上 下
22 / 156
ポンコツなおっさんに召喚されてしまった。

22話 福吉円人

しおりを挟む

「その日俺はテレビを見ていたんだ。 良くある普通の音楽番組をね。 その番組でさ……ある男性ボーカルが言ってたんだ。 

 『俺は昔から母親に格好良いと言われていて、それをずっと本気にしていたんです、だから調子に乗ってイケメン集団のオーディションに行くって母親に言ったら猛反対されたんですよ!! 
 貴方は私の子供だから私は格好良いって言うけど、世間一般で言えば別に大した事ないレベルなのよって!!』

 この発言を聞いた時、テレビの中の人達は皆笑っていたけど俺は笑えなかった。 その男性ボーカルは正に俺自身だったからだ」
 
 あぁぁ、本当やめて、死ぬ。 いやむしろだれか俺を殺してくれ。
 
「ど、どう言う事じゃ??」
 
「俺もさ、ずっと母さんに尋ねていたんだ。 俺はモテると思う? ハーレム作れると思う?? ってさ。
 そんな質問をする度に母さんは笑顔で答えてくれた。 
 『当たり前じゃない、貴方はカッコ良いもの!!』 ってね。

 俺はそれをずっとずっと信じていたんだ! 
 母さんに格好良いって言われる俺が、更に女の子を優しくする意識まで持っている。 あの本の主人公より絶対に俺の方がモテる筈だと信じて疑ってなかったんだ。
 ……だからこのボーカルの言葉を聞いた瞬間、俺はひどく落ち込んだもんだ。
 あぁ俺の母さんも俺が息子だから言ってくれていただけだったのかって気付いたのさ」
 
「……そんな事があったのか。 
 お主にも辛い過去があったんじゃな。 すまんな、言いにくい事を言わせてしまった様じゃな」
 
 いや、笑ってるじゃん。 さっきからずっとあんた笑ってるじゃねぇーか!!
 
「良いんだ。 ハーレムなんて最初から不可能だったんだ、この顔に生まれた瞬間からな」
 
 ……まぁそれはそうだよね。
 
「でもどうしてそこから医者になろうとしたんじゃ?? 話を聞く限りお主が医者になりたいと言う理由がわからんのだが??」
 
 え?? ま、まだ続くの? もう良くない? この魔女、本気で俺を殺したいのか??
 
「別に本当は医者になんてなりたくないんだ。 ただあの夏休みの、俺が夢を失った夏休みの終わり際にある制度が変更されるって話を聞いたんだ」
 
「ある制度じゃと? 何じゃそれは??」
 
「それは……日本有数の進学校、聖桜葉女学院が共学になる事だった! そのニュースを見た時、まさに神お導きだと俺は確信した。 俺の顔じゃ普通の高校に行ってもモテる事なんて無いだろう。 だけど、周りが全員女の子だったら結果は変わってくるんじゃないか? 例え望んだほどモテなくても、競争相手の少ない環境に行く事は決して悪手では無い! そんな思いが俺の脳裏を過ぎったんだ。
 そこからは俺にもう迷いは無かった。 それまでの友人関係を全て断ち切り、俺は全力で勉強した。 中学のクラス会、文化祭、体育祭も修学旅行もその全てを犠牲にし勉学に励んだ!  友達には無理だと笑われ、クラスの女子にはキモいと蔑ままれようが、関係なかった! 
 全ては聖桜葉女子学院に入学する為、その一心で俺は中学生活を送ったんだ!!」
 
「……ま、まどかちゃん」
 
 辞めて、そんな目で見ないで。 気持ち悪いのはもう十分理解してるから。
 
「そして俺の努力は実った。 この春、俺は首席で聖桜葉に入学する事が出来たんだから」


「まさかこんな不純な気持ちの奴に負けていたなんて……代表挨拶を取られた事を思い出すと腹立たしいわね」
 
 影蜜が冷たい視線を俺達に向ける。
 
 青蜜が入学してからずっと冷たかったのは、この事も根に持っているのだろう。 入学式で既に俺を睨んでたからな、こいつ。 
 
「つまりお主は努力して夢を叶えた訳なのだな? 良い話ではないか!」
 
「……うん、入学したまでは良かったんだ。 だけど俺は致命的なミスに入学してから気付いたんだ」
 
「ミス??」
 
「べ、勉強ばかりしてたから、肝心の女の子との話し方がわからなかったんだ」
 
「……え??」
 
 影蜜が頭を横に傾ける。 
 
 お前には、いやお前達にはわからないよな。 他人との話し方が分からなくなる気持ちなんて。
 
「それに、まさか入学した男が俺一人だなんて思わないだろ……」
 
 それは本当に今でも思う。 他にもいても良いだろ、試験の日はあんなに大量にいたじゃん……。
 
「じゃあなに? あんたがいつも自分の席で仏頂面で勉強ばっかしてるのって、話す相手がいないから? あっ間違えたわ、緊張して声が出ないからなのね??」
 
 影蜜は円人を指差し大きく笑い出し、その笑い声に魔女も混ざる。
  
「くくくっ、一人目で大当たりじゃな」
 
 
「あ、あんた何しにうちの学校に入学してきたのよ。 馬鹿だわ、本物の馬鹿がここにいるわ!! どうせ医者ってのもあれでしょ?? 職場に女の子が多そうだからとかって言う不純な動機なんじゃないの??」
 
「なっ! 何でわかったんだ??」
 
「それしか理由ないじゃない! 無駄よ、あんたがモテる日なんて来ないわ、どうせ高校生活中も医者になる為に勉強してたとかって言い訳を並べて自分から女子と話す事なんてしようとしないんでしょ?? そうやって同じ事を繰り返していくのよ」
 
「……」
 
 た、確かにその通りだけど……オーバーキルだろこれ。 偽りの仮面を脱ぎ捨てたって言ってた俺までも黙ってるじゃん。 
 
 ってか何でお前が傷ついた感じ出してるの? 俺止めたよね? ただの自爆だよね?? 本当に辛いのはどう考えても俺の方だろ……。
 
「本当に男子って阿呆なのね。 寡黙で頭が良くてミステリアスな感じもあるなーって思ってたけど、中身は只のヘタレじゃない。 男なんてこんなものなのよね! 阿呆ばっかり!!
 ねぇ? 私もそう思うでしよ??」
 
「え? えぇ、まぁ確かにね」
 
 影蜜の問いに、青蜜は額に汗を滲ませながら歯切れ悪く答えた。
 
 青蜜の反応がいつもと違う事を俺は不思議に思った。
 
 この状況、いつも青蜜なら一緒になって笑うはずだけどな? もしかして少し俺に気を遣ってくれているのだろうか? 
 
 だ、だとしたら俺にも少し希望が出てくるぞ!! 青蜜が元の世界に戻った時に周りに言い振らす事さえしなきゃまだダメージは少なく済むからな!!

「さてと、一人目はこれくらいで良いじゃろう。 それにしても思った以上に時間を使ってしまったなぁ、影に自我を与えすぎたか?? まぁ良い、まだ我の魔力は残っておるしな。 次は、そうじゃな。 ここからは順番通りで行こうかのぅ。 次はこの世界に最初に来た者の自己紹介じゃ、宜しく頼むぞ」
 
 順番通りって事は結衣ちゃんか。 結衣ちゃんなら俺の様にならないだろうし、それは青蜜も同じだろう。
 
 結局さ、この自己紹介イベントも俺を下げる為だけのものだったってことだろ??
 俺の祖先は昔神に喧嘩でも売ったのかな??
 
 誰かにぶつけたい怒りを無理矢理、祖先に向けて後俺は結衣ちゃんの方へ視線を向けた。
 
 さっきから少し気になってたんだけど結衣ちゃんの影、なんか怒ってないか?? 結衣ちゃんも影惣もまだ一回も声出してないの不思議だしな。
 
「一番目って事は私ね! 本当は最後が良かったんだけどまぁ良いわ」
 
 そんな俺の不安を嘲笑う様に影蜜は元気よく声を出した。
 
 あ、青蜜が一番目? いや、そんなは筈ない! おっさんをボコボコにしたのは、身体強化された青蜜じゃなかったのか??
 
「そうね、まずはやっぱり名前からよね。 私の、私達の名前は青蜜あかね。 聖桜葉学院の高校一年生よ」
 
 青蜜も結衣ちゃんも魔女でさえ、影蜜の自己紹介を止める事は無かった。 
 
 ほ、本当に青蜜が一番最初にこの世界に来たのか??

 混乱する俺の視界に入った青蜜の青ざめた顔と、魔女を睨みつけて震える結衣ちゃんの仕草が、この悪趣味な自己紹介がまだまだ始まったばかりだと言う事を俺に悟らせた。
 
しおりを挟む

処理中です...