上 下
48 / 156
天才少女に出会ってしまった。

7話 「何でも言う事聞くから」この言葉には魔力が宿ります。

しおりを挟む

「生まれてきて16年、思えば色々な事があったなぁ。 楽しかった思い出の殆どが小学校だけど。
 はぁー……こんな最後なら勉強しないで中学時代にもっと遊んどけば良かった。 ハーレムどころか誰にも告白されないで死ぬなんて悲しすぎる、俺の人生一体何処で間違えたんだろうか」

「ち、ちょっと勝手に生きるの諦めないでくれる? ……こっちまでそんな気になるじゃない」
 
 青蜜は涙目を俺に向ける。 
 
 いや、諦めるも何もこの状況もう詰んでるだろ。 青蜜も思いっきり声震えてるし。
 
 俺は視線を青蜜から移して目の前に向ける。
 
「グルゥゥ」
 
 その先には唸り声を上げて涎を撒き散らす獣が俺達の様子を伺いつつ距離を詰めて来ていた。

「なぁ、あれ狼かな?」
 
「狼というよりは大狼ね、凄い大きいもん。 あっ数も多いから大多狼かもね」
 
「ははっ、じゃあ名前は大多狼決定だな」

「ふふふ」 
「ははは」
 
「「……」」
 
 痩せ我慢全開で俺達は顔を見合わせる。
  

「ちょっと! どうするのよ! あんなの聞いてないわよ! 何よあの大きさ! 完全にモンスターじゃない!! 何食べたらあんな大きさになるのよ! 人間? もしかしてあいつら好物人間なの??」
 
 堪えきれずに先に声を上げたのは青蜜は大声で叫ぶ。
 
「お、俺だって聞いてないわ! いや、リアからは聞いてたけど聞いてたとしてもあんなのどうしようもないし!! ってか大声出すな! 見つかったらどうするんだよ!!」
 
「まどかちゃんだって大声出してるじゃない! それにもう遅いわよ! あっちは完全にこっちを認識してるもの! 私さっき目があったもん! あいつらもう私達を噛み殺す気満々だからね? ほら! 今だってガン見じゃない! とっくに見つかってるわよ!!」
 
 狼の群れに指を差し青蜜は叫ぶ。 
 
 あっ、本当だ。 俺も目合ったわ……ってかでけぇー、あんなのアニメでしか見た事ないわ。 多分今の俺達なら一口で食われて終わりだな、それに何匹いるんだよ、そこは一匹狼で良いだろ。
 
「こ、これだけは使いたく無かったけど、どうやらやるしかようね」
 
「え? 青蜜この状況で何か策があるのか?」
 
 俺は再度青蜜に希望の目を向ける。
 
 やっぱり流石の青蜜様だ! こんな絶望的な状況でも策を持ってるなんて! 一生ついていきます!!

「こういう事態に陥った時の対処方法は一つしかないわ。 おとり作戦よ」
 
「……は?」
 
「まどかちゃん! これも世界を救う為よ! ここで私の為に死んで!」
 
 おいおい、マジかこの女。
 
「嫌に決まってるだろ! ってか二人とも助かる方法を思いついたんじゃないのかよ!!」
 
「そんなのあるわけないじゃない! 普通の狼でさえ無理なのにあの大きさにあの数よ? どっちかが食べられてる間に一人が逃げる! これしか方法はないわ!!」
 
 いや、そんな真顔で見られても……。
 
「あっ! ほら、私って治癒能力あるらしいでしょ? だからまどかちゃんを後で蘇生させる事も出来ると思うの! つまりこれが二人が助かる確率が一番高いって事にならない?」
 
「後付けじゃねぇーか、不確かだし! あと今思いついただろそれ!」
 
 大体なんで俺がおとり側なんだ。 格好悪いと思われても俺は絶対おとりなんてしないからな。
 
「お、お願いまどかちゃん」
 
 そ、そんな目で見つめったって無駄だからな。 全くこういう時だけ俺を男扱いしてもらっても困るぜ。 それに俺は生きて帰らなきゃ行けないんだ! シャロさんに伝えなきゃいけない言葉があるんだかっ。

「……もしやってくれたら何でも言う事聞いてあげるから」 
 
「……なんでも?」
 
 今、なんでもって言った? 青蜜が俺の言う事を何でも聞いてくれるって事? 
 
 いやいや、騙されるな。 死んだらそんな約束なんの意味もないだろ! それに俺にはシャロさんがいるんだ、青蜜にこんな事言われたって俺の気持ちが変わる事なんて……な、なんでもかぁ。
 
「ほ、本当に何でも言う事聞いてくれるの?」
 
 ま、まぁよく考えてみればおとりは男の役目だよな、女の子にさせる訳にはいかないし。
 
「えぇ! だから死んじゃダメよまどかちゃん! 出来る限り精一杯抵抗するの! そうすれば私の逃げる時間が増え、いえ、私達が助かる可能性が増すわ!」
 
「あぁ! ここらで俺の男らしい所を見せてやるぜ! そのかわり絶対約束忘れるなよ!」
 
 女の子に何でも言う事を聞いてもらえる、その興奮からか俺の頭にはもうすっかり目の前の狼に対する恐怖が無くなっていた。
 
「じ、じゃああの先頭の狼が後三歩こちらに近付いて来たら私は後ろに走るわ、まどかちゃんは狼の方向に向かって走ってもらえるかしら」
 
「わかった」
 
 俺は目の前の狼に視線を戻す。
 
 ふん、よく見れば唯の犬っころじゃねぇーか。 軽く頭撫でてやるぜ。
 
「……一歩目よ」
 
 口も牙も大きいだけだし爪も鋭いだけで大した事は無さそうだな大丈夫、大丈夫。 
 
「二歩目」
 
 ……ま、まぁ見た事ないけどマンモスに比べれば小さいよ。 言わばゾウみたいなもんだろこいつら? 余裕、余裕。 
 
「……三歩目!! 任せたわよ! まどかちゃん!!」
 
「おうっ!!」
 
 青蜜の言葉が耳に入った瞬間、俺は全力で駆け出した。 ……狼に背を向けて。 
 
「ち、ちょっと! なんでこっちの方向に走ってくるのよ!! 逆じゃない!!」 
 
「うるせぇー! あんなの無理に決まってるだろ!! なんだよゾウだから余裕って! 意味わからんわ!!」
 
「何それ! 意味のわからない事言わないでよ!! 要はビビったのね、だっさ!!」
 
「あんなの誰でもビビるわ! 言っとくけど俺をおとりにしようとした青蜜には何も言われたくないからな!! なんだよ、私の逃げる時間を稼げって! 今まではお前の事格好良いって思ってたのにがっかりだよ!!」
 
「ふん、何でも言う事聞いてあげるって言ったら鼻の下伸ばしてチラチラ私の胸元見てたまどかちゃんに言われたくないわよ! 本当に童貞はきもいわね!!」
 
「お前だって処女だろうがっ!!」

「あー! あの時の事は言わない約束だったじゃない!! 最低ね!!」 
 
「グルゥゥゥ」
 
「「うるさい!!」」
 
 一心不乱に走る俺達の後ろから響く唸り声に同時に振り返って文句を言う。
 
 そしてその声の主は俺達が振り返った目と鼻の先までもう既に追いついていた。
 
「……まぁ今は小学生の頃の姿だもんね、そりゃ追いつかれるわよね」
 
「いや、高校生の頃の姿でも無理だろ」
 
 俺と青蜜はこれ以上の逃走を諦めて足を止める。
 狼の口はもう俺達の頭を覆い始めていたから。
 
「次の転生先はモンスターが居なくて魔法もない世界でお願いします」
 
「……それ普通に日本で良いじゃない」
 
 俺は不自然に暗くなってきた空間で青蜜の顔を見たのち、覚悟を決めてそっと目を閉じた。
 
 ……最後におっさんをぶん殴りたかったな。 あのおっさんのせいで俺の人生が終わった様なもんだもんな。
 
「あのクソポンコツがぁ!!」
 
 そうそうこんな風に叫びながら……ってあれ?
 
 急に響いた叫び声に俺はゆっくりと目を開ける。 
 
 い、生きてる? なんでだ?
 
 目を開けた先にはさっき迄俺達の目の前にいた筈の狼が牙が砕けている状態で倒れていた。
 
 頰に思いっきり拳の跡がついてる……誰かに殴られたのか?
 
「どうやらギリギリ間に合った様ですね。 大丈夫ですか? まどかさん、あかねちゃん」
 
 こ、この声は!!

 聴き馴染みのある声に俺は心の底から安堵する。 
 
「結衣ちゃん! 無事だったんだっ」
 
 俺の目に黒髪短髪のタンクトップ姿の少年が写る。

 ……だれ? え? これもしかして結衣ちゃん?

 残った狼達の激しい咆哮よりも結衣ちゃんの声で話すこの少年の方が俺の脳を困惑させた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ホスト異世界へ行く

REON
ファンタジー
「勇者になってこの世界をお救いください」 え?勇者? 「なりたくない( ˙-˙ )スンッ」 ☆★☆★☆ 同伴する為に客と待ち合わせしていたら異世界へ! 国王のおっさんから「勇者になって魔王の討伐を」と、異世界系の王道展開だったけど……俺、勇者じゃないんですけど!?なに“うっかり”で召喚してくれちゃってんの!? しかも元の世界へは帰れないと来た。 よし、分かった。 じゃあ俺はおっさんのヒモになる! 銀髪銀目の異世界ホスト。 勇者じゃないのに勇者よりも特殊な容姿と特殊恩恵を持つこの男。 この男が召喚されたのは本当に“うっかり”だったのか。 人誑しで情緒不安定。 モフモフ大好きで自由人で女子供にはちょっぴり弱い。 そんな特殊イケメンホストが巻きおこす、笑いあり(?)涙あり(?)の異世界ライフ! ※注意※ パンセクシャル(全性愛)ハーレムです。 可愛い女の子をはべらせる普通のハーレムストーリーと思って読むと痛い目をみますのでご注意ください。笑

気づいたら隠しルートのバッドエンドだった

かぜかおる
ファンタジー
前世でハマった乙女ゲームのヒロインに転生したので、 お気に入りのサポートキャラを攻略します! ザマァされないように気をつけて気をつけて、両思いっぽくなったし ライバル令嬢かつ悪役である異母姉を断罪しようとしたけれど・・・ 本編完結済順次投稿します。 1話ごとは短め あと、番外編も投稿予定なのでまだ連載中のままにします。 ざまあはあるけど好き嫌いある結末だと思います。 タグなどもしオススメあったら教えて欲しいです_|\○_オネガイシヤァァァァァス!! 感想もくれるとうれしいな・・・|ョ・ω・`)チロッ・・・ R15保険(ちょっと汚い言葉遣い有りです)

離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね? 魔道具師として自立を目指します!

椿蛍
ファンタジー
【1章】 転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。   ――そんなことってある? 私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。 彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。 時を止めて眠ること十年。 彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。 「どうやって生活していくつもりかな?」 「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」 「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」 ――後悔するのは、旦那様たちですよ? 【2章】 「もう一度、君を妃に迎えたい」 今まで私が魔道具師として働くのに反対で、散々嫌がらせをしてからの再プロポーズ。 再プロポーズ前にやるのは、信頼関係の再構築、まずは浮気の謝罪からでは……?  ――まさか、うまくいくなんて、思ってませんよね? 【3章】 『サーラちゃん、婚約おめでとう!』 私がリアムの婚約者!? リアムの妃の座を狙う四大公爵家の令嬢が現れ、突然の略奪宣言! ライバル認定された私。 妃候補ふたたび――十年前と同じような状況になったけれど、犯人はもう一度現れるの? リアムを貶めるための公爵の罠が、ヴィフレア王国の危機を招いて―― 【その他】 ※12月25日から3章スタート。初日2話、1日1話更新です。 ※イラストは作成者様より、お借りして使用しております。

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

かむら
ファンタジー
 剣持匠真は生来の不幸体質により、地球で命を落としてしまった。  その後、その不幸体質が神様によるミスだったことを告げられ、それの詫びも含めて匠真は異世界へと転生することとなった。  思ったよりも有能な能力ももらい、様々な人と出会い、匠真は今度こそ幸せになるために異世界での暮らしを始めるのであった。 ☆ゆるゆると話が進んでいきます。 主人公サイドの登場人物が死んだりなどの大きなシリアス展開はないのでご安心を。 ※感想などの応援はいつでもウェルカムです! いいねやエール機能での応援もめちゃくちゃ助かります! 逆に否定的な意見などはわざわざ送ったりするのは控えてください。 誤字報告もなるべくやさしーく教えてくださると助かります! #80くらいまでは執筆済みなので、その辺りまでは毎日投稿。

転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

しゃむしぇる
ファンタジー
 こちらの作品はカクヨム様にて先行公開中です。外部URLを連携しておきましたので、気になる方はそちらから……。  職場の上司に毎日暴力を振るわれていた主人公が、ある日危険なパワハラでお失くなりに!?  そして気付いたら異世界に!?転生した主人公は異世界のまだ見ぬ食材を求め世界中を旅します。  異世界を巡りながらそのついでに世界の危機も救う。  そんなお話です。  普段の料理に使えるような小技やもっと美味しくなる方法等も紹介できたらなと思ってます。  この作品は「小説家になろう」様及び「カクヨム」様、「pixiv」様でも掲載しています。  ご感想はこちらでは受け付けません。他サイトにてお願いいたします。

青い鳥と 日記 〜コウタとディック 幸せを詰め込んで〜

Yokoちー
ファンタジー
もふもふと優しい大人達に温かく見守られて育つコウタの幸せ日記です。コウタの成長を一緒に楽しみませんか? (長編になります。閑話ですと登場人物が少なくて読みやすいかもしれません)  地球で生まれた小さな魂。あまりの輝きに見合った器(身体)が見つからない。そこで新米女神の星で生を受けることになる。  小さな身体に何でも吸収する大きな器。だが、運命の日を迎え、両親との幸せな日々はたった三年で終わりを告げる。  辺境伯に拾われたコウタ。神鳥ソラと温かな家族を巻き込んで今日もほのぼのマイペース。置かれた場所で精一杯に生きていく。  「小説家になろう」「カクヨム」でも投稿しています。  

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

処理中です...