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天才少女に出会ってしまった。

21話 もう何も怖くないっ!

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「あっ! ねぇまどかちゃん、あれって結衣が纏めてたノートじゃない?」

 少しの時間が流れた後、視線を逸らしてた青蜜が床に落ちてるノートを拾いに歩き出した。
 
「やっぱり! 可愛い猫のイラストがあるもの!! って事はこの中にっ」 
 
 拾い上げたノートの表紙を俺に見せ、青蜜はそのまま直ぐに中身を開いた。
 
 えっ躊躇なし? 一様これ結衣ちゃんの私物でしょ? 勝手に中見たらまずいのでは??
 
 そんな俺の不安を露知らず、青蜜はページをめくり続ける。

 あの中身って確か結衣ちゃんがこの世界で今まで起きた色々な情報を纏めてたやつだよな? 青蜜は何探してるんだ?
 
「あったわ! これね!! えっーと、なになに………ふふっ、やっぱりあの子はまどかちゃんには勿体無いわね。 はい、これ」
 
 そう言って青蜜は優しく笑い結衣ちゃんのノートから一枚のページを抜き取り俺に手渡す。
 
「えっ? こ、これって……」
 
 青蜜から渡されたそのページにはルカに関する記事が大きく載っていた。
 
『弱冠17歳にして主演女優賞受賞!! 天才少女ルカ・ルーレットに今、世界中が惚れている!!』
 
 ……んっ? 何これ? どう言う事? 主演女優賞? 誰が? ルカが??

「どうやらルカちゃんは本当に研究を辞めたみたいね。 でもまさか女優になるとはね……私との演劇が気に入ったのかしら?」
 
「いや、研究者から女優って振り幅凄くない??」
 
「そんな事ないわ、女の子は常に大きく変わるものよ」
 
「そ、そうなのか……まぁでも安心したよ。 正直不安だったんだ、結果的にルカにとって大事な研究を辞めて貰った訳だったからな。 こうして他の分野で活躍してる記事を見れたのは嬉しいよ。 それにしても大女優か、この世界にも女優って居るんだな。 ははっ……こんなに成功するなら俺はもう戻らない方が良いかもな」
 
 至る所に記載されたルカへの賛辞の言葉を見て俺は本心からそう思った。

 そうだ、こんな輝かしい未来がルカに待ってるなら俺がその邪魔をするわけにはっ。
 
「はぁー?? まどかちゃん何言ってるの?? ……ちゃんと見なさいよ、その記事。 私が勿体無いって言ったのは、ルカちゃんが女優になったからじゃないわ。 女の子には絶対に変わらないものもあるって事よ」
 
「えっ?」
 
 俺は直ぐに記事に目を戻しその続きを読む。
 その記事は後半からルカへのインタビュー記事になっていた。
 
 インタビュアーの質問にルカが当たり障りの無い言葉を返している記事。
 だけどそこに一つだけ明らかに異質な答えが載っている事に俺は気付いた。 




「ルカさん、今のこの気持ちを誰に一番伝えたいですか?」
 
「……ダーリンに伝えるわ。 私はこれからもずっと待ってるから早く世界とやらを救って帰って来いってね!! それから世界中に報道される様なインタビューに答えるまで上り詰めるのは大変だったんだぞ!! ってね。 あ、後もう一つ! 私は元気よ、最近は冷蔵庫にハマってるし!」
 
「えーと……ルカさんはまだ結婚なさって無いですよね? 今のは一体……あっ! いえ、なんでもないです! そ、それでは次の質問に参りますね!」



「……ね? 凄い子でしょ?? まどかちゃんにメッセージを残す為だけに女優になったのよ、あの子。 信じられないわ、ここまで有名になったら他にもいっぱい選べたのに、ずっとまどかちゃんを好きだったみたいね。 最後の冷蔵庫とやらの意味わからないけど、料理も頑張ってるって所かしら?」
 
 
 青蜜の言葉に耳を傾けながら俺はゆっくりとその記事の最後に目を向ける。
 そこにはこの授賞式を最後にルカが女優業を引退した事が記載されていた。
 
「なんでこんな俺なんかの為に……」
 
「それは本当に謎ね。 まぁでも理屈なんて無いのよ、ルカちゃんはまどかちゃんを本気で愛してる。 そこにあるのはその事実だけ………世界を救って早く会いに行かないとね」
 
「青蜜……あぁ、そうだな」
 
「相変わらず恥ずかしい事をよく真顔で言えるなとも思ったけど、確かに青蜜の言う通りだな。 ルカが待っていてくれているんだ、俺も出来る事はなんでもやらないとな」
 
「声に出てるわよっ!! まぁ今回は許してあげるわ。 なんでもやるって言うまどかちゃんの意気込みに免じてね。 頑張りましょう、まどかちゃん! この世界を救う為に、そしてルカちゃんにもう一度会う為にね!!」
 
 そう言って青蜜は俺の目の前に手を差し出す。
 
「あぁ、よろしくな青蜜」
 
 俺はその手を強く握り返した。
 
 やってやる! 
 俺と青蜜、結衣ちゃん、ルカ、リアの為に! まぁ後ついでにおっさんの為にも!! 
 俺は必ずこの世界を救ってみせっ。
 
 
「おー、遅くなってすまんな!! 『星の日記』を持ってきたぞ!!」
 
 俺の思考を遮りおっさんが部屋の扉を勢いよく開いた。
 
「いや、タイミング悪いわ! 俺的に今はこの異世界に来て一番気持ちが入ってるって言うか、かなり良い所なんだよ! 最高潮に盛り上がってるんだよ! こう言う時くらい空気読んでくれたって良いのに!!」
 
「な、何を怒っているんじゃ? むしろ盛り上がりはここからではないか! 先ほど12時を回ったし早速中身を確認するぞ? 準備は良いかのぅ??」
 
 俺の恨み節を意に返さずおっさんは俺達に尋ねる。
 
「私はいつでも構わないわ」
 
「はぁー、俺も大丈夫さ」
 
「良し! では見るぞ!! 1、2、3……はい!!」
 
 おっさんは大声を出しながら日記を開く。
 
 一体なんのカウントなんだよ……まぁなんでもいいや。 今更日記の内容がどうなってても俺にはそんなに関係ないからな。
 
 ルカに研究を辞めさせた事で世界を救えたならそれで終わりだし、『日記』が少しでも前に戻ってさえいたらリアの言う時間稼ぎが成功したって事だから後はリアに任せれば良い筈だ。
 まぁルカの研究が全く関係なかった場合が一番堪えるが、その時はまた一からやるしかない。 大丈夫、必ず世界は救ってやるさ。 今の俺に怖いものなんて何もないからな。 
 
 ……それにしてもなんかおっさんの反応が遅いな? 
 
「おっさん? 何て書いてあったんだ??」
 
「……今から読む」
 
 おっさんはそのまま日記に目を向けながら震えた声で話始めた。
 
『今日は異世界から童貞と処女、それに貧乳が来たわ。 はぁー、この大変な時に来たのがこんな奴らなんて……私の寿命も残り僅かね。 やっぱポンコツに助けて貰うなんて不可能だったわ』
 
「こ、これが今回更新された『星の日記』じゃ」
 
 
 ………はぁ? 異世界から来た童貞って俺の事? 処女って青蜜の事? 
 貧乳は……まぁ間違えなく結衣ちゃんの事か。

 えーと、俺達がこの世界に来たのが1ヶ月前だから……。
 
 考えれば考える程に俺の額から汗が噴き出る。
 
 か、過去に行く前の日記は確か3千年くらい前の出来事を記録してたよね??
 それが今や1ヶ月前の出来事に変わってるって事? 
 ……嘘だろ? これもう詰んでるんじゃ??
 
「ま、まどかちゃん……」
「ま、まどか殿……」
 
 青蜜とおっさんが真っ青な表情を俺に向ける。 
 
「ははっ……どうやら俺やっちまったみたいだな」 
 
 ずっと憧れてた台詞と少し違うだけなのに、この世界の状況が絶望的な事を俺は恨みながら必死に愛想笑いを浮かべてていた。
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