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第一章
安静に…
しおりを挟む部屋に戻るといい匂いが充満していた
「うわっ、おいしそう!
マーシュ、これどうしたの?」
「シリル様から、軽食の準備をと言われて
おりました」
部屋で待機していたマーシュに聞けば
淡々と返された
「シリル、朝ご飯ここで食べるの?」
「イェリーに言われていたろう
食べろと」
「これ僕が食べるの⁉︎」
食べろとは言ってなかったと思うけど…
「全部とは言わないが
食べられそうな物はあるか?」
フルーツの盛り合わせにサンドイッチや
ミートパイ、キッシュもある
食欲をそそる香りに、ゴクリと喉が鳴る
「どれ食べてもいいの?」
「あぁ、どれがいい?」
ロウが引いてくれたイスに座り
どれにしようか悩む
サンドイッチはこの間食べたから
他のにしようかな
でも、どっちにしよう…
「どれとどれが食べたいんだ?」
「うー、ミートパイとキッシュ」
「ロウ、少しずつ取り分けてやれ」
そんなに食べられるかなと思いつつも
皿の上の誘惑に勝てず、大好きなミートパイを
一口食べた
サクッとしたパイ生地とじゅわーと
広がる肉汁の旨味に、頬が緩む
「美味そうだな」
「おいしいよ
シリルも食べる?」
「少し貰おうか」
僕が味わって食べてる間に、シリルはペロリと
平らげる
お腹いっぱいになってきたけど、フルーツも
食べたくて、少しずつ取ってもらった
「サンドイッチはいらないのか?」
「うん、この間食べたからいいや」
「そうか」
シリルはサンドイッチののった皿を
引き寄せて、食べ始めた
マーシュがすぐに紅茶を入れる
「朝ご飯、まだだったの?」
「あぁ、朝一で父上に報告に行ってきたからな」
「あ、だから乗馬服なんだ
叔父上、元気だった?」
「相変わらずだ
今日も魔の森の偵察に出ている
監視塔から魔物の目撃情報が入って
急いで出て行っていたな」
「怪我、しないといいね…」
僕がここにきたばかりの頃は
よく顔を見に来てくれていたけど
すぐに来れなくなってしまった
ここ数年、魔物の出没が増えているらしい
そのせいで、いつも忙しいと聞いている
「大丈夫だろう
もう二十年近く魔の森を抑えてきている」
「そうだね」
僕が邪魔になったから、会いに来ないのではないか
そう、不安を感じずにはいられない
だけど、そんな思いを悟られたくなくて
当たり障りない会話にとどめる
叔父上を心配しているのも本当だし
そう言い訳して、今回も誤魔化せた事に
ほっと胸を撫でおろす
口にしても、きっと現状は変わらない
それどころか、悪くなるかもしれない
だから、聞きたくても怖くて口にできない
行動する勇気が、持てない
そんな事を考えていたら、強烈な睡魔に襲われた
パラリ
時折聴こえてくる音で、意識が浮上する
パラリ
目を開ければ見慣れた天井で、また熱を出したのか
とヒヤリとする
パラリ
音のする方を見れば、イスに座っていたのは
ロウではなかった
「・・シリル?」
「あぁ、起きたか
調子はどうだ?」
僕の額に手を当て熱を計る
「平気
あの、ロウは?」
「午後から休ませた
何か用があったのか?」
「ううん、休めてるならよかった」
「そうか
昼を過ぎたが、食事はどうする?」
「うーん、まだいいかな…」
「では、もう少し後にするか」
もう、お昼過ぎてたんだ
三時間くらい寝てたのかな
その間、ずっと付いていてくれたんだろうけど
シリルは面倒な素振りを少しも見せない
だから、まだここに居てもいいんだと
思ってしまう
安堵すると共に、申し訳ない気持ちが
込み上げてくる
「何か本を持ってくるか?」
「うーん、シリルは何読んでるの?」
「今は神話や口伝話集だな」
「おもしろい?」
「面白くはないな」
苦笑いしながら、僕の相手をしてくれる
「昨日、外套を預かっただろう?」
「うん」
「彼らの素性について何かわかるかと
幾何学模様を調べたんだ」
それは、気になる!
「貴族の紋章に幾何学模様はなかったが
神殿の紋章はシンプルなものが多い
山なら三角、森ならば木や葉のリースだったり
石ならば正六角形だったり…」
「六角形!」
「カミュにも六角形に見えたか」
「うん、青い石の所がそう見えた」
「そうだな
じっくり見ると六芒星に似ていた」
「ロクボウセイ?」
「正三角形を上下逆さまにして重ねた形だ」
「じゃあ、石とは違うの?」
「六芒星に似ているのは、六枚の花弁
花を象徴しているらしいんだが
どこの神殿かまではわかっていない
大地の神を祀る一族かもしれないな」
「へー」
「五枚の花弁は神殿の紋章として
よく使われているが、六枚は
まだ見つけられていなくてな
もしかしたら、廃れた神を祀って
いるのかもしれない」
「廃れた神?」
「ああ、この国の成り立ちは覚えているな?」
「うん、たくさんの部族が西からの
侵略者達に対抗するために
同盟を組んだのが始まりだよね」
「そうだ
だからこの国ではたくさんの神が祀られている
互いの神や信仰を、尊重してきた
だが、時には争いが起こる事もあった
戦いに敗れた国の神は、忘れられる事も
あったらしい」
「忘れられたのに、調べられるの?」
想像するだけでも大変そう
「わからない
だが、やってみるしかない
今は、片っ端から史料を当たっている所だ」
「あっ、邪魔してごめん」
「ずっと読んでいたから飽きてきたところだ
いい気分転換になったし、もう一つ話がある」
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