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第一章
昼
しおりを挟む「お目覚めですか?」
いろいろ、考えるつもりが
しっかり寝てしまったらしい…
ロウは約束通り、というか
ずっと側にいてくれたみたいで
すぐに声をかけられた
「起きられますか?
それとも、もう少しお休みになられますか?」
「・・起きる…」
こんなはずでは、と頭を抱えたくなるけど
心の中だけに推し留める
また着替えて隣の部屋へ行くと
マーシュが昼食の準備を進めていた
「起きたか
昼は食べられそうか?」
「うん、食べる」
ロウがイスを引いてくれたので
シリルの正面に座る
そして、ロウもマーシュの手伝いを始めた
あっという間に配膳が終わり
いつものように食べ始める
後、何回この光景を見られるだろうか
ぼんやりと考えながら、食事を口に運んだ
そして午後、ハル達の部屋にまた集まった
「ディーをイスに座らせなさい」
「ロウ殿座る所、無くなる」
「ロウは仕事中だ
座らない」
シリルは席に着くなり、ハルとバチバチ睨み合う
相変わらず、ハルがディーを膝にのせて座っている
せいなんだろうけど、この二人はどうして
もっと穏やかに話せないんだろう…
「ハル、わたくしは大丈夫ですから」
この一言で渋々ディーを隣のイスに座らせた
だけど自分の座っているイスとピッタリくっつけて
離れる気配はない
それを見たシリルの眉間にシワが寄った
「まぁ、いい…
では、改めて森に入った経緯を
聞かせてもらおう」
なんか締まらない空気のまま、シリルの尋問が
始まった
「はい、わたくし達はお兄様を探す為
暮らしていた山を下りました
人が居そうな場所を探していました時に
岩を積み上げた壁が見えましたので
その場所を目指しておりました」
岩の壁、城壁の事かな?
ハルが一言で終わっていたのと全然違い
ディーは順を追って、わかりやすく説明してくれる
「その途中でした
幼な子の泣く声が聞こえてきたのです」
「だから洞窟へ向かったと?」
「声を辿り行き着きましたのが、洞窟でした」
「なるほど…
幼子の泣く声が聞こえたからといって
夜に命懸けで行った理由はなんだ?」
そこでハルが眉をひそめたけど
口は挟まなかった
「身を守る術はございます
事実、お嬢様をお救いしました」
「しかし、子供二人で山を下りるなど
危険極まりない
なぜ、二人だけで山を下りた?」
「子供…?
わたくしは成人を迎えております」
「・・こちらでは、十五才はまだ子供だ
反対する者はいなかったのか?」
「一族の事が外に漏れる、と良い顔は
されませんでした
ですので、一族に関する事は話さない掟を
結ばされました」
・・掟って、最近できたって事…?
ちらっと隣を伺えば、シリルも微妙な顔をしている
「そこまでして、ロウを探したかった理由は?」
「お兄様にお会いしたかったからです」
「・・それだけか?」
「理由になりませんか?」
不思議そうに首を傾げられてしまう
僕ならそれで納得してしまうけど、違うのかな?
「ない、事はないが…
では、質問を変えよう
ロウと再開して、その後どうする
つもりだった?」
「それは…」
「正直に答えなさい」
初めてディーが言い淀み
すかさず、シリルがたたみかける
心臓がドクドクと嫌な音を立てる
ディーは、なんと答えるだろうか
先にロウが出て行くとなったら
僕は、耐えられるだろうか…
「何も考えておりませんでした…」
「へっ?」
「えっ⁉︎」
驚きの声を上げたのは、僕とハルだった
なんか、ハルが一番驚いてない?
「正直に答えなさいと言ったが?」
一オクターブ低くなった声に
シリルの苛立ちを感じる
「お兄様が山を下りてから、十一年です
こんなに早く再会出来るとは
思っておりませんでした」
「そうは言うが、先程ハルは驚いていたな?」
みんなの視線がハルに向かう
「ロウ殿、会う
ぎゅうすりすりする、思ったのだ」
僕の… いや、多分三人の思考が停止した
「ぎゅうぎゅうしたいですし
ぐりぐりしたいですよ?
ですが、お兄様の意思を無視して出来ません」
「むぅ」
「それと、シリル様がお聞きしたい事は
そういう事では無いと思いますよ?」
ぐりぐりって何?
そう、シリルに聞こうと思ったら
顔から表情が消えていた
「シリル… あの、大丈夫?」
怖々、声をかける
「大丈夫だ
ハルに話をふった己を呪っているだけだ」
ダメだった…
「シリル殿、鈍い?」
やめてっ
ハルは黙ってて!
「ハル、貴方はまだ言葉が不自由ですから
少し、黙ってましょうね」
「うむ」
僕の念が通じた訳じゃないだろうけど
やんわりとディーが諭してくれて
ほっと胸を撫で下ろす
「屈辱だ」
目を据わらせてボソリと呟くシリルに
かける言葉が見つからなくて
オロオロする事しかできない
これ、誰が収拾するの⁉︎
「シリル様、よろしいでしょうか?」
尋問の行方が不明になっていた所に発言を
求めたのは、いつも静かに控えているロウだった
「あぁ、どうした?」
もう立て直したのか、いつもの調子に戻っている
「私からも、ディー達に質問をしても
よろしいでしょうか?」
「積もる話もあるだろう
ゆっくりとは言えないが
時間の許す限り、自由にしていい」
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