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天才少女に出会ってしまった。

35-2話 バイオレンスな彼女

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「……貴方がダーリンを私の時代に連れてきた人だったのね。 なるほど、ダーリン達が苦労する理由がわかるわ」
 
 そんな俺達の空気を察してかルカは呆れた様に呟いた。

「はん、何を言うか。 むしろ苦労してるのはワシの方じゃからな?」
 
「えっ? もしかして自覚も無いのかしら? うわぁ……」
 
 おっさんの言葉を聞いたルカは俺達に憐れみの目を向けた。
 
 そんな目で見ないでくれ……俺達だって好きでこんなポンコツに従ってる訳じゃ無いんだ。
 
「ま、まぁいいわ。 それより全てが丸く収まったかどうかなんてまだ分からないんじゃ無いの?? 
 私の研究は間違えなく成功したけど、本当にそれで世界が救えた事になるのかしら??」
 
「おぉー、確かにお主の言う通りじゃな……ってお主は一体なんなのじゃ?
 まどか殿の知り合いか? だとしたら申し訳ないがここから出て行ってもらえぬかのぅ? これからワシらは大切な話をっ」
 
「そんな事どうでも良いからさっさとルカちゃんの言う通り、星の日記を確認しなさい!!」
 
「な、なんじゃ急に!! もしかしてあかね殿の友達じゃったのか? だとしてもワシは特別扱いはせぬぞ? ここは神聖なっ」
 
「やれ!!」
 
「……うむ、ちょっと待っておれ。
 い、今から確認するから」
 
 青蜜の圧に屈したおっさんは直ぐに日記のページを捲る。
 
 ご、強引に押し切ったな。 まぁ説明するのも面倒くさいと言うか、そもそもおっさんには説明すらしたくないもんな。 ……うん、気持ちは痛いほど分かるわ。
 
 それにしても、なんかドキドキするな。 だってもし日記から文字が消えてたら俺達はこの世界を救ったって事になるんだろ??
 まぁ救ったのはルカなんだけど……でも間接的には役には立った気もするし、俺達の手柄でもあるだろう!!
 そうなったら俺も憧れてた英雄って訳だ!!
 ……なんか感無量だなぁ。

 俺はおっさんに視線を向け、祈りながらその時を静かに待った。
 
「おぉー!! 凄いぞ!!
 お主ら本当に凄いではないか!! に、日記から文字が消えておるぞ!!」
 
 き、きたぁ!! 今、文字が消えたっていたよな!! おっさんの反応を見るに、間違えない! お、俺達は遂にこの世界を救ったんだ!!
 
 俺は急いで青蜜と結衣ちゃんへ視線を向けた。
 
 二人とも今度は俺から目を逸らす事はなく、照れた様に頬を緩めている。
 
 その表情に釣られるように俺の思わず頬が緩んだ。

 やっぱり二人も同じ気持ちだったな。 
 
 それにしても本当にこの世界に来た時はどうなる事かと思ったけど、終わってみれば良い経験したのかもな……これで俺達の役目は終わったんだな。

「ぷぷっ、笑ってはいけんがこのアバンの王子は本当に可哀想じゃのぅ! イケメンに生まれてもなかなか上手く行かぬのが世知辛いところよのぅ。
 それにしても本当に日記が元に戻って良かったわい!」
 
 あー、あのアバンの王子ね。 そんな事もあったなぁー、そんな昔の事でも無いのに凄い懐かしい感じがするわ。 
 こうやって星って意外に怖いんだなって体験出来たのも、異世界ならではっ……。
 

「「「えっ??」」」
 
 おっさんの浮かれきった声に俺達は同時に同じ反応をした。
 
 ……今って昔話してたんだよな? これって現在進行形の話じゃないよな??
 
「ち、ちょっと待ってよ。 おっさん? それはいつの話? 私は今何が書いてあるのかを聞いているのよ??」
 
 青蜜が俺の心を代弁する様に話す。
 
「ん? どう言う意味じゃ? ワシはあかね殿に言われた通りに書いてある事を読んだまでじゃぞ?? 
 それにしてもついさっきまで滅ぶ寸前だった世界を4ヶ月も延命させるとは!! 
 ワシの想像以上にお主らも頑張ってくれていたのじゃな! 感謝感激じゃ!!」
 
「……う、嘘だろ??」
 
 おっさんの言葉に俺は全身の力が抜けていく感覚を味わう。
 
 どう言う事だ? は、白紙に戻ったんじゃないのか??

 ま、まさかあれだけやって……元通り??
 じゃあそもそも最初から検討違いの事を俺達はやっていたって事か??
 
「嘘じゃないわい! ほれ、これを見るが良い。 ちゃんとそう書いておるじゃろ?? 
 それに一体何をそんなに落ち込んでおるのじゃ? 結果は大成功ではないか! あかね殿もそう思うじゃろ??」
 
 おっさんは証拠を提示すると言わんばかりに俺達にそのページを見せつける。

 そのページを見ておっさんと話していた青蜜も言葉が出てこなかったのか、その質問に答える事はなかった。
 
「な、何故なんの反応もないのじゃ? ここは喜ぶ所ではないのか??」

「……そ、そうですよ、あかねちゃんもまどかさんもそんなに落ち込む事はありません。 確かに最高の結果にはなりませんでしたが、当初の目的は達成出来たんですから!」

 俺達の反応に結衣ちゃんは慰める様に
口を開いた。

 ……おっさんの事は無視できるけど、このまま結衣ちゃんに気を使わせるのは良くないよな。

「当初の目的? あぁ、まぁ結衣ちゃん言う通りか。 一先ず今直ぐに世界が滅亡する危機は凌げたんだしな」
 
 自分を納得させる様に出来るだけ声のトーンを上げて俺は話を合わせた。

 そんな簡単には切り替えられないけど今はこれで納得するしかないか……。
 
「違いますよ、まどかさん! そっちではなく一番最初の目的です!」
 
「最初の目的??」 
 
 なんだっけ? 今更もうどうでも良いけど。 
 
「まどかさん、思い出してください! そもそも私達が過去に行ったのには理由があったじゃないですか!」
 
 興奮して話す結衣ちゃんの姿を見て、俺は考える事を放棄していた脳味噌をもう一度使う事にした。
 
 んー、俺達が過去に行った理由かぁ……確か最初はルカに研究を辞めさせる為だったよな。 
 ん? いや、これは手段か? あれ? そもそもなんでルカの研究を辞めさせようと思ったんだっけ?? 

 えっーと……。
 
「あっ! そう言う事か!!」
 
「思い出して頂けましたか?」
 
 俺の反応に結衣ちゃんは嬉しそうに微笑む。
 
 お、思い出した! 俺達はリアが力を取り戻すまでの時間を稼ぐ為に過去に向かったんだ!
 
 そして今、日記があの時の状態に戻ってるって事は……。
 
「む、無駄なんかじゃなかった!! 青蜜! 結衣ちゃん! ルカ!! 俺達は目的を達成したんだ!!」
 
 そうだ! リアに足りないとされてた時間は1ヶ月だった筈だ!! だとしたら少なくともその時間を俺達は稼ぐ事に成功しているじゃないか!!
 
 今回のタイムトラベルが意味のある物だと思えた瞬間、俺の心は一気に高鳴る。
 
「い、一体どう言う事? なんでそんなに喜んでるの?」
 
「ごめん、青蜜! 詳しい説明は後でするから!」
 
 俺は直ぐにポケットに入れていたスマホを起動する。
 
 この結論が正しいかどうかを本人の口から直接確認する為に。
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