41 / 41
過去の真実
しおりを挟む
再び言葉を失う。今度は驚きでではなく、ただなんと言ったらいいのか分からなかった。思えば、私はラルフとまともに会話をしたことがない。なぜなら驚くほどに話が通じなかったから。
それが今、まともになったラルフともできないのだから笑ってしまう。いや、笑えはしない。
「エレナ様が旅立ったのち、私は父のコネで城へ就職しました。そこで知ったのです。あなたがまだ十歳やそこらで見て来た世界を」
いやいや、言い過ぎじゃない?子供の時からお城に出入りしてたって言ったって、私は別に政治に関わったりはしていなかった。ただ余りまくった魔力を魔石に込めたり、魔法省で魔法の研究のお手伝いをしたり、陛下とお茶を飲みながら少し難しい話をしたりしていただけ。
「私に言えたことではありませんが、あなたはずっと好奇心や悪意にさらされて生きてきたのですね」
おおかた、お城で私のことについて色々な噂話を聞いたのだろう。自分が噂の的になっていたことは知っていた。
カイの友達として当たり前のようにお城の中を歩くただの伯爵家の娘。魔力量・才能に恵まれ、唯一光属性を使い、全ての属性をも使える人間。そして第一皇子に嫁入り。目立つ人生だ。良くも悪くも人目につくし、噂になる。
まだ結婚する前。権力を持つ前、自分がなんと言われているかは大体分かっていた。だけど仕方のないことだったし、どうしようもできないから見て見ぬふり。
それは未だに続いていることでもある。私をよく思っていない人間は結構多いのだ。
「あのような酷い言葉の中、なんでもないように笑っておられたあなたがどんなにすごかったのか、ようやく気が付いたのです」
そしてラルフは「私もあなたを傷付けた一人ですが……」と目を伏せた。
うん、確かにラルフからも結構酷いことを言われた。気にしてはいないけど、忘れてもいない。
「……わたくしはラルフ様の目にはあまりに立派にうつりすぎたようですわ」
例えば、よくしてくれていたお城の使用人が、影で私を悪く言っていた時。
例えば、私と仲良くなりたいとはにかみながら話しかけてくれたクラスメイトが泣きながら、「親に関わるなと言われたからもう話はできない」と言って来た時。
例えば、私の魔法を誉め、必要としてくれていた貴族が、リリーが出て来た途端、私を価値のないものを見るような目で見た時。
夜、布団の中で一人で泣いたことなんて別に珍しくはない。分かっていたことでも涙は出るのだ。それでも何でもないふりをしたのはそうするしかなかったから。
「いいえ、あなたが心無い言葉に涙を堪える姿は何度も見ております。涙することは悪いことではありません。涙しながらも前を向くことが強さなのだと、私は思います」
「わたくしの粗探しをする中で、ですか?」
笑いながらそう言うと、ラルフは一瞬驚いたような顔をし、可笑そうに笑った。
「ええ、その通りです。あなたの粗は見つけることができませんでしたが」
その時だった。首の後ろがピリッとした。
感じるのはユリウス殿下の魔力。殿下が魔法を使っている。しかもあまりよろしくない感じ。敵意がある。踊りながらそちらへ視線を向けると、人の間にちらりと見えた。やはりユリウス殿下が壁にもたれかかり、腕を組んでこちらを見ている。
でもこれは多分私に向けてじゃない。私に対してだったら首がピリッとする程度じゃすまないだろうから。
誰かいるのだろうか。そう思い、振り向こうとすると、ラルフに手を軽く引っ張られた。そのまま私は移動する。
ラルフは話を続けた。
「……あの頃のあなたは随分と大人びて見えました。婚約者の私を見ることもなく、いつだって視線は遠くにあった。それがとてつもなく気に入らず、あなたに怪我を負わせてしまいそうになったこともありました。……本当に子供じみた、馬鹿げた独占欲です」
何を言われたのか、すぐに理解することは難しかった。少し考えて理解し、私はラルフの顔を見つめた。
それは、つまり、
「わたくしのことを好きだったのですか?」
ラルフは少し困ったような笑顔を浮かべた。
「好きだったのかと聞かれると、私にもよく分かりません。ただ、あなたの心を欲していたことは確かです」
ステップを間違えた。
……今になっての衝撃の事実。私はただ単に嫌われていただけではなかったようだ。人の心とは難しい。
ラルフは笑った。ニヤッと。満足げに。
「ステップが乱れましたね」
だからさっき言ったじゃん。私はラルフが思っているほど立派ではない、と。
「あなたの努力には及びませんが、私も力の及ぶ限り尽くします。あなたのお力になれることがあればいつでもお声がけください。手でも、力でも、命ですら捧げる覚悟です」
「ラルフ様のお命はラルフ様のもの。わたくしが貰っても困りますわ」
ラルフは微笑んだ。そしてクルリとまわるよう誘導された。そのまま私はまわる。
「機会があればまた是非お話し致しましょう、エレナ殿下」
ラルフは自然と離れて行った。そして私の手は別の人に取られた。
それが今、まともになったラルフともできないのだから笑ってしまう。いや、笑えはしない。
「エレナ様が旅立ったのち、私は父のコネで城へ就職しました。そこで知ったのです。あなたがまだ十歳やそこらで見て来た世界を」
いやいや、言い過ぎじゃない?子供の時からお城に出入りしてたって言ったって、私は別に政治に関わったりはしていなかった。ただ余りまくった魔力を魔石に込めたり、魔法省で魔法の研究のお手伝いをしたり、陛下とお茶を飲みながら少し難しい話をしたりしていただけ。
「私に言えたことではありませんが、あなたはずっと好奇心や悪意にさらされて生きてきたのですね」
おおかた、お城で私のことについて色々な噂話を聞いたのだろう。自分が噂の的になっていたことは知っていた。
カイの友達として当たり前のようにお城の中を歩くただの伯爵家の娘。魔力量・才能に恵まれ、唯一光属性を使い、全ての属性をも使える人間。そして第一皇子に嫁入り。目立つ人生だ。良くも悪くも人目につくし、噂になる。
まだ結婚する前。権力を持つ前、自分がなんと言われているかは大体分かっていた。だけど仕方のないことだったし、どうしようもできないから見て見ぬふり。
それは未だに続いていることでもある。私をよく思っていない人間は結構多いのだ。
「あのような酷い言葉の中、なんでもないように笑っておられたあなたがどんなにすごかったのか、ようやく気が付いたのです」
そしてラルフは「私もあなたを傷付けた一人ですが……」と目を伏せた。
うん、確かにラルフからも結構酷いことを言われた。気にしてはいないけど、忘れてもいない。
「……わたくしはラルフ様の目にはあまりに立派にうつりすぎたようですわ」
例えば、よくしてくれていたお城の使用人が、影で私を悪く言っていた時。
例えば、私と仲良くなりたいとはにかみながら話しかけてくれたクラスメイトが泣きながら、「親に関わるなと言われたからもう話はできない」と言って来た時。
例えば、私の魔法を誉め、必要としてくれていた貴族が、リリーが出て来た途端、私を価値のないものを見るような目で見た時。
夜、布団の中で一人で泣いたことなんて別に珍しくはない。分かっていたことでも涙は出るのだ。それでも何でもないふりをしたのはそうするしかなかったから。
「いいえ、あなたが心無い言葉に涙を堪える姿は何度も見ております。涙することは悪いことではありません。涙しながらも前を向くことが強さなのだと、私は思います」
「わたくしの粗探しをする中で、ですか?」
笑いながらそう言うと、ラルフは一瞬驚いたような顔をし、可笑そうに笑った。
「ええ、その通りです。あなたの粗は見つけることができませんでしたが」
その時だった。首の後ろがピリッとした。
感じるのはユリウス殿下の魔力。殿下が魔法を使っている。しかもあまりよろしくない感じ。敵意がある。踊りながらそちらへ視線を向けると、人の間にちらりと見えた。やはりユリウス殿下が壁にもたれかかり、腕を組んでこちらを見ている。
でもこれは多分私に向けてじゃない。私に対してだったら首がピリッとする程度じゃすまないだろうから。
誰かいるのだろうか。そう思い、振り向こうとすると、ラルフに手を軽く引っ張られた。そのまま私は移動する。
ラルフは話を続けた。
「……あの頃のあなたは随分と大人びて見えました。婚約者の私を見ることもなく、いつだって視線は遠くにあった。それがとてつもなく気に入らず、あなたに怪我を負わせてしまいそうになったこともありました。……本当に子供じみた、馬鹿げた独占欲です」
何を言われたのか、すぐに理解することは難しかった。少し考えて理解し、私はラルフの顔を見つめた。
それは、つまり、
「わたくしのことを好きだったのですか?」
ラルフは少し困ったような笑顔を浮かべた。
「好きだったのかと聞かれると、私にもよく分かりません。ただ、あなたの心を欲していたことは確かです」
ステップを間違えた。
……今になっての衝撃の事実。私はただ単に嫌われていただけではなかったようだ。人の心とは難しい。
ラルフは笑った。ニヤッと。満足げに。
「ステップが乱れましたね」
だからさっき言ったじゃん。私はラルフが思っているほど立派ではない、と。
「あなたの努力には及びませんが、私も力の及ぶ限り尽くします。あなたのお力になれることがあればいつでもお声がけください。手でも、力でも、命ですら捧げる覚悟です」
「ラルフ様のお命はラルフ様のもの。わたくしが貰っても困りますわ」
ラルフは微笑んだ。そしてクルリとまわるよう誘導された。そのまま私はまわる。
「機会があればまた是非お話し致しましょう、エレナ殿下」
ラルフは自然と離れて行った。そして私の手は別の人に取られた。
0
お気に入りに追加
4
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした
星ふくろう
恋愛
カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。
帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。
その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。
数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。
他の投稿サイトでも掲載しています。
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。
紅蘭
恋愛
西野愛玲奈(えれな)は少しオタクの普通の女子高生だった。あの日、池に落ちるまでは。
目が覚めると知らない天井。知らない人たち。
「もしかして最近流行りの乙女ゲーム転生!?」
しかしエレナはヒロインでもなければ悪役令嬢でもない、ただのモブキャラだった。しかも17歳で妹に婚約者を奪われる可哀想なモブ。
「婚約者とか別にどうでもいいけど、とりあえず妹と仲良くしよう!」
モブキャラだからゲームの進行に関係なし。攻略対象にも関係なし。好き勝手してやる!と意気込んだエレナの賑やかな日常が始まる。
ーー2023.12.25 完結しました
敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!
結婚して5年、初めて口を利きました
宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。
ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。
その二人が5年の月日を経て邂逅するとき
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる