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第三章
学校の七不思議と噂話 4
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え……、何、これ。私、何かまずいことでも聞いた……?
少しの間、部室内に沈黙が走る。
でもその沈黙を破ったのは吉本部長だ。
「ああ、ごめん。これは昔、アナログの一眼レフで使っていたレンズらしいんだ。アナログからデジタルのカメラに変わってからも、レンズは使えるから置いていたんだけど、これはちょっと年代物のレンズでね。代々写真部に受け継がれているんだ」
聞けば、アナログカメラとデジタルカメラのレンズマウントというものの仕様が同じならば、どのレンズでも装着が可能なのだそうだ。だから、同一メーカーのカメラボディとレンズについては、全ての製品に当てはまるという。
「ここの部の一眼レフ、全部同じメーカーのカメラじゃないから、このレンズが使えるカメラも限られていて。……あ、爽真のカメラって、これ、装着できたっけ?」
吉本部長の声に、西村先輩が頷く。
「ああ、たしか矢野の使ってるカメラも装着できたよな?」
西村先輩の声に、矢野先輩の背中がビクッと震えた。
矢野先輩は私に背を向けているので、その表情は見えないけれど、二年生たちの表情がこわばって行くのがわかる。西村先輩は、二年生たちに背を向けたまま、レンズの箱に手を伸ばしながら言葉を続ける。
「でもなぜか、みんなこのレンズを使いたがらないんだよなあ……」
西村先輩の声に、私は再び先輩の背中に視線を戻すと、先輩はその古めかしい箱へと手を伸ばし、中からレンズを取り出した。
「このレンズを使って撮影すると、心霊写真が撮れるとか噂が出回っていて、誰も使わないんだよな……」
「だってそんなもん、写っていたら気持ち悪いじゃないですか。あのレンズは心霊写真が写るからって封印されているって話だし。もしそれが本当なら、科学で証明できないようなものが写るんですよ? 普通に怖いですってば」
西村先輩の言葉の後に矢野先輩がそう言うと、他の先輩たちも小刻みに頷いている。
「このレンズ、実はこの学校の七不思議の一つなんだよね」
吉本部長の声に、真莉愛が反応する。
「七不思議って、じゃあ、他の六つは……?」
「……」
真莉愛の問いに、吉本部長が勿体振った態度で答えを焦らした。
「もうっ、焦らさないで教えてくださいよ!」
真莉愛の声に、矢野先輩が口を開く。
「どこの学校でもこういった類の話はたくさんあると思うんだけど、ここまで具体的な不思議案件は、うちの高校ではこのレンズだけだな。あ、去年一つ追加があるぞ。爽真先輩のドッペルゲンガー!」
「普通だと、噂話が出たとしても、すぐにだれかが検証して原因究明されるんだけど……。このレンズに関しては、みんな使いたがらないから、いつまでもこんな噂が立つんだよね。爽真先輩のドッペルゲンガーについては、実は私。目撃者の一人なんだよね。今でもはっきり覚えているけど、マジであれは先輩だったと思うんだ。遠目だったから自信ないけど……」
矢野先輩の言葉を継いで、佐々木先輩が言葉を発すると、その佐々木先輩の言葉に二年生の先輩たちは互いに視線を合わせて口を噤んだ。
そんな様子に、真莉愛も言葉を失っている。
「そんなにやばいんですか? そのレンズ……。それに、西村先輩のドッペルゲンガーって……、本当なんですか?」
私がやっとの思いで口にした言葉に、西村先輩は優しく微笑んだ。
「そんなことはないよ。たまたまそういう写真が撮れることもあるみたいけど、全部が全部、そうなるわけじゃないから。それから僕のドッペルゲンガーの噂なんだけど……。目撃者が何人かいるみたいなんだけど、目撃証言のあったその時間帯、僕は教室で補習を受けていたからなぁ……。当時のクラスメイト全員が証人だから、普通に有り得ない話なんだけどね」
どうやら、先輩自身はそのドッペルゲンガーを目撃していないせいか、自分にそっくりな人間が現れたのにみんなの目撃情報をおもしろがっているようだ。
多分その当時も先輩がそんな調子で取り合わなかったからか、目撃情報もその一度だけ。しかも遠目だったということで、本当に先輩だったのかもあやふやになってしまい、噂もそこまで広がることもなかったのだという。
西村先輩の言葉に、矢野先輩が意を決したように口を開く。
「爽真先輩! ドッペルゲンガーはさておき、そのレンズ、この際処分しませんか? 実際のところ先輩以外の人間は全然使っていないし。先輩のカメラ、今年買い換えですよね? その時に、一緒にそれも処分してもらうことできますよね?」
矢野先輩の言葉を受けて、吉本部長が口を開く。
「矢野の意見はもっともなんだけど……。レンズにひびが入るとか割れるとか、そういった物理的な不具合がない限り、残念ながらレンズは勝手に処分できないって前に落合先生から言われてるんだ」
その言葉を聞いて、二年生の先輩たちは肩を落とした。
西村先輩の表情は変わっていないので、何を考えているかはわからない。けれど、処分されないと聞いて安心しているようだ。
「というわけだ、このレンズはとりあえず、このまま香織ちゃんに引き継ぐよ。香織ちゃんは、今後このレンズをどうするかについて、落合先生の指示を仰ぐように」
先輩はこの言葉でこの場を締めると、カメラとレンズを持って部室を後にした。私は後ろ髪を引かれる思いで、その後を追った。
少しの間、部室内に沈黙が走る。
でもその沈黙を破ったのは吉本部長だ。
「ああ、ごめん。これは昔、アナログの一眼レフで使っていたレンズらしいんだ。アナログからデジタルのカメラに変わってからも、レンズは使えるから置いていたんだけど、これはちょっと年代物のレンズでね。代々写真部に受け継がれているんだ」
聞けば、アナログカメラとデジタルカメラのレンズマウントというものの仕様が同じならば、どのレンズでも装着が可能なのだそうだ。だから、同一メーカーのカメラボディとレンズについては、全ての製品に当てはまるという。
「ここの部の一眼レフ、全部同じメーカーのカメラじゃないから、このレンズが使えるカメラも限られていて。……あ、爽真のカメラって、これ、装着できたっけ?」
吉本部長の声に、西村先輩が頷く。
「ああ、たしか矢野の使ってるカメラも装着できたよな?」
西村先輩の声に、矢野先輩の背中がビクッと震えた。
矢野先輩は私に背を向けているので、その表情は見えないけれど、二年生たちの表情がこわばって行くのがわかる。西村先輩は、二年生たちに背を向けたまま、レンズの箱に手を伸ばしながら言葉を続ける。
「でもなぜか、みんなこのレンズを使いたがらないんだよなあ……」
西村先輩の声に、私は再び先輩の背中に視線を戻すと、先輩はその古めかしい箱へと手を伸ばし、中からレンズを取り出した。
「このレンズを使って撮影すると、心霊写真が撮れるとか噂が出回っていて、誰も使わないんだよな……」
「だってそんなもん、写っていたら気持ち悪いじゃないですか。あのレンズは心霊写真が写るからって封印されているって話だし。もしそれが本当なら、科学で証明できないようなものが写るんですよ? 普通に怖いですってば」
西村先輩の言葉の後に矢野先輩がそう言うと、他の先輩たちも小刻みに頷いている。
「このレンズ、実はこの学校の七不思議の一つなんだよね」
吉本部長の声に、真莉愛が反応する。
「七不思議って、じゃあ、他の六つは……?」
「……」
真莉愛の問いに、吉本部長が勿体振った態度で答えを焦らした。
「もうっ、焦らさないで教えてくださいよ!」
真莉愛の声に、矢野先輩が口を開く。
「どこの学校でもこういった類の話はたくさんあると思うんだけど、ここまで具体的な不思議案件は、うちの高校ではこのレンズだけだな。あ、去年一つ追加があるぞ。爽真先輩のドッペルゲンガー!」
「普通だと、噂話が出たとしても、すぐにだれかが検証して原因究明されるんだけど……。このレンズに関しては、みんな使いたがらないから、いつまでもこんな噂が立つんだよね。爽真先輩のドッペルゲンガーについては、実は私。目撃者の一人なんだよね。今でもはっきり覚えているけど、マジであれは先輩だったと思うんだ。遠目だったから自信ないけど……」
矢野先輩の言葉を継いで、佐々木先輩が言葉を発すると、その佐々木先輩の言葉に二年生の先輩たちは互いに視線を合わせて口を噤んだ。
そんな様子に、真莉愛も言葉を失っている。
「そんなにやばいんですか? そのレンズ……。それに、西村先輩のドッペルゲンガーって……、本当なんですか?」
私がやっとの思いで口にした言葉に、西村先輩は優しく微笑んだ。
「そんなことはないよ。たまたまそういう写真が撮れることもあるみたいけど、全部が全部、そうなるわけじゃないから。それから僕のドッペルゲンガーの噂なんだけど……。目撃者が何人かいるみたいなんだけど、目撃証言のあったその時間帯、僕は教室で補習を受けていたからなぁ……。当時のクラスメイト全員が証人だから、普通に有り得ない話なんだけどね」
どうやら、先輩自身はそのドッペルゲンガーを目撃していないせいか、自分にそっくりな人間が現れたのにみんなの目撃情報をおもしろがっているようだ。
多分その当時も先輩がそんな調子で取り合わなかったからか、目撃情報もその一度だけ。しかも遠目だったということで、本当に先輩だったのかもあやふやになってしまい、噂もそこまで広がることもなかったのだという。
西村先輩の言葉に、矢野先輩が意を決したように口を開く。
「爽真先輩! ドッペルゲンガーはさておき、そのレンズ、この際処分しませんか? 実際のところ先輩以外の人間は全然使っていないし。先輩のカメラ、今年買い換えですよね? その時に、一緒にそれも処分してもらうことできますよね?」
矢野先輩の言葉を受けて、吉本部長が口を開く。
「矢野の意見はもっともなんだけど……。レンズにひびが入るとか割れるとか、そういった物理的な不具合がない限り、残念ながらレンズは勝手に処分できないって前に落合先生から言われてるんだ」
その言葉を聞いて、二年生の先輩たちは肩を落とした。
西村先輩の表情は変わっていないので、何を考えているかはわからない。けれど、処分されないと聞いて安心しているようだ。
「というわけだ、このレンズはとりあえず、このまま香織ちゃんに引き継ぐよ。香織ちゃんは、今後このレンズをどうするかについて、落合先生の指示を仰ぐように」
先輩はこの言葉でこの場を締めると、カメラとレンズを持って部室を後にした。私は後ろ髪を引かれる思いで、その後を追った。
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