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第七章

過去を、未来を変えるには 5

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 どうしよう。このことを先輩に相談したほうがいいのだろうか。
 もし相談したとして、先輩が一人で過去にリープしてしまったとしたら……

 でも、黙っていたら、先輩が私の過去を調べて真実を知ってしまったら……

 そう思うと、私はどうするのが一番いいのかがわからなくなった。

 こんなこと、里緒奈ちゃんはもちろんのこと、真莉愛にも相談できない。一体どうすれば……

 その時、一人の人物が私の脳裏に浮かんだ。

 そう、カメラの所有者である落合先生だ。

 先生は実際に過去へリープして、私の叔母と会っている。先生なら、自分の甥が私を庇って過去で亡くなってしまうことを信じてくれるだろう。そして、それを阻止するためにどうすればいいか、一緒に考えてくれるに違いない。

 でも、その相談をするにも、先輩に気付かれないようにしなければ。そうじゃないと、先輩はきっと一人で過去へと行ってしまう。そうさせないために、私はない知恵を振り絞る。

 まずは、先生に私との時間を確保してもらわなければならない。

 授業に関する相談は、まず無理がある。基本的に勉強でわからないことがあると、私は先生よりも友達や先輩を頼っているので、ここで急に先生に頼ると絶対に疑われる。

 先輩や真莉愛たちに疑われることなく先生と話をするとしたら……

 どうすればいいだろう。

 私たち一、二年生はお盆まで土日を除きほぼ毎日補習で登校しているので、落合先生も多分出勤してるはずだ。

 対する先輩たち三年生は、お盆の後も補習がある。

 夏休みとは一体なんだろう。

 でも、そのお盆以降の補習の日で落合先生の空き時間があれば、その時に先生と話ができるかもしれない。

 私はわずかな期待を胸に、そのタイミングを待っていた。


 箏曲部の演奏会はお盆前に行われるとのことだったので、私はその日先輩の誘いを断り、真莉愛を誘い演奏会へと向かった。

 こんなふうに大義名分があれば、時間を気にすることなく落合先生に相談ができるんだけどな……

 そう思いながらも、私は真莉愛との待ち合わせ場所へと向かった。

 演奏会は市民会館が会場で、箏曲部以外にも吹奏楽部やコーラス部、他校の吹奏楽部や一般サークルの吹奏楽も参加しており、規模の大きなものだった。

 初めて鑑賞に来る私たちは、ホールに入ると演奏会を観に来ている人たちの邪魔にならないよう、出入り口近くの空いている席へと腰を下ろす。

 入場無料で座席指定もないので、好きな場所に座れるのはありがたいけれど、この演奏会に参加するそれぞれの団体が座席後部を占めているため、私たちは前方の空いた座席に座らなければならない。

 これは、演者の移動が観客や演奏会の邪魔にならないよう、主催者の配慮と思われる。

 入口でプログラムをもらい、私たちは芽美ちゃんたちの演奏順を確認すると、箏曲部は前半の割と早いところに表記されていた。

「どうする? 最後まで残る? それとも、芽美ちゃんたちの演奏が終わったら出る?」

 真莉愛が私の耳元で囁いた。

 最後まで残っていたら、お昼を過ぎてしまうだろう。でも、八月の暑い屋外に出ると、汗だくになるのは必至だ。汗で日焼け止めも流れてしまいそうだ。

「どうする? ぶっちゃけ、芽美ちゃんたちの演奏を聞いて終わったら、帰って課題を片付けたくて……」

 夏休みの課題は、山のように出されており、毎日の補習授業の後にやろうにも、なかなか手が回らない。

 補習の後、午後から先輩と一緒に学校の図書室や図書館で課題に取り掛かっているけれど、夏休みの課題とは別に出される補習の課題も多く、全然片付かない。

「だよね、私もまだ半分も終わってないよ。来週からは補習ないから、朝からやらなきゃって思いつつも、あれは終わる気がしないわ」

 両者の意見が一致したので、私たちは箏曲部の演奏が終わったら会場を出ることにした。

 そしていよいよ箏曲部の演奏が始まった。

 ステージ上で芽美ちゃんと花音ちゃんの姿はすぐに見つかった。二人とも、いつもとは違いとても真剣な表情で箏の音を奏でている。

 何台もの箏の演奏はホールの中に響き渡り、その音色は思っていたよりも迫力があり、鳥肌が立った。

 吹奏楽の音色は聞き慣れていたけれど、箏の音色は、我々が日本人なんだと思い出させてくれるようなエモさを感じた。

 箏曲部の演奏は二曲あり、そのうちの一曲は少し前に流行したテレビドラマの主題歌をアレンジしたもので、私たちはもちろんのこと周囲の観客も聞き惚れていた。
 私たちは箏曲部の演奏が終わると、そっと席を立ち、会場を後にした。
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