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鹿川裕樹
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疲れ切った男が深夜の街を歩いていた。
スーツはボロボロ、革靴はすり減っているうえ、靴下はヨレヨレ。
身体からは汗が乾いた匂いが漂ってくる。
顔は髪はボサボサで目元には黒いクマ。
三十代に見えてしまうかもしれない。
だが実際には二十代だ。
彼は不動産系の会社務める社畜、鹿川裕樹である。
深夜に帰るのは飲みの帰りだからではない。
サビ残をさせられたからだ。
日付が変わった頃に仕事がようやく終わり、会社をすぐに出た。
だが、アパートの最寄り駅近くへ行く終電を逃して、手前の駅までしか行けず、そこから歩いて帰る羽目になってしまった。
だから、夜中の二時頃の街を歩いていた。
「あーシャワー浴びれるかな。いや、もう眠たい」
昼間、酷暑の中を外回りさせられて疲れた身体でサビ残させられ、裕樹は疲れ切っていた。
「獲物見ーっけっ」
だから、襲ってくるものに気がつかなかった。
「!」
気がついた時には女性に組み伏せられてしまった。
いや女性ではなかった。
顔は確かに美人だ。
端正な顔立ちに眉は細く長く、獲物を狙うように褒めた切れ長の目。髪はショートカットで活動的。
はだけた着物から見える身体はなかなかのモノが付いておりラインも美しく、衣類の乱れもあってチラチラと見えて扇情的だ。
だが、夜でも分かるほど色白、疲れているとはいえ男を力尽くで押さえつける力。その証拠に裕樹の身長よりも高いところから被さるように襲いかかってきた。
「誘惑して路地裏に引きずり込む必要もないね」
そして、しゃべる時、口の中に見える、明らかに作り物でない鋭利な牙。
「な、何者なんだ」
「ああ、あたしは飛縁魔。男の生気や血を吸い取る妖怪だよ」
「血を!」
「ああ、安心しな。創作物のヴァンパイアみたいに同族にするようなことはしないよ。血を吸わせて貰うだけさ」
目を細め妖艶な笑みを浮かべながらしゃべる。
口から漏れる温かい息と、身体が密着した部分から伝わる色白な肌からは想像できないほど心地よい温もり。
そして、身体から放たれる甘い香りがサビ残でやつれきった身体と神経に電撃を与え裕樹の思考を活性化させ、混乱に陥れ、吸われるくらいなら良いかと思ってしまう。
「まあ、最近血を吸えなくて腹ぺこだから失血死するくらい吸い尽くして仕舞うかもしれないけど」
「や、止めてくれ」
失血死という言葉を聞いて、裕樹は慌てる。
飛縁魔の身体のお陰で覚醒した意識は明確に死を意識させられて恐怖に打ち震え、身体を動かして逃げ出そうとする。
だが、万力のような強い力で押さえつける飛縁魔からは逃げられなかった。
「嫌だよ。疲れ切って不味そうだけど、こっちも訳あってここ数日食えずに腹ぺこなんだ。血を吸わせて貰うよ」
「ひいいっ」
「って、食いたいけど見るからに不味そうだね」
顔をしかめながら飛縁魔は言う。
裕樹と密着して漂ってきた裕樹の体臭が、鼻を曲げ食欲を半減させた。
いくら行列が出来る絶品ラーメンでも男の汗が漂ってきたら食欲も失せるだろう。
「少しは、美味くした方が良さそうだね」
そう言うと、飛縁魔は掴んでいる裕樹の腕を引っ張り、自分の胸に押し当てた。
スーツはボロボロ、革靴はすり減っているうえ、靴下はヨレヨレ。
身体からは汗が乾いた匂いが漂ってくる。
顔は髪はボサボサで目元には黒いクマ。
三十代に見えてしまうかもしれない。
だが実際には二十代だ。
彼は不動産系の会社務める社畜、鹿川裕樹である。
深夜に帰るのは飲みの帰りだからではない。
サビ残をさせられたからだ。
日付が変わった頃に仕事がようやく終わり、会社をすぐに出た。
だが、アパートの最寄り駅近くへ行く終電を逃して、手前の駅までしか行けず、そこから歩いて帰る羽目になってしまった。
だから、夜中の二時頃の街を歩いていた。
「あーシャワー浴びれるかな。いや、もう眠たい」
昼間、酷暑の中を外回りさせられて疲れた身体でサビ残させられ、裕樹は疲れ切っていた。
「獲物見ーっけっ」
だから、襲ってくるものに気がつかなかった。
「!」
気がついた時には女性に組み伏せられてしまった。
いや女性ではなかった。
顔は確かに美人だ。
端正な顔立ちに眉は細く長く、獲物を狙うように褒めた切れ長の目。髪はショートカットで活動的。
はだけた着物から見える身体はなかなかのモノが付いておりラインも美しく、衣類の乱れもあってチラチラと見えて扇情的だ。
だが、夜でも分かるほど色白、疲れているとはいえ男を力尽くで押さえつける力。その証拠に裕樹の身長よりも高いところから被さるように襲いかかってきた。
「誘惑して路地裏に引きずり込む必要もないね」
そして、しゃべる時、口の中に見える、明らかに作り物でない鋭利な牙。
「な、何者なんだ」
「ああ、あたしは飛縁魔。男の生気や血を吸い取る妖怪だよ」
「血を!」
「ああ、安心しな。創作物のヴァンパイアみたいに同族にするようなことはしないよ。血を吸わせて貰うだけさ」
目を細め妖艶な笑みを浮かべながらしゃべる。
口から漏れる温かい息と、身体が密着した部分から伝わる色白な肌からは想像できないほど心地よい温もり。
そして、身体から放たれる甘い香りがサビ残でやつれきった身体と神経に電撃を与え裕樹の思考を活性化させ、混乱に陥れ、吸われるくらいなら良いかと思ってしまう。
「まあ、最近血を吸えなくて腹ぺこだから失血死するくらい吸い尽くして仕舞うかもしれないけど」
「や、止めてくれ」
失血死という言葉を聞いて、裕樹は慌てる。
飛縁魔の身体のお陰で覚醒した意識は明確に死を意識させられて恐怖に打ち震え、身体を動かして逃げ出そうとする。
だが、万力のような強い力で押さえつける飛縁魔からは逃げられなかった。
「嫌だよ。疲れ切って不味そうだけど、こっちも訳あってここ数日食えずに腹ぺこなんだ。血を吸わせて貰うよ」
「ひいいっ」
「って、食いたいけど見るからに不味そうだね」
顔をしかめながら飛縁魔は言う。
裕樹と密着して漂ってきた裕樹の体臭が、鼻を曲げ食欲を半減させた。
いくら行列が出来る絶品ラーメンでも男の汗が漂ってきたら食欲も失せるだろう。
「少しは、美味くした方が良さそうだね」
そう言うと、飛縁魔は掴んでいる裕樹の腕を引っ張り、自分の胸に押し当てた。
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