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第一章
質問
しおりを挟む「ディーは私を探しに来てくれたと言うけど
恨んでいないんですか?」
ロウが沈痛な面持ちで問いかける
「恨む?
何故、そんな事を聞くのですか?」
「私は、叔母上を殺した男の」
「お母様は生きています」
「え?」
ぽかんとしたロウにディーは両手を胸に当て
頭を下げた
「ご免なさい
最初に伝えるべきでした
お父様の必死の手当で、お母様は一命を
取り留めました」
「・・じゃあ、本当に、僕を探しに…?」
「はい」
「当然であろう」
呆然と呟くロウに、ハルはなぜそんな事を
聞くのかと首を傾げている
「私達の間では、人を傷つけると罰を与える
貴方達の一族では違うのか?」
「ロウ殿、何もしておらぬ」
「罪は無いだろう
だが、身内というだけで憎しみを
ぶつけられる事は多々ある」
「ハル」
名を呼び、両手を差し出したディーの
意図を汲み取ってか、ハルはディーを膝に抱えた
「お兄様、お座りください
今にも倒れそうな顔色ですよ」
「ディー、僕は…」
途方に暮れたロウは、言葉が続かず俯いた
二人の母親が生きていて、恨まれてないと
わかったと思うのに、どうしてそんな顔を
しているの?
「わたくし達から危害を加えないとお約束します」
え?
危害?
「そんなつもりは…」
唐突なディーの言葉に、ロウの顔も強ばった
「ロウ、座りなさい」
このままでは埒が明かないと思ったのか
シリルが座るよう促した
「・・はい」
くっついていたイスを元の場所まで戻してから
ロウは座った
開いていく空間を、ハルが寂しそうに見ているのを
ロウは気づいているだろうか
「わたくしは、ずっと…
お兄様に謝りたかったのです」
静かに話し始めたディーを
ハルはぎゅっと抱きしめる
ディーがその手を宥めるように自分の手を添えた
「伯父様は、わたくし達姉弟の世話をお父様に
押し付けられていたのでしょう?」
はっと、ロウが息を呑んだ
「わたくし達親子の所為で
お兄様親子が離散してしまいました
お父様がわたくし達の面倒を見てくれていたら
お母様が健康であったら」
ディーの語る言葉は
自分達家族を否定するものばかり
悪いのは自分達だと決めてかかる言い方に
違和感を覚える
「わたくし達、姉弟が居なかったら」
「待って」
ロウが額に手を当て、俯いた
「ちょっと待って…
頭が追いつかない」
「・・申し訳ありません」
ディーの口から、二人を否定する言葉まで出て
部屋の空気が凍りつく
何か、事情があったのか
二人は両親に育てられなかったようだ
ハルがやたらと僕を気遣うのは
自分達の経験がそうさせたのかもしれない
痩せっぽちの僕は面倒を見られてないと
思われたのかな
二人が山を下りてきたのも、家に居たく
なかったから?
「ディーは、父上達の笑顔が嘘だったと
思っているの?」
顔を上げたロウは、落ち着いた声で問いかけた
「そうは、思っていません
ただ、わたくしが何故お父様達と一緒に
居られないのか、聞いてしまったのです
その、数日後でした
伯父様が、あの様な行為に及んだのは」
その言葉がきっかけになったと思っている?
だから、自分を責めてきた?
声は相変わらず淡々としていて
今日もフードを被ったままだから
今、どんな表情なのか、どんな気持ちなのか
全く読めない
「伯父様は、その七日後に亡くなりました」
「そっか…」
ぽつりと返されたその声からは
なんの感情も読み取れなかった
昨日からいろいろな事が起こり過ぎて
気持ちが追いついてないのかもしれない
ロウは、大丈夫かな…
このまま、続けていていいのか心配で
シリルを伺う
特に表情を変えずに見守っているだけで
止める様子はない
どうしよう…
だからって、止める勇気もないし
会話の糸口も見つからない
ロウに大切な人が見つかったと思ったのに
ロウを大切にしてくれる人達が
見つかったと思ったのに
なにかが、うまくいかない…
なんで?
どうして?
なんでうまくいかないの?
腹の底でどろどろした何かが蠢く
パッと、ディーが僕にフードを被ったままの
顔を向けた
「ディーは、ロウが大事じゃないの?」
「・・大事、です」
「なら、なんでロウに嫌われるような事言うのっ」
なんとか怒りを抑えながら、言葉を紡ぐ
「事実を、伝えたまでです…」
ぷつり
何かが切れる音が聞こえた
「なんで今なの⁉︎
もっと会いたかったとか、無事でよかったとか
なんでないの⁉︎」
「あの、泣かないでください」
「カミュ様っ、申し訳ありません」
「我も謝るっ
泣くな」
「質問に答えてっ‼︎」
見当違いの返事ばかりに怒りが爆発した
「あの、わたくし達の存在が
お嫌では無いのですか?」
「なんでぞうなるの~」
会話がかみ合わなくて、机につっぷして
べそべそ泣く
そんな事聞きたいんじゃないのに
もう、どうして伝わらないのかわからない
「わたくし達とお兄様が仲良くするのが
お嫌なのかと思いまして…」
「だから、ロウに嫌われるように会話を
仕向けたのか?」
「・・無いとは言い切れません
ですが、偽った訳でもございません」
はーっと、シリルが深いため息を吐いた
「休憩しよう
ロウ、五人分のお茶を頼む」
「はい…」
ロウが支度のために、部屋を出る気配を感じた
けれど、顔を上げる気力は僕にはなかった
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