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第八章 交錯
従者の意思
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「リウ様に会えないって、どういう事ですか!」
牢へ続く扉の前、シュレアの声が響き渡る。シュレアは扉の前に立つ兵、リクシュアーレと対峙していた。彼女は殺気を隠す気もなく、邪魔をするなら殺すとでも言うかのような形相であった。
しかし、それに対しリクシュアーレはあくまで冷静に、淡々と事情を説明した。
「これはリウ様がうちの兵に言ったことだそうだ」
そこまで言って、ああ、と思い出したように付け加える。
「今は"リウ様"じゃなくて、"七百四番"だったか」
「リウ様をそんな数字なんかで呼ぶな!!!!リウ様は…リウ様は…!」
シュレアが掴みかかり、叫ぶ。リクシュアーレはそれをただ見下ろし、口を開いた。
「シュレア、お前の思いは痛いほど分かるさ。俺だって信じられないんだから。けれど、彼女は今は罪人なんだ。罪人は番号で呼ばれる。お前だってよく知っているだろう?」
「…っ!!」
シュレアは言い返すことが出来なかった。シュレアも以前はこの城に捕えられた"犯罪者"であったから。
今から5年前。当時、15歳であったシュレアは指名手配犯として城に捕えられていた。罪状は、ミレイユにおいて、王族に次ぐ権力を持つ貴族を殺そうと試みたことであった。しかし、それは冤罪であり、その事に気づいた当時12歳のリウが、リクシュアーレ協力のもと、冤罪を証明し、シュレアを釈放。また、当時裏路地で寝床もろくに無い生活をしていたシュレアを城で働けるように掛け合ったのだ。
この件についてリウに聞くと、「夢で"冤罪の女の子が捕まった"って教えて貰ったの」と口にして、周りがそんな馬鹿なと何度も聞いてみたが、答えが変わることは無かった。
冤罪が証明されたとはいえ、裏路地出身の者がいきなり城で働くことになり、しかも姫のお気に入りということが周りに不満を抱かせ、城内でシュレアに対するいじめが起きていたが、リウがシュレアの腕にあった傷に気づいて対応。そして今現在の、姫付きの従者として働くに至っている。
言ってしまえば、リウはシュレアにとっての恩人であったし、見ず知らずの自分にそこまでしてくれたリウに依存してしまっていた。
そんな彼女が捕えられ、自分と同じような扱いを受けているのだと思うと、シュレアはいてもたってもいられない気持ちだった。
「そうだ、リクシュアーレ!リウ様を牢から連れ出しましょう!リウ様が私を助けてくださった時みたいに!」
「それは、姫による命だったからできたことで、そもそも、七百四番はあんたとの面会を拒否してる。それがどういう意味か、考えてみろ」
自分の恩人が、自分との面会を拒否する理由。それはきっと、自分に何か問題があるからで。そこまで考えると、思考が停止する。それ以上を考えられない。考えたくないと脳が拒絶反応を起こす。体が小刻みに震え、額に汗が浮かぶ。
シュレアのその様子を見たリクシュアーレは声をかけた。
「今は待て。あんたは彼女を信頼しているんだろう?彼女にだってなにか考えがあるかもしれない。あんたが今出来ることは、信じて待つことだ」
その声を聞いて、シュレアの脳裏に一つの言葉が浮かんだ。
"私がシュレアを守ってあげる"
それは、シュレアを専属の従者につけた時のリウの言葉。リウが約束を違えるはずが無いと、そう信じて、シュレアは自分の両頬をバチンと叩いた。
「切り替えたか?」
「信じたくないですけど、あなたのおかげでスッキリしました」
「そりゃよかった」
いくつかリクシュアーレと言葉を交わして、シュレアはその場を後にした。
今、自分に出来ることは、リウが帰ってきた時、いつもと変わらない笑顔でお会い出来るように振る舞うこと。ここで自分が動揺してしまっては、周囲にリウの罪を肯定することになる。
シュレアは背筋を伸ばし、まだじんじんと主張する頬の痛みを感じながら、堂々と廊下を歩き、業務に戻った。
牢へ続く扉の前、シュレアの声が響き渡る。シュレアは扉の前に立つ兵、リクシュアーレと対峙していた。彼女は殺気を隠す気もなく、邪魔をするなら殺すとでも言うかのような形相であった。
しかし、それに対しリクシュアーレはあくまで冷静に、淡々と事情を説明した。
「これはリウ様がうちの兵に言ったことだそうだ」
そこまで言って、ああ、と思い出したように付け加える。
「今は"リウ様"じゃなくて、"七百四番"だったか」
「リウ様をそんな数字なんかで呼ぶな!!!!リウ様は…リウ様は…!」
シュレアが掴みかかり、叫ぶ。リクシュアーレはそれをただ見下ろし、口を開いた。
「シュレア、お前の思いは痛いほど分かるさ。俺だって信じられないんだから。けれど、彼女は今は罪人なんだ。罪人は番号で呼ばれる。お前だってよく知っているだろう?」
「…っ!!」
シュレアは言い返すことが出来なかった。シュレアも以前はこの城に捕えられた"犯罪者"であったから。
今から5年前。当時、15歳であったシュレアは指名手配犯として城に捕えられていた。罪状は、ミレイユにおいて、王族に次ぐ権力を持つ貴族を殺そうと試みたことであった。しかし、それは冤罪であり、その事に気づいた当時12歳のリウが、リクシュアーレ協力のもと、冤罪を証明し、シュレアを釈放。また、当時裏路地で寝床もろくに無い生活をしていたシュレアを城で働けるように掛け合ったのだ。
この件についてリウに聞くと、「夢で"冤罪の女の子が捕まった"って教えて貰ったの」と口にして、周りがそんな馬鹿なと何度も聞いてみたが、答えが変わることは無かった。
冤罪が証明されたとはいえ、裏路地出身の者がいきなり城で働くことになり、しかも姫のお気に入りということが周りに不満を抱かせ、城内でシュレアに対するいじめが起きていたが、リウがシュレアの腕にあった傷に気づいて対応。そして今現在の、姫付きの従者として働くに至っている。
言ってしまえば、リウはシュレアにとっての恩人であったし、見ず知らずの自分にそこまでしてくれたリウに依存してしまっていた。
そんな彼女が捕えられ、自分と同じような扱いを受けているのだと思うと、シュレアはいてもたってもいられない気持ちだった。
「そうだ、リクシュアーレ!リウ様を牢から連れ出しましょう!リウ様が私を助けてくださった時みたいに!」
「それは、姫による命だったからできたことで、そもそも、七百四番はあんたとの面会を拒否してる。それがどういう意味か、考えてみろ」
自分の恩人が、自分との面会を拒否する理由。それはきっと、自分に何か問題があるからで。そこまで考えると、思考が停止する。それ以上を考えられない。考えたくないと脳が拒絶反応を起こす。体が小刻みに震え、額に汗が浮かぶ。
シュレアのその様子を見たリクシュアーレは声をかけた。
「今は待て。あんたは彼女を信頼しているんだろう?彼女にだってなにか考えがあるかもしれない。あんたが今出来ることは、信じて待つことだ」
その声を聞いて、シュレアの脳裏に一つの言葉が浮かんだ。
"私がシュレアを守ってあげる"
それは、シュレアを専属の従者につけた時のリウの言葉。リウが約束を違えるはずが無いと、そう信じて、シュレアは自分の両頬をバチンと叩いた。
「切り替えたか?」
「信じたくないですけど、あなたのおかげでスッキリしました」
「そりゃよかった」
いくつかリクシュアーレと言葉を交わして、シュレアはその場を後にした。
今、自分に出来ることは、リウが帰ってきた時、いつもと変わらない笑顔でお会い出来るように振る舞うこと。ここで自分が動揺してしまっては、周囲にリウの罪を肯定することになる。
シュレアは背筋を伸ばし、まだじんじんと主張する頬の痛みを感じながら、堂々と廊下を歩き、業務に戻った。
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