上 下
87 / 156
勇者に出会ってしまった。

1話 主人公にはなれない

しおりを挟む

「よし! これでこの教科書の内容も終わりだな!! やっぱ高校の勉強は難しいな。 まぁでもその分やり甲斐もあったから良しとするか! 暇潰しにもなったしな!」
 
 机に出した教科書を閉じ、俺は固まった身体を伸ばす。
 
 それにしても、あの時に弁当だけじゃなく鞄ごとトイレに持っていって正解だったな。
 お陰で異世界に来ながらも自習が出来て助かったぜ、流石俺だな!!

 ……まぁ便所飯してるってバレるのが嫌だったから持ち歩いてただけなんだけど。
 

「さてと、これからどうするかな」
 
 勉強もひと段落つき再び暇になった俺は特に意味もなく辺りを見渡す。
 
 
 掃除は昨日したばかりだし、おっさんから借りたゲームはもうクリアしたしなぁ。 買い物でも行くか? 
 うーん、でも別に欲しい物なんてないしな。
 
 少しの間考えてみたが、結局やりたい事もするべき事も今の俺には見つけられなかった。
 

 
 ……うん、こんな事言うのは贅沢なのかも知れないし本当は言いたくないんだけどさ、もう限界だから言うわ。
 
 俺は深呼吸し今日まで溜めいていた不満を声にだして吐き出す。
 

「いや、飽きたわ!! もう異世界生活に飽きたんだが??
 ここ最近は自習しかしてないし、めっちゃ暇なんだよ! なんだこれ!!」


 リアが力を取り戻すまでのこの4ヶ月間で、俺は完全に異世界生活に飽きていた。

 そりゃあさ、確かに最初の1ヶ月ぐらいは楽しかったよ? 
 異世界に来たいと思ってたし、まぁ想像してた異世界ではなかったけど、それでも日本じゃ体験できない事も沢山出来たしな。 

 魔法だって初めて見た時は感動したよ? 
 人間の掌から火が出た時は興奮ものだったさ!


 でもさ、もう慣れちゃったんだよ!!
 今では普通にマジックを見てる気分になるし、なんなら小学生の頃に見たキャンプファイヤーの方が興奮してたかもって思い始めてるし!!
 
 それにさ、あんなに好きだった獣人も、今やただ可愛い子がコスプレしてるようにしか見えないんだよ。
 ……日本で可愛いギャル見た時の様な感覚にまでなっちまったんだよ。


 あれ? なんか思い返すと悲しくなるわ。 やっぱ慣れって怖いな。
 

「あんなに来たかった場所なんだけどな……俺がクズだからこの現状に飽きちゃうんだろうか?
 やっぱり簡単に主人公になんてなれるもんじゃないよな」
  

 俺は徐に椅子から立ち上がり、部屋の窓から中庭を見下ろす。 
 視線の先には青蜜と結衣ちゃん、それからルカが楽しそうに話をしてた。
 
 
「ねぇ! 今のどうだった? 結構威力があったと思うんだけど!!」
 
「んー、確かに威力はあるけど精度が悪いわね。 それにねブルーちゃん、私は的の中心に当てろって言ったわよね?
 壊せなんて一言も言ってないわよ? もっと集中して魔力を抑えなさい」
 
「わ、わかったわよ。 でも魔力を抑えるって難しいのよね」
 
「感覚は掴めてるから後は慣れよ、そのまま何発も打ってればそのうち制御出来るわ。 
 それより結衣、私のビンタの威力は上がってるかしら? 貴女の言う通りのトレーニングをしてるんだけど、自分じゃ上達してるか分からなくて」 
 
「上達してますよ! むしろルカさんの上達が早くて驚いてます! 
 この分だと直ぐにでも私より強くなりそうです!!」
 
「そ、そうかしら? それなら良かったけど貴女より強くなるのは遠慮しとくわ。 ダーリンが死んじゃうかも知れないしね」
 
「もう! 私をなんだと思ってるんですか!!
 あっ、あかねちゃん! これどうですか? かなり上手く作れたと思うんですが……」
 
「ん? どれどれ? おー!! 凄いじゃない結衣! 遂に創造魔法のコツを掴んだのね! これは剣かしら? かなりいい感じよ! でもまだ実用出来るレベルじゃないわね、もう少し強度を持たせると良いかも。 魔素の混合比を増やしてみたら?」
 
「な、なるほど! 早速やり直してみます!!」
 

 
 4ヶ月前からは考えられない程に仲良くなっていた3人は、それぞれの目標の為に頑張ってトレーニングをしていた。
 

 俺も青蜜や結衣ちゃんみたいな性格だったら、この異世界生活も楽しく過ごせたのかもな。 今の俺がこんなに暇なのも、きっと自分のせいなんだ。
 

 
 笑顔で話す青蜜達を見て俺はそう思っ……。

 
 
「いや、俺のせいじゃねぇーだろ!!」
 
 自分の心の声に俺は声を大にして突っ込む。
 

 お、俺だってな! 俺だって魔法さえ使えればこんな所で勉強なんてしてないし、暇にだってなってないんだよ! 

 青蜜の様に火の玉飛ばして、結衣ちゃんみたいに剣とか盾を作ってみたいわ!!


 ……なんで俺だけ魔法適正ゼロなんだよ、おかしいだろ。
 

 悔しくて泣きそうになりながら俺はある魔導師の言葉を思い出す。
 
 
 ルカと再会して1ヶ月ぐらい経ったある日、俺達はルカの提案で魔法適正があるかを確認する事になった。

 元々この世界の人間じゃないし、期待もしてなかったが観光も込みで俺達はとある魔導師に鑑定を依頼し、結果はその日のうちに分かった。
 
 魔導師曰く青蜜はこの世界の魔素に愛されているらしい、多大な魔素を必要とする創造魔法に向いていると言ってた。

 結衣ちゃんは単純に潜在魔力が桁違いに多いと言ってた。 練習すれば高威力の魔法を放つ事も可能だと。
 
 そして俺はこう言われたのだ。
 
 
「こ、こんな人間は初めて見たぞ! 大発見じゃ! 基本的に好意的な魔素がお主の周りには一切近づこうとせん!!
 お主相当嫌われてるぞ!! それに魔力も一切感じない! 魔法適正ゼロじゃ! 
 どんなに頑張っても一生魔法を使える日は来ないじゃろうな! いやー、珍しい者もいるもんじゃな!! 折角じゃから握手してもらえるかのぅ??」
 
 
 
 ……どう思う? ねぇ? これって俺のせいか?? 
 確かにさ、この世界に嫌われてるとは思ってたよ?? 
 心当たりはあったけどさ、こんなのってないじゃん。 
 

 魔法も使えない、クソマイナススキル持ち、その上見えない何かに嫌われてるんだよ??

 
 こんなんどんな主人公でも異世界が嫌いになるだろ! 飽きても仕方ないだろ!!
 
 異世界に来たので、のんびり生きていきますとかスローライフしますとか言ってる奴はこの状況で同じ事が言えるのか! 言えねぇーだろ!! 
 食堂でも開くか? 言っとくけどこの世界のご飯めっちゃ美味いからな!! 
 日本で店開くのとたいして変わらねぇーからな!!
 

 
 ………いや、これはただの嫉妬か。 あいつらは関係ないし、作中でも頑張ってたのは事実だしな。
 

 うん。 結局、悪いのは魔力の無い俺なんだもんな。 
 魔素に嫌われてるってのは納得いかないけど、それもどうでも良いや。
 
 
「はぁー、もう帰りたいわ」

 思わず声に出てしまう。 それくらい俺にとっては辛い出来事だった。
 
 
「ん? なんじゃお主帰りたいのか? それはちょうど良かった! 
 実は少し困った事になってな? 一度日本に帰ってきて欲しいんじゃよ」
 
「帰れるなら今すぐ帰るさ、ついでに参考書も買えるしな……ん?」
 

 誰と話してんだ俺? 
 
 後ろから響く聴きなれた声に釣られ、俺はゆっくり振り返る。 

 振り返った先には困り顔を浮かべて首を傾げるリアの姿があった。
 
「リ、リア? どうやってここに??」
 
「久しいなまどかよ! なぁに、予定通り魔女の力を少し取り戻したからこっちの世界に来たまでじゃ。 
 それにしてもお主随分と元気がないのぅ? だ、大丈夫なのか??」
 
「い、いやなんでもないさ。 それより本当に力を取り戻したんだな! また会えて嬉しいよリア」
 
 優しい声で言うリアの言葉に俺は思わず泣きそうになるのを必死に堪えて返した。
 
「う、嬉しいのか? そうか、お主は我に会えて嬉しいのか!!
 ふふっ、ちょっと無理して会いに来た甲斐があったのぅ……ってそんな事はどうでも良いんじゃ!! 話を逸らすでないわ!」

「あ、あぁ悪かったな。 それで困った事ってなんなんだ?」

「うむ。 とりあえず青っ子達にも声をかけて貰えるかのぅ? 
 今回はどちらかと言えばお主らの問題じゃしな」
 
 俺達の方の問題? どう言う意味だ? 
 まぁ考えても仕方ない、リアの事だしなにかあったのは確かなんだしな。
 今は言われた通り青蜜達を呼んでくるか。
 
「分かった、呼んでくるからリアはここで待っててくれ」 
 
「そ、そうじゃな、座る場所がないからベットの上で待っとるとしようかのぅ! 
 き、汚そうだけどここしか無いから仕方ないしのぅ! あー、それからゆっくりで良いぞ? 
 ちょっと疲れておるから少し横になりたいからな!」
 
「え? まぁ汚くないないと思うけど、気になるならベットじゃなくてソファーもあるぞ……ってもう寝てるのかよ。
 はぁー、珍しく本当に疲れてるんだな、じゃあ出来るだけゆっくり行ってくるからな。 よだれ垂らすなよ」
 


 寝転ぶリアにそう告げ、俺は静かに部屋のドアを閉めて青蜜達がいる中庭へと向かった。
 

 ゆっくり歩くつもりだったのに、少しだけ早歩きになってしまったのはきっと久しぶりにワクワクしていたからだろう。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

傍観していたい受付嬢

湖里
ファンタジー
剣と魔法の世界【アラバンス】 この世界のとある王国に二人の勇者が召喚された! 仲間をつくり、助け合い、魔王を倒す……訳ではなく。 そんな彼らをのんびり見ているトリップして来た傍観している受付嬢が主人公のお話。 「貴方達がなんと言おうとも、私には痛くも痒くもございません。」

森に捨てられた俺、転生特典【重力】で世界最強~森を出て自由に世界を旅しよう! 貴族とか王族とか絡んでくるけど暴力、脅しで解決です!~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 事故で死んで異世界に転生した。 十年後に親によって俺、テオは奴隷商に売られた。  三年後、奴隷商で売れ残った俺は廃棄処分と称されて魔物がひしめく『魔の森』に捨てられてしまう。  強力な魔物が日夜縄張り争いをする中、俺も生き抜くために神様から貰った転生特典の【重力】を使って魔物を倒してレベルを上げる日々。  そして五年後、ラスボスらしき美女、エイシアスを仲間にして、レベルがカンスト俺たちは森を出ることに。  色々と不幸に遇った主人公が、自由気ままに世界を旅して貴族とか王族とか絡んでくるが暴力と脅しで解決してしまう! 「自由ってのは、力で手に入れるものだろ? だから俺は遠慮しない」  運命に裏切られた少年が、暴力と脅迫で世界をねじ伏せる! 不遇から始まる、最強無双の異世界冒険譚! ◇9/25 HOTランキング(男性向け)1位 ◇9/26 ファンタジー4位 ◇月間ファンタジー30位

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

sweet!!

仔犬
BL
バイトに趣味と毎日を楽しく過ごしすぎてる3人が超絶美形不良に溺愛されるお話です。 「バイトが楽しすぎる……」 「唯のせいで羞恥心がなくなっちゃって」 「……いや、俺が媚び売れるとでも思ってんの?」

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...