たりに爆煙を広げる。その中に一刀は飛び込み、姿を隠す。

「ほほほ、隠れてもいずれ煙は晴れるぞ」

 高笑いをする玉兎に言われるまでも無く一刀はそんな事分かっている。
 だから隠れるのでは無く、煙に紛れて玉兎に接近するために利用するのだ。
 玉兎の右側から飛び出し刀を振り下ろす。

「くっ」

 突然現れた一刀に玉兎は咄嗟に檜扇を畳み刀を受け止める。
 やはり人間の身体になれていないようだ。人間の身体は腕を内側に曲げるのは得意だが、外に曲げるのは苦手な構造をしている。
 そのため武芸者は外側からの攻撃に対処する方法を学び研究している。一刀も降魔の修行の際に教えられ、理解している。
 幾ら古から生きていると言っても人間の身体に入ったばかりの玉兎が対応出来るはずが無かった。
 光弾を放てない程の至近距離に入り、一刀は何度も刀を振り下ろし玉兎の攻撃を封じる。

「ふん、愚かな」

 しかし、玉兎も途中から一刀の企みを見抜き、冷静に一刀の斬撃を檜扇で逸らして躱す。

「幾ら振り下ろしても斬るつもりは無いのじゃろう。女子を傷つけたくと思っておるのじゃからな」

「うっ」

 図星を指されて、一刀は振り上げた刀を一瞬止めた。

「甘いわ!」

 刀を手で握る柄の先端、柄頭に玉兎の檜扇が鋭く突き刺さった。攻撃前に力を入れるための予備動作で手が柄を握る力を抜いている瞬間を突かれたため、刀は一刀の後方に飛ばされた。

「これで攻撃出来るまい」

「貰った!」

 勝者のゆとりを見せつけようと玉兎が口を開いた瞬間、一刀が叫びそのまま突っ込む。
 この瞬間を玉兎は狙っていた。確かに刀で攻撃しても敵わないし、当たったら雅の身体が傷つく。
 ならば刀を使わず組み伏せればいい。
 また玉兎が現れて雅を乗っ取られた時、雅の身体を傷つけないように前の戦いから一刀はずっと考えていた。
 そして考え出した作戦が、刀を使った囮作戦だ。
 刀で攻撃して刀に玉兎の注意を向けさせる。そして刀を緩く持って隙を作り、刀を奪おうと接近するよう玉兎を誘い込み、成功させ油断させた時、更に近づいて組み伏せるのだ。
 武器を囮とし投げ捨てるなどで相手を誘導する技は神社で習っておりそれを一刀は応用した。
 突きを放って前に伸びきった玉兎の身体に正面から飛び込み抱きついた一刀は、彼女を地面に抑え込んだ。

「きゃっ」

「これで逃げられないだろう!」

 檜扇を持った右手を左手で掴み右手で身体を押さえ、右足を玉兎の両脚の付け根に入れて押さえつける。
 これで動きを封じた、後は何とか寝技に持ち込み、自分の精気を玉兎に注入するだけだ。
 強姦魔のような所業だが緊急事態であり致し方ない。雅も許してくれるだろうと心の中で言い聞かせ次の行動に入ろうとした。

「はううううっっっ」

 だが、突然目の前の玉兎が甘くか弱い吐息を吐き、険しかった眉と瞳のカーブは緩やかとなり愁いを帯びる。顔と頬はほのかに赤くなり、全身の力が融けるように抜けていく。
 檜扇を持つ右手も力を失い、細い指から零れ落ちる。
 罠かと思い、一刀が警戒し力を入れる。

「あうっ」

 すると再び玉兎が吐息を吐き、ぐったりと顔を地面に向ける。
 そこで本当に力が抜けていることを確信した一刀は改めて玉兎の全身を見渡す。
 すると身体、正確には肩あたりを抑えていると思った右手が、玉兎の左胸を鷲掴みにしていた。
 強く握った指は柔らかな白く輝く乳房に埋もれ、指の付け根はファーで包まれ、掌はエナメルの布地越しに小さな突起を受けて止めている。
 感じて居るのかか細く荒い吐息をする玉兎を見て左手の力を緩める。

「はうっ」

 力が抜けた衝撃で、快電が走り、再び甘い吐息を玉兎は吐き出した。
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