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天才少女に出会ってしまった。

11話 あんまりそわそわしないで

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「えーと、その……冗談かな?」 

「こんな恥ずかしい事を私が冗談で言うわけないじゃない! 本気よ!!」
 
 俺と全く目を合わせようとしないルカは不貞腐れたように少しだけ頬を膨らめせていた。
 
「そ、そうなんだ」
 
 な、何で? どう考えてもおかしくないか?? さっきあったばかりの美少女に告白されるなんて普通は有り得ないだろ! 異世界小説じゃあるまいし!! 
 
 ……いや、まぁ異世界には来てるんだけど。 何か裏があるんじゃないか? 
 この世界が俺をこんな幸せな気持ちにさせてくれる筈がない、今まで何度騙されてきたか。

 はっ! もしかして全部リアが仕組んだドッキリだったりするのでは? あいつ俺にお尻を見られた事を凄い怒ってたし! 
 それともおっさんか? 前におっさんのデザートを勝手に食べた事をまだ根に持っているなら十分動機はあるな。 あのプリンみたいなやつ滅茶苦茶美味しかったし!! 
 
「な、何よその顔! もしかして私と付き合うのが嫌なの?」
 
「あっ、そういう訳じゃないけど……」
 
 俺の返事が遅かったからかルカは今にも泣いてしまいそうな表情を浮かべていた。
 
 え、演技には見えないよな。 もしかして本気なのかな? 本当に俺と付き合いたいって思って……いや待てよ? 
 ルカの言っている付き合いたいって意味がそもそも俺が考えているのとは違うんじゃないか? 
 男女の付き合いじゃなくて買い物に付き合って欲しいとか、それこそ実験に付き合って欲しいとかって可能性もあるよな。 
 いや、むしろそっちか!!
 ふっ、俺も成長したな。 多少は動揺したけど踊らされる事なくこの事実に早めに気付いたんだからな!
 ……まぁそうだよね、おかしいもん。 俺が告白されるなんて。
 
「な、泣きそうにならなくても良いじゃない……そんなに嫌なら良いわよ! 無理言って悪かったわね」
 
「ち、違うんだ。 ちょっと勘違いしてただけで嫌って訳じゃないよ!」
 
「勘違い? まぁそれなら良いけど……で、結局答えは決まったかしら?」
 
「付き合って欲しいだったよな? 良いよ、ルカが俺で良ければだけどね」
 
「……えっ!? ほ、本当? 本当に本当?」
 
 大きな目を更に見開き、ようやく俺に目を合わせてルカは言った。
 
 やっぱ綺麗な顔立ちしてるよな、大きくなったら青蜜や結衣ちゃんクラスの美人確定だな。 
 それにしてもこんなに驚かれるって事は相当大変な実験なんじゃ……い、今のうちに保険かけておこう。
 
「ほ、本当だけどさ。 あんまり無茶な事は言わないでね? 死を感じる様なのは勘弁して欲しいんだけど……」
 
「死? そんな事する訳ないじゃない! ふふっやっぱり面白いわね貴方」
 
「そ、そっか! それなら良かった」
 
 嬉しそうに笑うルカの姿に俺は胸を撫で下ろす。
 どうやら最悪の事態は避けられそうだ。
 
「ねぇ、私はこれから貴方を何て呼べば良いかな? さっきの女の子は貴方の事をまどかさんって呼んでたし、わ、私も名前で呼んで良い?」
 
「え? あぁ、好きに呼んでくれて構わないよ。 俺も勝手にルカって呼んでるし」
 
「本当? あっ、じゃあ折角だしもう少し考える! 他の女と一緒なのも嫌だし!」
 
 そう言うとルカは頬に手を添えて頭を捻る。
 
 なんか随分と雰囲気変わったな、最初は俺の名前なんて興味ないって言ってたのに今では何て呼ぼうか考えてくれてるんだもんな、それに話し方も優しくなってる気がするし。
 いつも通り俺の名前がまどかになってるのは残念だけど。
 
 でもこの調子ならルカとは上手く付き合っていけそうかな? 後はルカがしたい実験ってのに俺がどれだけ耐えられるかって所か。 
 ……怪我するのも嫌って言っておけば良かったかも。
 
「良し! 決めたわ!!」
 
 手を叩く大きな音と共にルカは声を張った。
 
 結構考えてたな、本気で考えてくれてるみたいで嬉しいけど。 
 それにしてもなんだろうな? まどかから連想するなら、まーくんとか?
 出来れば男らしいのが良いな。
 
「何にしたんだ?」
 
 俺は少しだけ早くなる心臓の鼓動を感じながらルカの言葉の続きを待った。
 
「ダーリンよ! やっぱり付き合ったからにはこの呼び方よね! 私のママもパパの事をダーリンって呼んでいたし! 良いかな?」
 
「だ、ダーリン?」
 
 想像を遥かに超えたその単語に俺の脳は混乱する。 
 
 えっ? 何言ってるのこの子? ちょっと待って、そもそもダーリンっておかしくない? 異世界でも夫の事をダーリンって呼んだりするの? 
 いやいや、今はそんな事どうでも良いか、言葉の壁が殆ど無いのはこの世界に来た時から分かってたし。 
 あー、じゃあなんだ? 何が問題なんだっけ??

 ……落ち着け、今までの経験上こういう時は絶対に落ち着いた方が良い。
 
 俺は深呼吸をして呼吸を整える。 
 
 うん、最初から聞き直そう。 ルカの言うダーリンって言葉に特に意味はないかも知れない、ただ単に母親の真似をしたいだけの可能性もあるしな。
 
「えーと、ルカさん? もう一回条件を教えてもらって良いかな?」
 
「な、何回も言わせないでよ! 結構恥ずかしいんだから!! ……私と付き合って欲しいって言ってるじゃない」 
 
 ルカの照れた表情に思わずドキッとする。
 
「そ、その付き合って欲しいってさ、実験体とかって意味じゃなくて? その……所謂、男女の関係になって欲しいって事なのかな?」
 
 女の子との交際経験が無いからか、なんかきもい聞き方になったな。 
 
「そうよ! 私の彼氏になって欲しいって事! 何よ、言っとくけど今更断るのは無しなんだからね!!」
 
 顔をそっぽ向き、最早見慣れた体勢でルカは言う。
 
 ……異世界の神様、貴方が本当に存在するならずっと殴りたいと思ってましたけど、撤回します。 
 こんなイベントを発生させてくれて本当に「ありがとうございます!!」
 
「な、何よ急に? どうしたの??」
 
「あっ、その……嬉しくて」
 
「ふーん、う、嬉しいんだ?」
 
「そりゃあ嬉しいさ。 こんな可愛い子に告白されたら誰だって嬉しいと思うぞ?」
 
「可愛い子……そう、そうよね! じゃあ、私達付き合うって事で良いのよね? 良かった!! 今だから言うけど、かれぴっぴとダーリンで迷ったけどどっちが良いかな? あんまりダーリンって呼ばれるの好きじゃない? ちょっと嫌そうだったっ」
 
「ダーリンでお願いします!!」
 
 俺は全力でルカの言葉を遮る。 正直かれぴっぴも捨て難いがダーリンの方が良い! 日本の男はみんなダーリンと言う言葉に憧れて生きているんだから!!
 
「ありがと、ダーリン!! えへへ、なんか照れるね」
 
 今まで見た中で一番の笑顔をルカは俺に向ける。
 
 か、可愛い……それにしても彼女かぁ。 なんか色々忘れてる気がするけど、もうどうでも良いや。 こんな可愛らしい子と付き合えるんだ、それ以上に大事な事なんてなんだろ。
 
 俺はもう一度ルカに視線を向ける。
 
 嬉しそうに頬を抑え顔を赤らめている姿を見るとなんだかこっちまで照れてしまう。 

 素直に感情を表に出す所はまだまだ子供だなぁっと俺は思っ……子供?? 
 
 ルカを見て思い出したその言葉に俺は自分の身体を見渡す。
 
 わ、忘れてた。 俺、今子供の姿なんだ。 同じ背丈に大人びた口調と顔立ちのせいだからかついルカの事をいつの間にか同級生だと思い込んでしまっていた……ルカって今何歳なんだ?
 
「な、なぁルカって今何歳なんだ?」
 
「私? 私は今年で9歳よ!」
 
「きゅっ!!」
 
 9歳って! ……えっと俺が16歳だから7つ下か? まぁそこまでの差はないか? 
 いやいやいやいや!! 俺とルカが成人してるならまだしも、高校生が小学生と付き合うのってやばくないか? 初めての彼女が小学生って!! 
 う、浮かれてる場合じゃないんじゃ……。
  
 徐々に自分の状況を思い出してきた俺の背中に汗が滲む。
 そしてそんな俺を追い詰めるように部屋の扉を叩く音が響き、聞き慣れた声が俺の耳に届いた。
 
「は、入っても良いかしら?」
 
 あ、青蜜さん……。
 
 お気に入りのシャツをぐっしょりと濡らし、久しぶりに聞いた青蜜の声に俺はただただ絶望を感じていた。
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