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ポンコツなおっさんに召喚されてしまった。

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「はい! この話はもうお終い!! で、まどかちゃんの話ってのは結局何だったの??」
 
 まだ少し恥ずかしいのか、青蜜は自分手を叩いて強制的に話を切り替える。

 俺に向けられた質問だったが、さっき気付いた悲しい事実に、そんな事はもうどうでも良くなっていた…。

「なんでもない」
 
「はぁー?? 何でも無いってなによ!
 あんたがここに呼び出したんじゃ無いの?? って、何であんたそんな泣きそうな顔してるのよ……ど、どうかしたの??」
 
「してない」
 
「いや、してるわよ。 今にも溢れそうなくらい目に涙溜まってるじゃない。
 ……わ、私も言い過ぎた所があったかも知れないわね、落ち着いたらで良いから話して貰えるかしら??」
 
「……うん」
 
 優しくされると、本当に涙が出てしまいそうになる。 
 青蜜、お前やっぱ良い奴だったんだな。
 だからこそお前にはわからないだろう、俺の今のこの惨めな気持ちはな……。
 

「ではここから先はわしが話すとしよう。 元を正せばわしが言わねばならぬ事だったのじゃし、謝らなくてはならんからのぅ。 

 あかぬ殿、結衣殿、まどか殿、今回はわしの早とちりでこの世界に召喚してしまい、本当に申し訳ない!! 

 異世界から来る三人の聖女がこの世界を救うと言う予言が、でたらめだとわかった今、お主らがこの世界にいる意味も無くなってしまったじゃろう。 

 もし元の世界に帰りたいと思ったなら直ぐにその準備をしよう! 遠慮なく言ってくれ!
 勿論、このままこの世界に止まってくれても良い。 最大限のサポートはするつもりじゃ! どうするかのぅ??」 

 謝罪するのに慣れているのか、おっさんが急に大人っぽく見える。

 まぁ何はともあれ、とりあえずおっさんが納得してくれたのは良かった。

 これで俺もようやく元の世界に戻れそうだ。

 それに俺達一人一人に選択権をくれたのもありがたい。

 青蜜なんかはまだこの世界に残りたいと思っていそうだったから。

「……やっぱり私なんかじゃ世界を救うなんて出来ないよね」
 
 誰にも聞こえない様に呟いたであろう青蜜の言葉を、隣に居た俺は聞いてしまう。
 
 考えてみれば気合入っていた分、余計にショックなのだろう。 折角異世界に来たのにまさかの用件無しだもんな。 
 俺も経験したからその何とも言えない気持ちは分かるつもりだ。

 こいつの場合私一人で世界を救うとまで言ってたし……尚更か。
 
「か、帰るわ。 私達がいても意味が無いって事がわかった以上、おっさんの邪魔をする訳にもいかないしね。 
 おっさんはこれから世界を救うんでしょ??
 だったら私達のサポートなんてしてる暇ないじゃない! 頑張りなさいよ!!
 
 それに、まどかちゃんの話したかった事ってのもこれだったんでしょ? 貴方もその、帰りたかったのよね?」
 
「あ、あぁ。 まぁな」
 
「そうよね。 そもそも貴方は女でも無かったのだし、聖女になって欲しいって言われた時から違和感を感じていた筈よね。 気付けなくて悪かったわね。 ゆいはどうするの?」
 
「わ、私は……帰ります。 あかねちゃんの言う通り、私がここにいても出来る事はありそうにないですから」
 
「……決まりね、みんなで帰りましょう。 まぁ短い間だったけど、異世界なんてのを体験出来たのは良かったわ!!
 じゃあ、ゆい着替えに行きましょうか?」 
 
「は、はい」

 青蜜は両手を高く上に掲げて身体を伸ばした後、結衣ちゃんと一緒に部屋の外へと歩いていく。

 その後姿は、なんだかとても悲しそうに見えた。

 まぁ何にせよ、これで帰るのだ。 俺としてはこれで良かったんだろう。



 本当にこれで良いのか??


 帰る事を決めた時の、青蜜のあの表情が、俺を元の世界に戻る事を躊躇させる。

 悲しそうだったのは本当に後姿だけか?? 
  

 ……もう少しだけ、付き合ってやるか。


 「待てよ、青蜜。 俺の話はまだ終わってないぞ」

「え?」

 俺は青蜜の足を止める。 
 
「なに言ってんのよ、もう帰るのよ? まどかちゃんの話もそれが目的だったんじゃないの?? まぁ他に話があるなら学校で聞いてあげるわ、一様約束したからね」

「俺は帰らない事にするよ」
 
「はぁ? 何言ってのあんた??」

「そ、そうじゃぞまどか殿! 一体どうしたと言うのじゃ? お主が一番帰りたがっておってはないのか??」

 青蜜に次いで直ぐにおっさんが反応する。

 確かに俺は帰ろうとしていたし、この反応も当然だと思う。 
 だけど、仕方ないだろ?? 

 「青蜜はあんなに声を震わせてまで我慢してたし、なにより男ってのは女の子の悲しそうな顔に弱いもんだ」

「だ、誰が悲しそうな顔してたのよ!! それに声だって震えてないわ! わ、私はただ少し残念だと思っただけよ!!」

 また声に出てた……。 

 青蜜は顔を赤くして、俺の方に近付いてくる。 

 え? もしかして殴られる? こいつ恥ずかしい時にも殴ったりするの??

「ちょっと待った!! 違うんだ、今のは思わず口から出ただけで、本心じゃないんだよ!! 俺が帰らない理由は他にもあるから!!」

「へぇー、そう。 じゃあその理由とやらを教えて貰えるかしら??」 

 思わず言い訳をした事を後悔する。 
 正直理由なんて無いんだ、本当にそう思っただけで、更に言えばちょっと格好付けたかっただけだし……。

 困った俺は咄嗟におっさんに視線を向けた。 
 俺と目が合ったおっさんは、直ぐに目を逸らし我関せずの意思表示をする。

 ちょっとくらい案出してくれても良いじゃねぇーか!!
 もしもの時のミラクル要員として残って欲しいってさっき言ってたろ??
 それを今言えば、俺達がこの世界に残る理由にも少しはなるだろ!

 まぁ青蜜か納得するかは、別の話だけど……。
 それでもなんか他の案の一つくらい! 
 頼むって! このままだと絶対殴られる! 徐々に近付いてきてるし!!  

 そんな俺の心の声など知った事では無いと言わんばかりに、おっさんは知らん振りを続行する。

 駄目だ。 自分でなんとかするしか無いな、そもそもあのポンコツに助けを求めたのが間違いだったわ。

 ……ん? ポンコツ?? 

 そうだ! もっともらしい理由があるじゃないか!! 

 「さて、教えて貰えるかしら??」  

 目の前には青蜜が拳を握り締めて待機していた。

 俺は呼吸を整えてたった今思い付いた事を口に出す。


「……俺が帰らない理由は、このおっさんがポンコツだからだ」
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