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Case 秋
千の秋と哺乳類-7
しおりを挟む公園の静けさが不気味に消えていく。ゆっくりと、しかし確実に違和感は増していった。空の色が重く、暗く、淀み、落ちる。
本日二回目となる黒。戦闘の意欲は湧かなかった。武器もなく、ハイエナもピエトロもネズミもここにはいない。ゆっくりと近づいてくる足音。
「君は何のために生きているんだ」
「生きてはいない。死んでいないだけだ」
「では何故死ぬ事がないのか。死を恐れているのか?」
「死は貴重だから。一回しか経験できないから。今その切り札を使う訳にはいかないんだ」
可変長符号。世界を作り、壊し、再構築する彼の意図、そんなものはどうでもいい。物語から消える脇役には全く関係のない話。
鋭く切れ味の良い黒の刃が喉元を掠める。
「戦う人間がいなくなったら、このチープな世界はどうなると思う?」
「あなたは質問ばかりで本当につまらないね。でも答えてあげましょう。戦闘なき世界にあるのは退屈な死だよ。誰かが死ぬ事によって平和な世界は価値を持ち輝いている。平和ボケほど平和ボケした言葉はないね。トートロジー」
「君が求める答えは、今目の前にあるとは思わないか?」
飛ぶ。
勢いをつける必要はなかった。身体の中から押さえ込んだ血が喚いている。武器はいらない。殺意もいらない。人を殺す事に意味を求めるてはいけない。いけない、できない、やりきれないルールは無視してしまえ。
「みは、生きている。生きている感情がある。それはきっとぉ、ちあきぃが生きているからだ」
迫った刃が砂に変わる。
「殺しみのために生きる私としては、可変長符号に概ね同意。僕の生きる目的は殺しみだ」
周囲を取り巻く黒に名刺が突き刺さる。
「君が生きる理由は俺が探す。だから黙って生きればいい」
ハイエナは得意のナイフで無駄に黒の腹をさばき血の雨を降らせた。
何もかもが私を守り、そして私はそれを
鬱陶しいと感じてしまったのだ。
それからの出来事は早かった。ハイエナのナイフを奪い、腹を割いて臓物を引きずり出す。奇行に気づいて近寄るピエトロの頭にナイフを投げ、体勢を崩す重力に合わせそのまま身体を真っ二つに引き裂く。
「そんなにきらぁいかなぁ?この世界がしょうもなくないと言ったのはちあきぃなのに。随分と矛盾した行動だぁ」
「自分だけが例外だと思ってる?」
「みは、死なないからね。生物の中で最も死から離れた場にいる」
ネズミに触れれば砂になる。可変長符号の残滓、名前だけのことはある。残りの黒は畏怖の感情が残っているのか近づいて来ようとしない。
「質問だぁ。ちあきぃ。今日はいい事があったんだろぅ?みの、言う通り。でも恐らく、そのいい事があったせいで、いいことが無い日を憎んでしまった。そうじゃないかぁい?」
「違う。黙れ」
「みの、言葉は防げなぁいよ。たとえ黙っても心に響いてるでしょぉ?」
衝動は収まった。殺しみは消えた。もう、暴れなくていい。
そうじゃ、ないでしょ。
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