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第一章
目覚めて
しおりを挟む額にヒヤリとした物が触れ
意識がふっと浮上する
その途端、全身を襲う倦怠感に
ズシリ、と心が沈む
また、やってしまった…
何もしたくないけれど
人の気配を感じ
重い目蓋を開けた
心配そうにこちらを覗き込む青年がいる
ー ロウ ー
そう呼んだつもりが
掠れた空気がもれただけだった
すぐに吸い飲みが差し出され
慣れた手つきで水を飲ませてくれる
渇ききっていた喉が潤され
ほっと息をついた
「目が覚めたか」
物音に気づいたのか
シリルが部屋に入ってくる
ロウはすぐに立ち上がって席を譲った
そのイスに座るとシリルは
じっとこちらを見てきた
「ごめん、なさい…」
「それは、何に対する謝罪だ?」
眉間によったシワから、責められていると感じ
目を逸らす
「僕、また、暴走したんでしょう?」
「・・そうなのか?」
逆に聞き返され、目を瞬かせる
「私達が洞窟に駆けつけた時
カミュはすでに倒れていた」
「・・どうくつ?」
普段使わない単語が出てきたのが
なんとなく引っかかった
「覚えていないのか?
サラのいた、洞窟だ」
サラ、と聞いて
あの夜の記憶がよみがえった
意識が途切れる直前
サラは魔力暴走を起こしていた
「っ サラ、は!?」
うまく回らない口を必死に動かす
「安心しろ
サラは、無事だ」
「ぶじ…?」
「あぁ、今は自分の部屋で眠っている」
ゆっくり、はっきりと伝えてくれるから
働かない頭でも、理解できた
「よかった…」
ほっと体の力を抜いたら
顎をつかまれ、シリルと向き合わされた
「よくない
なぜ、部屋を抜け出した」
「ご」
「謝罪が聞きたい訳ではない
理由を言いなさい」
シリルの怒りを感じて
とっさに謝ろうとしたが
遮られてしまった
理由…?
なんとなくというか
衝動的に動いてしまった
どう伝えたらいいのか、頭が働かない
「まさかっ
誰かに連れ出されたのか!?」
思わぬことを言われ、なぜそんなことを
言うのかわからず目を瞬かせた
「違うのか?
正直に話しなさい」
ぶにっと、顎を掴んでいた手が頬を掴む
さらにぶに、ぶに、と続いた
早く話せってこと?
でも、これしゃべりにくい…
「シリィリュ?」
「なんだ?」
すっと離れた手に
何がしたかったのか気になったが
考えるのも億劫になってきた
「あの、ね、
夜、寝てたら、サラが、
泣いてる、気がして…
いても、たっても、いられなくて…」
「それで、部屋を飛び出したのか?」
コクリ、と頷く
シリルの反応を見たいのに
もう、目蓋が重くて開かない
「そうか…
ゆっくり、休みなさい」
その言葉に甘え、睡魔に身をゆだねた
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