12 / 156
ポンコツなおっさんに召喚されてしまった。
12話 選択
しおりを挟む「はい! この話はもうお終い!! で、まどかちゃんの話ってのは結局何だったの??」
まだ少し恥ずかしいのか、青蜜は自分手を叩いて強制的に話を切り替える。
俺に向けられた質問だったが、さっき気付いた悲しい事実に、そんな事はもうどうでも良くなっていた…。
「なんでもない」
「はぁー?? 何でも無いってなによ!
あんたがここに呼び出したんじゃ無いの?? って、何であんたそんな泣きそうな顔してるのよ……ど、どうかしたの??」
「してない」
「いや、してるわよ。 今にも溢れそうなくらい目に涙溜まってるじゃない。
……わ、私も言い過ぎた所があったかも知れないわね、落ち着いたらで良いから話して貰えるかしら??」
「……うん」
優しくされると、本当に涙が出てしまいそうになる。
青蜜、お前やっぱ良い奴だったんだな。
だからこそお前にはわからないだろう、俺の今のこの惨めな気持ちはな……。
「ではここから先はわしが話すとしよう。 元を正せばわしが言わねばならぬ事だったのじゃし、謝らなくてはならんからのぅ。
あかぬ殿、結衣殿、まどか殿、今回はわしの早とちりでこの世界に召喚してしまい、本当に申し訳ない!!
異世界から来る三人の聖女がこの世界を救うと言う予言が、でたらめだとわかった今、お主らがこの世界にいる意味も無くなってしまったじゃろう。
もし元の世界に帰りたいと思ったなら直ぐにその準備をしよう! 遠慮なく言ってくれ!
勿論、このままこの世界に止まってくれても良い。 最大限のサポートはするつもりじゃ! どうするかのぅ??」
謝罪するのに慣れているのか、おっさんが急に大人っぽく見える。
まぁ何はともあれ、とりあえずおっさんが納得してくれたのは良かった。
これで俺もようやく元の世界に戻れそうだ。
それに俺達一人一人に選択権をくれたのもありがたい。
青蜜なんかはまだこの世界に残りたいと思っていそうだったから。
「……やっぱり私なんかじゃ世界を救うなんて出来ないよね」
誰にも聞こえない様に呟いたであろう青蜜の言葉を、隣に居た俺は聞いてしまう。
考えてみれば気合入っていた分、余計にショックなのだろう。 折角異世界に来たのにまさかの用件無しだもんな。
俺も経験したからその何とも言えない気持ちは分かるつもりだ。
こいつの場合私一人で世界を救うとまで言ってたし……尚更か。
「か、帰るわ。 私達がいても意味が無いって事がわかった以上、おっさんの邪魔をする訳にもいかないしね。
おっさんはこれから世界を救うんでしょ??
だったら私達のサポートなんてしてる暇ないじゃない! 頑張りなさいよ!!
それに、まどかちゃんの話したかった事ってのもこれだったんでしょ? 貴方もその、帰りたかったのよね?」
「あ、あぁ。 まぁな」
「そうよね。 そもそも貴方は女でも無かったのだし、聖女になって欲しいって言われた時から違和感を感じていた筈よね。 気付けなくて悪かったわね。 ゆいはどうするの?」
「わ、私は……帰ります。 あかねちゃんの言う通り、私がここにいても出来る事はありそうにないですから」
「……決まりね、みんなで帰りましょう。 まぁ短い間だったけど、異世界なんてのを体験出来たのは良かったわ!!
じゃあ、ゆい着替えに行きましょうか?」
「は、はい」
青蜜は両手を高く上に掲げて身体を伸ばした後、結衣ちゃんと一緒に部屋の外へと歩いていく。
その後姿は、なんだかとても悲しそうに見えた。
まぁ何にせよ、これで帰るのだ。 俺としてはこれで良かったんだろう。
本当にこれで良いのか??
帰る事を決めた時の、青蜜のあの表情が、俺を元の世界に戻る事を躊躇させる。
悲しそうだったのは本当に後姿だけか??
……もう少しだけ、付き合ってやるか。
「待てよ、青蜜。 俺の話はまだ終わってないぞ」
「え?」
俺は青蜜の足を止める。
「なに言ってんのよ、もう帰るのよ? まどかちゃんの話もそれが目的だったんじゃないの?? まぁ他に話があるなら学校で聞いてあげるわ、一様約束したからね」
「俺は帰らない事にするよ」
「はぁ? 何言ってのあんた??」
「そ、そうじゃぞまどか殿! 一体どうしたと言うのじゃ? お主が一番帰りたがっておってはないのか??」
青蜜に次いで直ぐにおっさんが反応する。
確かに俺は帰ろうとしていたし、この反応も当然だと思う。
だけど、仕方ないだろ??
「青蜜はあんなに声を震わせてまで我慢してたし、なにより男ってのは女の子の悲しそうな顔に弱いもんだ」
「だ、誰が悲しそうな顔してたのよ!! それに声だって震えてないわ! わ、私はただ少し残念だと思っただけよ!!」
また声に出てた……。
青蜜は顔を赤くして、俺の方に近付いてくる。
え? もしかして殴られる? こいつ恥ずかしい時にも殴ったりするの??
「ちょっと待った!! 違うんだ、今のは思わず口から出ただけで、本心じゃないんだよ!! 俺が帰らない理由は他にもあるから!!」
「へぇー、そう。 じゃあその理由とやらを教えて貰えるかしら??」
思わず言い訳をした事を後悔する。
正直理由なんて無いんだ、本当にそう思っただけで、更に言えばちょっと格好付けたかっただけだし……。
困った俺は咄嗟におっさんに視線を向けた。
俺と目が合ったおっさんは、直ぐに目を逸らし我関せずの意思表示をする。
ちょっとくらい案出してくれても良いじゃねぇーか!!
もしもの時のミラクル要員として残って欲しいってさっき言ってたろ??
それを今言えば、俺達がこの世界に残る理由にも少しはなるだろ!
まぁ青蜜か納得するかは、別の話だけど……。
それでもなんか他の案の一つくらい!
頼むって! このままだと絶対殴られる! 徐々に近付いてきてるし!!
そんな俺の心の声など知った事では無いと言わんばかりに、おっさんは知らん振りを続行する。
駄目だ。 自分でなんとかするしか無いな、そもそもあのポンコツに助けを求めたのが間違いだったわ。
……ん? ポンコツ??
そうだ! もっともらしい理由があるじゃないか!!
「さて、教えて貰えるかしら??」
目の前には青蜜が拳を握り締めて待機していた。
俺は呼吸を整えてたった今思い付いた事を口に出す。
「……俺が帰らない理由は、このおっさんがポンコツだからだ」
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
青い導火線 クセモノたちの狂詩曲
奈月沙耶
恋愛
高校生になって始まったのは騒がしい日々。
クセモノな先輩たちに振り回されて彼はたくましくなっていく。
やがて知る様々な思い、たくさんの思惑。
そして一生ものの恋が始まる――――。
始めは学園コメディですが後半恋愛色が強くなります。多角多面な恋愛模様がお好きな方は是非。
今後は「Lotus 便利屋はカフェにいる」に続きます。
※2021/12/11~冒頭から文章とレイアウトの手直ししていきます。内容に変更はありません
*登場人物
・池崎正人
新入生。持ち前の行動力と運動能力で活躍するようになる。負けず嫌いで男らしい性格だが察しが悪い。
・中川美登利
中央委員会委員長。容姿の良さと性格の特異さで彼女を慕う者は多いが恐れる者も多い。
・一ノ瀬誠
生徒会長。美登利の幼馴染。彼女に動かされているようでいて、実はいちばん恐れられている。
・綾小路高次
風紀委員長。堅物で融通が利かないが、意外な一面を持っていたりもする?
・坂野今日子
中央委員会書記。価値観のすべてを美登利を基準に置き絶対的に従っている。
・船岡和美
中央委員会兼放送部員。軽快なトークが得意。
・澤村祐也
文化部長。ピアノの達人。彼も幼い頃から美登利に心酔している。
・安西史弘
体育部長。際立った運動能力の持ち主で「万能の人」とあだ名される。性格は奇々怪々。
・森村拓己
正人の同級生で同じく寮生。美登利の信奉者。計算力が高く何事もそつなくこなす。
・片瀬修一
正人の同級生。総合的に能力が高く次期中央委員長と目される。マイペースで一見感情が鈍いようにも見えるが。
・小暮綾香
正人の同級生で調理部員。学年一の美少女。
・須藤恵
綾香の親友。大人し気な様子だが計算力が高く、けっこうちゃっかりしている。
・宮前仁
美登利と誠の幼馴染。市内の不良グループをまとめる櫻花連合の総長になるため北部高校に入学した経緯を持つ。
・錦小路紗綾
綾小路の婚約者。京都に住んでいる。
・志岐琢磨
喫茶ロータスのマスター。元櫻花連合総長。美登利たちの後ろ盾のような存在。
・中川巽
美登利の兄。初代生徒会長。「神童」「天才」と称されるものの、人間的に欠けている部分が多い。それゆえに妹との関係を拗らせてしまう。
・榊亜紀子
美大生。芸術に精魂を傾ける奇抜な性格の持ち主。
・村上達彦
巽の同級生。生い立ちと持って生まれた優秀さのせいで彼もまた拗らせている。中川兄妹に出会って一層歪んでしまう。
召喚出来ない『召喚士』は既に召喚している~ドラゴンの王を召喚したが誰にも信用されず追放されたので、ちょっと思い知らせてやるわ~
きょろ
ファンタジー
この世界では冒険者として適性を受けた瞬間に、自身の魔力の強さによってランクが定められる。
それ以降は鍛錬や経験値によって少しは魔力値が伸びるものの、全ては最初の適性で冒険者としての運命が大きく左右される――。
主人公ルカ・リルガーデンは冒険者の中で最も低いFランクであり、召喚士の適性を受けたものの下級モンスターのスライム1体召喚出来ない無能冒険者であった。
幼馴染のグレイにパーティに入れてもらっていたルカであったが、念願のSランクパーティに上がった途端「役立たずのお前はもう要らない」と遂にパーティから追放されてしまった。
ランクはF。おまけに召喚士なのにモンスターを何も召喚出来ないと信じていた仲間達から馬鹿にされ虐げられたルカであったが、彼が伝説のモンスター……“竜神王ジークリート”を召喚していた事を誰も知らなかったのだ――。
「そっちがその気ならもういい。お前らがSランクまで上がれたのは、俺が徹底して後方からサポートしてあげていたからだけどな――」
こうして、追放されたルカはその身に宿るジークリートの力で自由に生き抜く事を決めた――。
元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌
紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。
それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。
今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。
コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。
日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……?
◆◆◆
「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」
「紙でしょ? ペーパーって言うし」
「そうだね。正解!」
◆◆◆
神としての力は健在。
ちょっと天然でお人好し。
自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中!
◆気まぐれ投稿になります。
お暇潰しにどうぞ♪
腐ったお姉ちゃん、【ヤンデレBLゲームの世界】で本気を出すことにした!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
ある日、不遇な異母兄が虐げられる理由を考えていたら――――
この世界が鬼畜ヤンデレスキーな腐女子ご用達の、ほぼほぼハッピーエンドの無い、メリバ、バッドエンド、デッドエンドの散りばめられているBLゲーム【愛シエ】の世界だと気が付いた!
そして自分が、ゲームの攻略対象のメンヘラリバース男の娘こと第三王子のネロに生まれ変わっていることを知った前世腐女子の茜は、最推しだったゲーム主人公(総受け)のバッドエンド&死亡フラグをへし折ることを決めた。
まずは異母兄弟であることを利用し、ゲーム主人公のシエロたんに会うと――――
なんとびっくり、シエロたんの中身は前世の弟、蒼だったっ!?
BLは嫌だと『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、半泣きで縋られたので、蒼のお姉ちゃんである茜は、弟の生命と貞操と尊厳を守るため、運命に立ち向かうことにした。
「生でBLを見られる♪」というワクテカな誘惑を、泣く泣く断ち切って・・・
どうにかして、破滅、死亡フラグを折って生き残ってやろうじゃないのっ!!!!
掛かって来いや運命っ!
設定はふわっと。
多分、コメディー。
※BLゲームに転生ですが、BLを回避する目的なのでBLな展開にはなりません。
※『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』の、腐ったお姉ちゃんが主役の話。
『腐ったお姉様~』の方を読んでなくても大丈夫です。
私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!
神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話!
『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください!
投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!
転移した異世界が無茶苦茶なのは、オレのせいではない!
どら焼き
ファンタジー
ありがとうございます。
おかげさまで、第一部無事終了しました。
これも、皆様が読んでくれたおかげです。
第二部は、ゆっくりな投稿頻度になると思われます。
不遇の生活を送っていた主人公が、ある日学校のクラスごと、異世界に強制召喚されてしまった。
しかもチートスキル無し!
生命維持用・基本・言語スキル無し!
そして、転移場所が地元の住民すら立ち入らないスーパーハードなモンスター地帯!
いきなり吐血から始まる、異世界生活!
何故か物理攻撃が効かない主人公は、生きるためなら何でも投げつけます!
たとえ、それがバナナでも!
ざまぁ要素はありますが、少し複雑です。
作者の初投稿作品です。拙い文章ですが、暖かく見守ってほしいいただけるとうれしいです。よろしくおねがいします。
器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。
武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。
人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】
前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。
そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。
そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。
様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。
村を出て冒険者となったその先は…。
※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。
よろしくお願いいたします。
えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始!
2024/2/21小説本編完結!
旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です
※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。
※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。
生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。
伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。
勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ!
・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持
・12/28 ハイファンランキング 3位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる