ミコのお役目

水木 森山

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第一章

一先ず、朝食を

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「お食事中、大変失礼致しました」

「いい、貴方達も座りなさい
 ロウ、二人の分も頼む」

「かしこまりました」

「カミュ様、私達は先に頂きましょう」

「あ、うん」

なんか、色んな事がありすぎて頭が働かない…

食事を勧められたので、何も考えずに食べ始めた



「ディー、空いている席へどうぞ」

二人の分をそれぞれの席に並べ終えた
ロウが声をかけた

「ロウ殿座る所、無いではないか」

「私は仕事中ですので座りませんよ?」

「そうか…」

どこかガッカリしてるのは、なぜだろうと
首を傾げる

「ですから、遠慮せずにイスに座ってください」

「身内、膝座る」

ロウが笑顔のまま固まった

「・・それは、どなたから教わりましたか?」

「教わる?
 前、ディーしてくれた」

それを聞いた途端、ロウが手で目元をを覆った

「・・小さい時ディーがしてくれたから
 今度は大きくなったハルがディーを膝に
 のせているって事ですか?」

「うむ」

「ロウ、今回はこのままでいい」

「申し訳ありません…」

「いいんだ
 この二人の常識を知るには
 ロウだけが頼りだ…」

「はい…」

シリルのため息混じり言葉に
ロウはちょっと遠い目で答えた

ロウのいつもと違う表情を、呆然と見ていた

僕の知っているロウは、いつも穏やかに笑っていた

人間なのだから、怒ったり、落ち込んだり
当然するはずなのに、僕に見せることはなかった

無理に笑っていたんだろう

みんなに負担なんてかけたくなかったのに
僕が存在するだけで、負担だったんだ…

その事に気づいてしまい、胸が抉られる

もっと、早くいなくなるべきだったんだ

そんな後悔が押し寄せる

気持ち 悪い…

息が 苦しい…

「カミュ様?
 温かいうちにお召し上がりください」

「あ、うん…」

シリルの声に意識が引き戻される

つい、返事をしてしまったが
おかしな所はなかっただろうか

スプーンを持つ手をまた動かすが震えそうになる

そっと深い呼吸を意識して普通を装う

きっと、話しかけられてもうまく答えられないから
ただ、ひたすらスープを口に運んだ

僕の変化に誰も気づきませんように…

もう、祈ることしかできなかった



黙々とスープを口に運び続ける

みんなより先に食べ終わったらどうしよう…

そう思っても、怖くて周りが見れない

ついに最後の一口を飲み終えてしまい
一緒に並べられていたサンドイッチを見る

食べたくないな…

「カミュ様、遠慮せずお召し上がりください」

シリルに声をかけられ、そちらをちらりと伺えば
すでに食べ終わっていた

「ううん、もういいや」

そこで、何も言わないハルに気がついた

二人も、もう食べ終わっていて
ハルの頭がコクリ、コクリと揺れている

待たせて過ぎてしまったと、今度は焦ってしまう

「ハル、お話はわたくし一人で大丈夫です
 横になって休んでください」

ハルからの返事はなく、ディーの首筋に顔を埋め
ぐりぐりと押しつけた

あれは嫌だってことかな?

「一度、私達は退出する
 昼まで休みなさい」

「お気遣いありがとうございます」

ハルにくっつかれたまま、器用に頭を下げると
ハルは眠気に抗うように顔を上げた

「カミュ殿、又来るか?」

「えっと…」

わからず、シリルを見ると頷き返してくれた

「うん、来るよ?」

「そうか…」

にぱっと無邪気に笑いかけられ、目を瞬かせる

その間にハルはディーを抱えたまま立ち上がった

「カミュ様、私達も行きましょう」

「あっ、うん」

慌てて立ち上がり、扉に向かう

パタン

寝室の扉が閉まった後、ふと気配を感じて
振り返った

「カミュ様?」

「あ、なんでもない」

気のせいかな

そう考えて、部屋を後にした



「ロウ、お茶を頼む」

「かしこまりました」

シリルの居室に移動し、ソファーに座って
ぼんやりと部屋を眺める

「ずいぶん、懐かれたみたいだな」

「え?」

「ハルだ
 あんな顔するとは驚いた」

懐かれるようなことしたかな?

「会いたくもない人間に笑いかけはしないだろう」

「そう、かな?」

考えるのが面倒くさくて、ソファーに背を預けて
天井を見上げる

「カミュ?
 具合が悪いのか?」

心配なんてかけたくないのに、話す気になれない

うまく取り繕わなくちゃいけないのに
体が重くて動けなかった

そんな、僕の前に紅茶が置かれる
その手が僕の額に置かれた

「お熱は、なさそうですね」

声の主に視線だけを向ければ、ロウが心配そうに
僕を見ていた

手の温もりに、体がほっと緩む

「カミュ様っ⁉︎」

「カミュ⁉︎
 どうしたっ、苦しいのか⁉︎」

慌てる二人の様子に目を瞬かせる

ポロポロと目尻から零れる感触に
自分が泣いていることに気がついた

隣に移動してきたシリルに抱き起こされ
あやすように背をさすられる

その肩にもたれたまま、ただ涙を流し続けた



・・待って、僕どうして泣いてるの⁉︎

シリルに背を撫でられているうちに
停滞していた思考が働き始めた

人前でまた泣くなんて、と羞恥心が湧き上がり
なんで泣き始めたのかを思い返す

ロウの手があったかくて…

その時の事を思い出したら、また涙があふれてくる

ダメだ!
思い出しちゃダメだった!

我慢しなくちゃいけないのに
今日も、うまくできない

「ごめんなさい…」

だから、謝ることしかできなかった



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