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天才少女に出会ってしまった。

29話 天才少女に出会ってしまった 1

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「……やっと着いたな」
 
 いつか見た大きな屋敷の門の前で俺は息を切らしながらそう呟いた。
 
 まさかあの狼達がこの間の倍の数で襲ってくるとはな……今度こそ本当に死ぬかと思ったわ。
 ってか普通の異世界だとこういうイベントって一回すれば十分なんじゃないの? なんで2回も襲われなきゃいけないんだよ!
 こんなの絶対アニメとかだったらカットされてる所だろ!!

 まぁそもそもアニメになる様な見所ある世界じゃないけどさ……はぁー、何でこんな世界に来ちゃったのんだろ。

「大丈夫ですか? まどかさんも顔色悪いですよ??」
 
 俺の心境を察してか結衣ちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
 
「だ、大丈夫だよ。 ちょっと疲れただけだから! それより青蜜の方を心配した方が良いかも」
 
 例の如く放心状態の青蜜に視線を向けながら俺は結衣ちゃんに答えた。

「た、確かにそうかも知れませんね。 あかねちゃん、命の危険を感じると結構動揺しちゃいますもんね!」
 
 そう言い残し結衣ちゃんは青蜜の元へと駆け足で向かっていった。 
 
 結衣ちゃんはやっぱ優しいな、狼達を倒して直ぐに俺達の心配してくれるんだから本当に良い子だよ……着ているタンクトップが血で真っ赤に染まってなかったら俺も看病して貰いたかったな。
 あの戦いを間近で見た今は狼より結衣ちゃんの方が圧倒的に怖いわ。
 
「さてと、色々あったがここからが本番じゃな。 お主よ、最後にもう一度聞くが本当に良いのじゃな??」
 
 ポッケトにしまったスマホからリアの声が響く。
 
「……あぁ。 いつでも大丈夫さ。 さっきも言っただろ? 覚悟は決まってるって」
 
 そうだ、今はこの展開に文句言ってる場合じゃなかったな。 俺にとっては狼に襲われるより気持ちが滅入るイベントが残ってるんだから。
 
「そうか……まぁ気が変わったらいつでも別の選択肢を選ぶが良い。 我は別にどっちでも良いのだからな」
 
「随分優しいな、愉悦の魔女は思えないぞ??」
 
「う、うるさいわい!! たまたま今日は機嫌が良いだけじゃ!!」
 
「ははっ、たまたまか。 それはラッキーだったな、じゃあ有り難くそうさせてもらうよ、やっぱり嫌になったら前言撤回しようかな」
 
「……ふん、良く言うわ。 そんな気なぞ全く無い癖にのぅ」
 
 小さく呟くリアの言葉に俺は返事はせず目の前にある門の呼び鈴を鳴らした。 
 
 その鐘はからんからんと何処か懐かしく心地良い音を2、3回響かせる。 
 
 出来ればこのまま誰も出て来来なければ良いのに。
 そんな思いが俺の頭の中に浮かび始めた時、その声は俺の耳に届いた。
 
「どちら様かしら? 今は忙しいの、折角来た所悪いけど帰って貰えるかしら??」
 
 この高圧的な口調は間違えなくルカだな………。
 
「久しぶりだなルカ。 正確な時間はわからないけど、2年振りって事になるのかな?」
 
 深呼吸を一度挟み俺はルカへと返事をする。

「はぁー? 貴方何言ってるの? 2年前なんて……ってその声、もしかしてダーリンなの??」
 
「……あぁ」
 
「ほ、本当に? ち、ちょっと待ってて!! 今直ぐ行くから!!」
 
 受話器越しから聞こえたルカの声はとても嬉しそうで、その事が俺の心を一層深く抉る様だった。
 
 
 それから少しの時間が流れた後、門の奥にある大きな扉が開きその先からルカが姿を見せた。
 
「ひ、久しぶりね。 ダーリン」
 
 顔を赤く染め手を絡ませながらルカが俺の目の前に立つ。
 
 その姿は以前と変わらず可愛く、同時に腰まで伸ばした綺麗な緑髪と成長しているルカの身体がこの世界の時間が本当に前回とは違う事を俺に知らせた。
 
「ち、ちょっと! そんなに見てないで何か言ってよ! は、恥ずかしいじゃない!」
 
「えっ? あぁ、ごめん。 本気で見惚れてた……可愛くなったな、ルカ」
 
 何も考えずにその言葉が俺の口から出る。 それくらい目の前のルカに目を奪われていた。 
 
「か、か可愛くなったかな? あれから色々勉強したの、いつかダーリンが帰って来た時に褒めて欲しくて……でもいざ褒められるとなんか凄い照れるわね。
 ふふっ、だけど恥ずかしいの同じくらい嬉しいかも。 ありがと」
 
「……俺の方こそありがとう。 こんなに思ってくれてるなんて本当に嬉しかったよ」
 
「ど、どうしたのダーリン? 大丈夫? 凄い辛そうな顔してるけど……あっ! とりあえず入って!! 新しくなった私の部屋も見せたいし!!」
 
 そう言ってルカは門を開けて俺の手を掴む。
 
「……って何で貴方達が居るのかしら??」
 
 青蜜と結衣ちゃんに気付いたルカが冷めた視線を向けて言う。
 
「え、あの、それは……」
 
 結衣ちゃんは言葉を詰まらせ、困った様に目を動かす。
 
「何? もしかして貴方達がダーリンのハーレム要員って事かしら?? はぁー、まぁそう言う約束だったら別に良いけど……これだけは言っとくわよ? ダーリンの一番は私であって貴方達は愛人枠だから。 それと週3日は譲らないからね? それにしても貴方はともかくブルーちゃんも来るとはね……この2年で色々あったのかしら??」
 
「だ、誰がブルーちゃんよ!」
 
 ルカの言葉に正気を取り戻したのか、青蜜は即座に言葉を返した。
 
 さっきまで意識なかったのに相変わらず青色の悪口には超反応だな、こいつ。
 
「まぁ良いわ、とりあえず私の部屋に行きましょう。 今日はダーリンに再会できた記念の日だもの、おまけくらい許してあげるわ」
 
「言われなくてもお邪魔するわよ。 こんな森にこれ以上居たくないしね」
 
 そう言って青蜜は俺達の横を通り過ぎルカの家の中へ足を進める。
 
「ち、ちょっと! 勝手に入らないでよ!! 駄目よ! 私の部屋を一番最初に見せるのはダーリンって決めてるんだから!!」
 
 そんな青蜜を止める様にルカが急いでその後を追う。
 
「お邪魔しますね、ルカさん」
 
 最後に結衣ちゃんが小さくお辞儀をしながら二人に続いて行った。
 
 
「あれがルカの子か。 少し幼い所もあるが良い女ではないか。 お主への愛も相当に深いみたいじゃしな」
 
「あぁ、本当に俺には勿体無いくらいにな」
 
 ルカの大切な2年を俺なんかの為に使わせてしまった事を今更ながら後悔する。

 ……成長したルカを見てからこんな大事な事に気付くなんて、俺もやっぱりクズだったって事か。

「これは殺されても文句は言えないな………こんな事なら最初から出会わない方が良かった」

 
 思わず溢れる本音を噛み締め、呼吸を整えながら俺はその門を潜り3人の後に続いて足を進めた。
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