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第四章

先輩と私 2

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 帰宅すると、私はすぐに部屋着に着替え、明日の準備をする。今日は特に課題を出されている教科もない。明日の準備を終えると、先にシャワーを浴びることにした。

 シャワーを浴びてスッキリすると、心身ともにちょっとだけ落ち着いた。

 髪の毛をタオルドライでざっと拭き、ダイニングへ顔を出すと、ちょうど夕飯の支度中だった。

 私は冷蔵庫の中から、先ほど母が購入した経口補水液を取り出し、ペットボトルの蓋を捻った。

「あ、香織。食欲はどう? たくさん食べられそう?」

 キッチンから母の声が聞こえる。今日は煮物がメインのおかずみたいだ。私は経口補水液を口に含む。嚥下すると、それが身体中に染み渡る感じがした。

「いや、今日はちょっとでいいよ」

 私の返事に、母は不服そうだ。

「今日は煮物だからでしょう」

「あ、バレた。……って言うか、やっぱりちょっとまだしんどくて」

 私がそう言うと、母は私の顔をじっと見る。

「顔色はそこまで悪くはないわね……。無理はしなくていいけど、しっかり食べなさいよ?」

「うん……。髪の毛、乾かしてくるね」

 私は水分補給を済ませると、再び洗面所へと向かい、ドライヤーを使って髪の毛を乾かした。

 鏡に映った私の顔は、母が言うようにあまり顔色が良くない。入浴して血行は良くなっているはずなのに、これじゃ体調悪いのがバレバレだ。

 首に掛けていたフェイスタオルを洗濯機の中に入れ、再びダイニングへ戻ると、テーブルの上に、夕飯が並べられている。私は「いただきます」と口にして、左手にお茶碗、右手に箸を持つ。

 目の前に並べられた、小鉢に盛られた煮物へと箸をつける。味がよく染み込んでいて美味しかったけれど、やっぱりそんなに食欲が湧かない。

 お茶碗に盛られた白米は、いつもより少量だったので何とか食べ切ることができたけれど、それでもちょっとしんどかった。

 食事を済ませると、再び洗面所へと向かい、歯磨きを済ませた。

 明日の準備も済ませているので、私はスマホを手に取りベッドの上に横たわる。

 あの時、何でフラッシュバックが起こったんだろう……

 初めて過呼吸の発作が起こったのは、あの事故の後だ。

 入院中のベッドの上で、パニックを起こした私は過呼吸の発作を起こした。あの時は入院中で医療従事者に囲まれた環境だったので、すぐに鎮静剤を処方され、ことなきを得た。以降、過呼吸を起こした時の処置の仕方を教わった。呼吸を吸い過ぎることが原因なので、呼吸を吸い込み過ぎないよう、日頃からタオルやビニール袋を携帯していたことが功を奏したようだ。

 私は鞄の内ポケットやリュックのポケットに、予備のビニール袋とタオルハンカチを忍ばせると、スマホのロックを解除する。

 部屋を出ている間にだれかからメッセージを受信していたようで、アプリの場面を開いた。するとそこには、先輩からメッセージが届いていた。

 突然過呼吸の発作を起こしたから、心配を掛けてしまっただろうな……

 私は、先輩からのメッセージを開く。
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