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第一章
食後のお茶
しおりを挟む「昨日からいろいろな事が起きすぎた
だから、気にするな」
そうなのかな
だから、我慢できなかったのかな…
シリルの優しい声に涙腺がまたゆるむ
「申し訳ありません…」
「ロウ?」
「私事で、騒ぎを起こしてしまいました」
深々と頭を下げられてしまい、嫌な予感に
体が強張る
「私は、お二人にお仕えする資格がございません…
職を、辞する事を… お許しください」
資格がない?
ロウが出ていくだろうと思ってはいたけど
想像していた理由と違いすぎて
ショックを受けるよりも、戸惑いが勝った
「ロウ、どういう事だ?」
「思い、出したのです
私が罪人の子だと…
一族を追われた身の上なのです」
真っ青な顔で話し始めたロウは
また、倒れるのではと心配になる
「私が八才の時です
父は、人を、ディー達の母親を殺めました…
その直後に母は、私を連れて山を下りました
一族からの報復を、恐れたのだと思います
特に、ディー達の父親からの…」
それで昨日、罰がどうのと言っていたんだ
「そのわりには、ディー達から害意は
感じられなかったが?」
「・・二人は幼かったので、その時の事を
よく、わかっていないかもしれません…」
「そう、かな?
ディーは、ロウのベッドに潜りこんで寝てたよ
母親の仇の子だと聞かされてたら
そんな事、するかな?」
みるみるうちに、ロウの顔が赤くなった
「・・何度も醜態をさらし、申し訳ありません…」
あっ、余計な事を言ってしまった…
両手で顔を覆うロウを見てやらかした事に気づく
「ロウは寝ていたのだから気にするな
それに、父親が罪を犯したからといって
ロウが気にするは必要はない」
「ですが…」
「この辺境では誰も気にしない
孤児だったロウを雇う時点で
多少のリスクは想定済みだ
他に心配事はあるか?」
「・・いえ、お二人に問題がなければ
私からはありません」
そう言いながらも、ロウの表情は晴れない
「ところで、ロウの言う一族に関して
思い出せる事はあるか?」
「そう、ですね…
思い出したばかりのせいか、あまり記憶が
はっきりしないんです…
ご質問に答える方が思い出せるかもしれません」
「では、宝石… 守り石か
それについてはどうだ?」
「・・守り石かは、わかりませんが
父から屑石をもらって
削って遊んでいたのを憶えています」
ゆっくりと思い出しながら話すロウは
懐かしそうに、だけどどこか悲しそうにも見えた
「そうか…」
「申し訳ありません
もっと、思い出せればいいのですが…」
「いや、あの二人と同郷なのは間違いないな?」
「はい」
「あの山で人が暮らしていたとは信じ難いが…」
顎に手をあて、独り言のような呟きに
ロウの表情が強張った
ロウが嘘をつくとは思えないけど、すぐに
信じるのも難しいんだろうな
どんな生活を送っていたのか、想像もつかない
「今の所、体調は大丈夫か?」
考え込んでいた僕は、その質問にはっと顔を
上げたけど、シリルが見ていたのはロウだった
いつも聞かれる事だったので反応してしまった
けど、今一番顔色が悪いのはロウかもしれない
自分の顔色が見えないから、自信はないけど…
「・・はい、大丈夫です」
「そうか…
ディーは兄と呼んでいたが、兄弟なのか?」
思っていた事と違う事を聞かれたのか
ロウがキョトンとする
「あ、いえ
いとこです
父親同士が兄弟でした」
「そうか、仲は良かったようだな」
「はい、私はひとりっ子でしたので
二人とも、とてもかわいかったです」
思わずこぼれたような笑みに
僕もほっと、肩の力が抜ける
「かわいい…?」
ボソッと呟かれた声にロウの笑みが引きつった
「・・幼い頃の話ですので
もっと、無邪気だったんですよ」
「すまない、ロウの言う事を疑った訳では
ないんだ
ずっと、ふてぶてしい態度だったから
意外でな」
確かに、ハルはシリルに対して怒っていたように
感じたし、隠してもいなかった
だけど、そうさせたのはシリルの態度のせいな
気がしてしょうがない
「まだ子供なので思った事を話してしまう
せいだと思います」
「ハルはそんな感じだな
だが、ディーはずいぶん丁寧な言葉遣い
だったな?」
「あれは、私も驚きました
あんな丁寧な言葉遣いなど一族では聞いた事が
なかったと思います」
「そうか…」
ディーの言葉遣いがそんなに気になるのか
シリルは黙って考え込んでいる
そうなるとロウは口を挟めないし
部屋は重たい空気に包まれた
ロウはシリルの問いに正直に話しているようだけど
いいのかな?
ハル達は一族の掟で話せないと言っていたのに…
落ち着かない気持ちで、無意識に手首をさする
そして、そこにあるはずの感触がないことに
気がついた
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