・・その狂気は伝染する・・

第三章 狂気と共に明ける明治維新

15代将軍徳川慶喜の決断24

　・・大阪城・・

 「家茂様・・可哀想に、こんな若くして将軍という重職に就かれ、さぞかし心身共に疲れ果てていたでありましょう・・この慶喜心底を察するに余りあまりまする・・」

 慶喜は泣きながらしばし家茂の手を握りしめたまま動かなかった。


　しばらくして、老中板倉勝静は次期将軍になるよう手筈を整えて慶喜にご決断を迫っていた。

　「このような世相において、幕府を立て直すには一刻の猶予もござりません、徳川慶喜様が御将軍に成られて幕府を導いてくだされ。」

 板倉の言葉に慶喜は答える。

　「この度の長州征伐に対して、幕府は何が得られたか？何も得られないばかりか、若き青年家茂様が心労で逝去し、幕府の権威は長州に負けて地に落ち、この戦に備えて全国から米を買い占めた事による米価格の暴落によって、あちらこちらで一揆が起こり、暴徒が暴れている。
このような幕府をどう立て直せというのだ！！余は将軍にはならん！」

 慶喜は頑なに将軍になる事を断った。