・・その狂気は伝染する・・

第三章 狂気と共に明ける明治維新

15代将軍徳川慶喜の決断136

　鉄舟はその言葉を聞いてすぐに感ずる。この者達は八王子千人同心だと。しかし、その守るべき徳川はすでに政府に対して恭順の意を示していて、そのための覚悟の手紙をこれから敵の総大将に届ける矢先に戦をされては困ると思った山岡鉄舟はその慶喜の覚悟の事実を農民達に伝えた。

　「ば、ばかな。ばかなことを言うな。その手紙は偽物だろう。」

 農民達は動揺しながら言った。しかし、その農民の一人が山岡鉄舟の顔を見て突然態度を変えた。

　「あーーー！、あなた様は山岡鉄舟様。俺は江戸の講武所に野菜を届けてた事があったからよーく顔を覚えている。」

 山岡鉄舟は江戸城にはすでに誰もいない事を告げた。

　「そうですか、やめだ。もう無駄な事はやめよ。なあ！みんな。仲間達にも知らせに行こう。江戸にいるお偉いさんはみんな逃げ、兵士達も武器を捨てて家に帰っていると。そして徳川慶喜様は上野の寛永寺で事態を静かに見守っていると。」

 そう言うと農民達は町の方へと走りだした。山岡鉄舟も手紙を手にして、政府軍が真っ直ぐ進んでる道に真っ直ぐ走りだした。