ミコのお役目

水木 森山

文字の大きさ
上 下
26 / 28
第一章

質問

しおりを挟む

「ディーは私を探しに来てくれたと言うけど
 恨んでいないんですか?」

ロウが沈痛な面持ちで問いかける

「恨む?
 何故、そんな事を聞くのですか?」

「私は、叔母上を殺した男の」

「お母様は生きています」

「え?」

ぽかんとしたロウにディーは両手を胸に当て
頭を下げた

「ご免なさい
 最初に伝えるべきでした
 お父様の必死の手当で、お母様は一命を
 取り留めました」

「・・じゃあ、本当に、僕を探しに…?」

「はい」
「当然であろう」

呆然と呟くロウに、ハルはなぜそんな事を
聞くのかと首を傾げている

「私達の間では、人を傷つけると罰を与える
 貴方達の一族では違うのか?」

「ロウ殿、何もしておらぬ」

「罪は無いだろう
 だが、身内というだけで憎しみを
 ぶつけられる事は多々ある」

「ハル」

名を呼び、両手を差し出したディーの
意図を汲み取ってか、ハルはディーを膝に抱えた

「お兄様、お座りください
 今にも倒れそうな顔色ですよ」

「ディー、僕は…」

途方に暮れたロウは、言葉が続かず俯いた

二人の母親が生きていて、恨まれてないと
わかったと思うのに、どうしてそんな顔を
しているの?

「わたくし達から危害を加えないとお約束します」

え?
危害?

「そんなつもりは…」

唐突なディーの言葉に、ロウの顔も強ばった

「ロウ、座りなさい」

このままでは埒が明かないと思ったのか
シリルが座るよう促した

「・・はい」

くっついていたイスを元の場所まで戻してから
ロウは座った

開いていく空間を、ハルが寂しそうに見ているのを
ロウは気づいているだろうか

「わたくしは、ずっと…
 お兄様に謝りたかったのです」

静かに話し始めたディーを
ハルはぎゅっと抱きしめる

ディーがその手を宥めるように自分の手を添えた

「伯父様は、わたくし達姉弟の世話をお父様に
 押し付けられていたのでしょう?」

はっと、ロウが息を呑んだ

「わたくし達親子の所為で
 お兄様親子が離散してしまいました
 お父様がわたくし達の面倒を見てくれていたら
 お母様が健康であったら」

ディーの語る言葉は
自分達家族を否定するものばかり

悪いのは自分達だと決めてかかる言い方に
違和感を覚える

「わたくし達、姉弟が居なかったら」

「待って」

ロウが額に手を当て、俯いた

「ちょっと待って…
 頭が追いつかない」

「・・申し訳ありません」

ディーの口から、二人を否定する言葉まで出て
部屋の空気が凍りつく

何か、事情があったのか
二人は両親に育てられなかったようだ

ハルがやたらと僕を気遣うのは
自分達の経験がそうさせたのかもしれない

痩せっぽちの僕は面倒を見られてないと
思われたのかな

二人が山を下りてきたのも、家に居たく
なかったから?

「ディーは、父上達の笑顔が嘘だったと
 思っているの?」

顔を上げたロウは、落ち着いた声で問いかけた

「そうは、思っていません
 ただ、わたくしが何故お父様達と一緒に
 居られないのか、聞いてしまったのです
 その、数日後でした
 伯父様が、あの様な行為に及んだのは」

その言葉がきっかけになったと思っている?
だから、自分を責めてきた?

声は相変わらず淡々としていて
今日もフードを被ったままだから
今、どんな表情なのか、どんな気持ちなのか
全く読めない

「伯父様は、その七日後に亡くなりました」

「そっか…」

ぽつりと返されたその声からは
なんの感情も読み取れなかった

昨日からいろいろな事が起こり過ぎて
気持ちが追いついてないのかもしれない

ロウは、大丈夫かな…

このまま、続けていていいのか心配で
シリルを伺う

特に表情を変えずに見守っているだけで
止める様子はない

どうしよう…

だからって、止める勇気もないし
会話の糸口も見つからない

ロウに大切な人が見つかったと思ったのに

ロウを大切にしてくれる人達が
見つかったと思ったのに

なにかが、うまくいかない…

なんで?
どうして?
なんでうまくいかないの?

腹の底でどろどろした何かがウゴメ

パッと、ディーが僕にフードを被ったままの
顔を向けた

「ディーは、ロウが大事じゃないの?」

「・・大事、です」

「なら、なんでロウに嫌われるような事言うのっ」

なんとか怒りを抑えながら、言葉を紡ぐ

「事実を、伝えたまでです…」

ぷつり
何かが切れる音が聞こえた

「なんで今なの⁉︎
 もっと会いたかったとか、無事でよかったとか
 なんでないの⁉︎」

「あの、泣かないでください」
「カミュ様っ、申し訳ありません」
「我も謝るっ
 泣くな」

「質問に答えてっ‼︎」

見当違いの返事ばかりに怒りが爆発した

「あの、わたくし達の存在が
 お嫌では無いのですか?」

「なんでぞうなるの~」

会話がかみ合わなくて、机につっぷして
べそべそ泣く

そんな事聞きたいんじゃないのに
もう、どうして伝わらないのかわからない

「わたくし達とお兄様が仲良くするのが
 お嫌なのかと思いまして…」

「だから、ロウに嫌われるように会話を
 仕向けたのか?」

「・・無いとは言い切れません
 ですが、偽った訳でもございません」

はーっと、シリルが深いため息を吐いた

「休憩しよう
 ロウ、五人分のお茶を頼む」

「はい…」

ロウが支度のために、部屋を出る気配を感じた
けれど、顔を上げる気力は僕にはなかった









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...