ミコのお役目

水木 森山

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第一章

vsイェリー

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今日も悪態を吐きながら入ってくる

昔、魔物に襲われた時に負った傷のせいで
片足を引きずって歩いている

顔にも深い傷が二ヶ所あり
皮膚が引きつれてるせいで
口が裂けてる様に見えるし
片目も傷のせいでつり上がっている

しかも、スキンヘッド

初めて会った時は、ほんとに怖かった…

「ったく、嬢ちゃんから目ぇ離せねぇのに
 手間かけさせんじゃねぇ」

ドッカリとイスに座っても、悪態は続く

「っサラ、良くないの?」

「容体は安定してる
 脈も呼吸も正常だ
 魔力も一定に循環してやがる
 こえーくれーにな」

「安定してるのにダメなの?」

「なら、何で目ぇ覚まさねぇ
 目覚めねぇ何かがあんだろーが」

「何かって?」

「それがわからねぇから悩んでんじゃねぇか
 何か見落としてんだっ
 だが、それがわからねぇ」

スキンヘッドを撫でながら、唸る

猛獣にしか見えない
絶対言えないけど…

「・・様子見に行っちゃダメ?」

「やめとけ、何が起こるかわからん」

「そっか…」

「・・今できんのは、とにかく観察する事だけだ
 ちょっとした変化も見逃したくねぇ
 わかったら、こっち向いて座れ」

「はぁい」

イェリーからいつもの診察を受ける
脈を見たり、喉を触ったりされる

「ふむ、今までにねぇくれーに調子良さそうだな
 だが、油断は禁物だぞ」

「本当?
 じゃあ、ちょっとだけ外に出てもいい?」

イェリーの手が僕の頭にポンとのる

「油断は禁物だっつってんだろーが!」

「いたいいたいいたいっ」

ギリギリと頭を締め付けられてしまった

「何を騒いでいる
 廊下まで聞こえているぞ」

叫んでしまったせいで、シリルが部屋を
見に来てしまった

だけど、いつもの格好ではなく
乗馬服を着ていた

「坊ちゃん、いい所に来た
 外に出てぇって言いやがる
 見張っとけ」

「坊ちゃんはやめろ
 カミュも、今日は大人しく寝ていた方がいい」

「だって、本当に調子がいいんだもん
 朝食だって、もっと食べられそうだったけど
 熱で寝込んでたって聞いたからやめといた
 くらいだもん」

ジンジン痛む頭を押さえながら訴えれば
二人とも思案顔になる

そんな中、ロウが一人オロオロしながら
見守っている

かばおうとするとイェリーに甘やかすなって
怒られるから、ロウは下手に動けない

「カミュはなぜ、外に出たいんだ?」

「石を埋めたいの」

「・・イェリー、診断はどうなんだ?」

「確かに状態はいい
 だが、医師としちゃあ反対だ」

「短時間でもか?
 カミュは石を埋められればいいのだろう?」

「うん」

「作業は他の者に任せる
 それでどうだ?」

シリルが一転して味方についてくれた
期待を込めてイェリーを見ると
腕を組んで空を睨みつけている

やっぱり、顔が怖い

「はぁー、三十分以内だ
 それ以上は認めねぇ
 んで、終わって食えそうなら食え
 後は絶対安静だ」

「わかった、守らせる」

「イェリー、ありがとう」

「んなこと言っても、にげぇ薬減らさねぇからな
 ちゃんと飲めよ」

それだけ言ってひょこひょこと歩いて出て行った

よかった、許可もらえた!

ロウも微笑みながら、頑張りましたね
というように頭を撫でてくれる

「どこに埋めるか考えたのか?」

「うん、と言っても大体だけど」

「なら、庭師を手配する
 その間に着替えておくといい」

「はーい」



久しぶりに出た外は燦々と日の光が降り注ぎ
土の香りと新緑の爽やかな香りが入り混じる

すごい、開放感

胸いっぱいに外の空気を吸い込んだ

何日ぶりだろう
こうやって外に出たのは…

「カミュ、まずは埋める所を決めてしまおう」

「あ、うん、そうだね」

庭師さんだけでなく、何と護衛まで付いてきた
みんな仕事の手を止めてるから急がなきゃ

「本当にこちらでいいのか?
 中庭の方が部屋から見えると思うが」

「うん、こっちがいい」

ここなら彼らの部屋から見えるはず

どこに埋めようか辺りを見回す
等間隔で植えられた木はどれも立派に成長して
木陰を作っている

その中で背が低く、葉の少ない細木に目が止まった

「あそこにする」

指さした先をを見た全員が微妙な顔をする

「あの…」

「どうした?」

おずおずと声を上げたのは庭師さんで
シリルが先を促す

「大切な物を埋めると聞きやした
 あの木は枯れちまうかもしれやせん…」

「だそうだが、カミュどうする?」

「うん、それでもあそこがいい」

「あの木の根本を掘ってくれ」

「へぇ…」

釈然としない表情だけど、指示通り
大きなスコップで穴を掘り始め
ザクッ、ザクッと軽快な音が続く

彼らの部屋からも見えるだろうかと
邸を見上げれば、窓に黒い影が張り付いていた

えっ、何⁉︎

ぎょっとしつつ、目を凝らして見ると
その後ろにハルが立っていた
それでディーかと気づいてほっと胸を撫でおろす

あっ、今日は起きたんだ

小さく手を振ってみた

ハルは振り返してくれたけど
ディーはパッと姿を消した

どうやら窓から離れたらしい
後を追う様にハルの姿も見えなくなった

ちょっと残念に思いながらも
掘り進んだかなと振り返る途中
ロウがあの部屋を見上げる姿が目に止まった

珍しく、ぼうっと眺めている

右手を左胸に当て、俯いた

「ロウ?」

こちらを向いた時にはいつもの笑みを浮かべ
何でしょうか?というように首をコテンと傾けた

「何か気になるのがあった?」

静かに首を振ってるけど、何か違和感を感じる

ひょっとして僕の看病で疲れてる?

「カミュ、深さはこれくらいでいいか?」

シリルに呼ばれ、穴掘りの途中だったことを
思い出す

スコップで掘られた穴は三十センチ程の
深さになっていた

「うん、あっ、石持ってきてない」

「ここにある」

ポケットから出されたハンカチを渡された

そうだった
シリルが持っていてくれたんだった

ハンカチを広げ、願った

新たな役目、頑張ってね

穴の中に石を撒き、立ち上がる

庭師さんが今度は穴を埋めていく

ザッザッと音がする度に砂がかかり
石はあっという間に見えなくなった

彼との約束を果たせてほっと安堵する

「そろそろ部屋へ戻ろう」

「うん、庭師さん、ありがとう」

「そんなっ、勿体ないお言葉で…」

恐縮する姿に、余計なこと言ったかなと
不安になるけど、シリルに促されて歩き出した
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