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第五章
叔母の恋人 6
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法要の計算は亡くなった年を一年とするため、亡くなった翌年に三回忌、六年後が七回忌と、亡くなった年に一年プラスするものだと母から教わった。なので今年が十七回忌と言っても、まだ叔母が亡くなって十六年だ。
叔母が亡くなった年に生まれた私からすれば、十六年はそれこそ気が遠くなるくらい長い時間だ。
落合先生は、どんな思いで毎年叔母のお墓参りにやってくるのだろう……
「正式に決まったら、声を掛けてあげるといいよ。今までもこっそりお参りに行ってるくらいだから、もしかしたら泰兄は遠慮するかも知れないけど、法要には参列させたいよな」
「そうですね……。母の話では、当時叔母に彼氏がいたのは家族も知っていたみたいですけど……。母が先日、家に飾ってある制服姿の叔母の写真は、『泰之くん』が撮ってくれたものだって言ってました」
法事で親戚が集まった時や普段の何気ない会話で、叔母の思い出話に花が咲くこともある。もちろん、お墓のお供え花についても話題に上る。泰之くんという名前はよく話題に出るのでその人だろうと思っていたけれど、その人が落合先生と結びつくとは思ってもみなかった。
それまでの行動を考えると、もしかしたら落合先生はこのような場所に顔を出すことを嫌がるかもしれない。けれど、もし落合先生にも堂々とお墓参りに行ってほしいし、叔母への気持ちを昇華させて新たに前へと進むきっかけになればいい。
きっと先輩も、私と同じ気持ちであると信じたい。
「泰兄、この写真を手元に置いておくのはつらいけど、学校に置いておけば、彼女はまだここにいる気がする。だからこの写真は写真部の部室で保管しているんだって言っていたよ」
当時の落合先生のことなんて全然知らないけれど、先輩の発する言葉が、なぜか学生服を着用した落合先生の姿と重なった。落合先生と先輩の雰囲気がよく似ているので、私の目にはそう見えるのかもしれない。
先輩からパネルを受け取った私は、そこに写し出された叔母の姿を目に焼き付ける。母や祖父母も知らない叔母の姿が、確かにここにいるのだ。
「これ、スマホで写真撮ってもいいですか? 母や祖父母もこれを見たら、きっと喜ぶと思います」
私の言葉に、先輩も頷いた。
「うん、もちろん。日数は掛かるかもしれないけど、写真館にネガを持ち込んだら、アナログ写真の焼き増しもできると思うんだ。綺麗な状態で親戚の人に渡してあげると喜ばれるかもしれないね」
先輩の言葉に、目から鱗が落ちる思いだった。
アナログ写真のことはよくわからないけれど、このままスマホでパネルを撮影すると、余計な光が入ったり、質感も違ってくるだろう。オリジナルを忠実に再現するならば、先輩の提案に乗るべきだ。
「でも……、勝手に持ち出ししてもいいんですか……? 貴重なものでしょうし……」
アナログ写真のネガは、部の備品だ。勝手に持ち出して何かあったときに、取り返しのつかないことになる。それに叔母の写真は、落合先生にとって、とても大切なものだ。写真のパネルもだけど、アナログのネガはデジタルみたいにバックアップなんて取れないだろう。そう思うと、簡単に行動を起こすことは憚られる。
私が先輩の提案を素直に受け入れられずにいると、背後から声が聞こえた。
「いいよ。なんならそのパネルも持って行って」
話に夢中だった私は、部室の入口が音を立てないよう静かに開けられていたことに気付かなかった。
私たちは、声の主のほうへ顔を向ける。
何とそこには、いつの間にか落合先生本人が立っていた。手には何かずっしりと重いものが入っているであろう、手提げの紙袋を持っていた。
叔母が亡くなった年に生まれた私からすれば、十六年はそれこそ気が遠くなるくらい長い時間だ。
落合先生は、どんな思いで毎年叔母のお墓参りにやってくるのだろう……
「正式に決まったら、声を掛けてあげるといいよ。今までもこっそりお参りに行ってるくらいだから、もしかしたら泰兄は遠慮するかも知れないけど、法要には参列させたいよな」
「そうですね……。母の話では、当時叔母に彼氏がいたのは家族も知っていたみたいですけど……。母が先日、家に飾ってある制服姿の叔母の写真は、『泰之くん』が撮ってくれたものだって言ってました」
法事で親戚が集まった時や普段の何気ない会話で、叔母の思い出話に花が咲くこともある。もちろん、お墓のお供え花についても話題に上る。泰之くんという名前はよく話題に出るのでその人だろうと思っていたけれど、その人が落合先生と結びつくとは思ってもみなかった。
それまでの行動を考えると、もしかしたら落合先生はこのような場所に顔を出すことを嫌がるかもしれない。けれど、もし落合先生にも堂々とお墓参りに行ってほしいし、叔母への気持ちを昇華させて新たに前へと進むきっかけになればいい。
きっと先輩も、私と同じ気持ちであると信じたい。
「泰兄、この写真を手元に置いておくのはつらいけど、学校に置いておけば、彼女はまだここにいる気がする。だからこの写真は写真部の部室で保管しているんだって言っていたよ」
当時の落合先生のことなんて全然知らないけれど、先輩の発する言葉が、なぜか学生服を着用した落合先生の姿と重なった。落合先生と先輩の雰囲気がよく似ているので、私の目にはそう見えるのかもしれない。
先輩からパネルを受け取った私は、そこに写し出された叔母の姿を目に焼き付ける。母や祖父母も知らない叔母の姿が、確かにここにいるのだ。
「これ、スマホで写真撮ってもいいですか? 母や祖父母もこれを見たら、きっと喜ぶと思います」
私の言葉に、先輩も頷いた。
「うん、もちろん。日数は掛かるかもしれないけど、写真館にネガを持ち込んだら、アナログ写真の焼き増しもできると思うんだ。綺麗な状態で親戚の人に渡してあげると喜ばれるかもしれないね」
先輩の言葉に、目から鱗が落ちる思いだった。
アナログ写真のことはよくわからないけれど、このままスマホでパネルを撮影すると、余計な光が入ったり、質感も違ってくるだろう。オリジナルを忠実に再現するならば、先輩の提案に乗るべきだ。
「でも……、勝手に持ち出ししてもいいんですか……? 貴重なものでしょうし……」
アナログ写真のネガは、部の備品だ。勝手に持ち出して何かあったときに、取り返しのつかないことになる。それに叔母の写真は、落合先生にとって、とても大切なものだ。写真のパネルもだけど、アナログのネガはデジタルみたいにバックアップなんて取れないだろう。そう思うと、簡単に行動を起こすことは憚られる。
私が先輩の提案を素直に受け入れられずにいると、背後から声が聞こえた。
「いいよ。なんならそのパネルも持って行って」
話に夢中だった私は、部室の入口が音を立てないよう静かに開けられていたことに気付かなかった。
私たちは、声の主のほうへ顔を向ける。
何とそこには、いつの間にか落合先生本人が立っていた。手には何かずっしりと重いものが入っているであろう、手提げの紙袋を持っていた。
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