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第二章
はじめての彼氏 1
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「香織ー、部室行こう!」
七限の授業が終わり、チャイムが鳴る。先生が教室を後にすると、帰り支度や部室への移動などで、教室内は喧騒に包まれている。
「うん、荷物まとめるからちょっと待ってね」
私は机の中から教科書を取り出すと、鞄の中へと片付ける。
課題がたくさん出されるので、置き勉と呼ばれる教科書を学校に置いて帰ることはできない。そのため通学用の鞄やサブバッグとして使っているリュックは常に教材でいっぱいになっている。
一年生の入部届を回収後、全ての部で部員の選考があり、私と真莉愛は無事に写真部への入部が決まった。
授業が終わると私と真莉愛は一緒に部室へ挨拶に向かった。
部室には、部長と西村先輩以外の部員が勢揃いしており、初の顔合わせとなった。
三年生、二年生と各五名ずつの十名に、一年生も五名の総勢十五名だ。私たち以外の一年生は、他のクラスの男子生徒で、私と真莉愛もはじめましての顔ぶれだった。そして、私と同じく高校で初めてカメラに触れる人たちばかりだ。
二年生と三年生の男女比率は二対三。これはきっと、先生が部員を選考する際こうなるようにしたのだろう。
写真部で貸し出しできる一眼レフは十台しかなく、五台は二年生がメインで使い、残りの五台は三年生が一年生に使い方を教えながら、引き継ぎするのが例年の慣わしだという。
だから今の二年生は、今年の卒業生から使い方を教わり、来年の春、入学してくる新入生に教え方を教えてからの引退となる。
私たちは一学期の間、三年生の先輩とペアを組む。
「西村先輩とペア組めるといいね」
真莉愛が、私の耳元で囁くと、私の顔は一瞬で熱くなる。
入部前に落合先生から部室に呼び出されたあの日、不覚にも私は先輩の目の前で赤面してしまった。緊張していたせいだと誤魔化したけれど、あの場にいた全員がそう捉えてくれたとは思えない。
現に真莉愛は、ことあるごとにこうやって西村先輩ネタを私に振ってくる。
「私、先輩と香織ってお似合いだと思うよ? 先輩受験生だから難しいかもだけど、もし香織にその気があるなら、頑張れ!」
入学式のあの時、人混みの中から救ってくれた先輩に恋心を抱いた私は、社交辞令でそう言われて嬉しい反面、現実はそう甘くないことを知っているので曖昧い笑って濁した。
「それより真莉愛、写真部に三年間在籍しなきゃならないって、大丈夫なの?」
私は話題をそちらに振った。
通学時間がかかるため、当初部活は二年になったら辞めると言っていたのだ。それを私と一緒に入部するため三年間在籍することとなると、活動日数は少ないとはいえ、その日は帰宅時間が遅くなるのは確定なのだ。
「んー……、写真部って、絶対に出なきゃならない日って月曜日だけでしょ。その日に塾がないから何とかなりそう。それに、部活の日に部室で先輩に課題も見てもらったら、先輩も一年時の復習になるし私も課題が終わるしで一石二鳥かな、なんて」
真莉愛は、自分に都合のいいように、ポジティブな意見を口にする。私は呆れて言葉が出なかったけれど、背後から真莉愛の言葉にツッコミが入り、私たちは驚いて後ろを振り向いた。
「おいおい、俺らの都合、まるで無視だな。新入生たちは」
そこには部長と西村先輩がいた。一体どこから私たちの話を聞いていたのだろう。私は恥ずかしくなり、顔が一気に熱くなる。加えて手汗も一気にかいており、鞄の持ち手がじっとりとしている。
「せ、先輩!? いつからそこに……」
「ん? たった今だけど? なに、俺たちの悪口でも話していた?」
部長が真莉愛に軽口を叩くと、真莉愛は反論しながらそのまま部長と部室へ向かって歩いていく。
私は驚きのあまりその場に立ち止まると、西村先輩も私に付き合ってその場に留まってくれている。
「びっくりした……」
私の呟きに、西村先輩も苦笑いを浮かべている。
「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど。階段を下りてきたら、ちょうど二人の姿が見えたから」
先輩が、まいったなと言いながら、鞄を持っていない空いた手で自身の頭をポリポリとかく。
「ここで立ち話も何だから、僕たちも部室に行こう。そういえば、香織ちゃんは今日から本格的に活動だね。カメラは初めてなんだっけ?」
西村先輩が私に優しく問いかける。
「はい、だから壊したりしないかちょっと心配で……」
私の返事に、先輩は笑っている。
「大丈夫だよ。もし仮に壊したとしても、部費で修理代は出るし。もし僕とペアになったら、今僕が使ってるカメラはちょうど新しくなるんだ。それまでは練習で今までのやつを使って、僕が引退してから新品を使えばいい。泰兄、最新型のやつでも買ってくれるのかな」
いつの間にか、先輩は私を『香織ちゃん』と呼ぶのが定着していた。先輩に名前を呼ばれるのは、なんだか気恥ずかしいけれど、親しみを込めてくれているのがわかるので嬉しくもある。
私は、先輩と並んで一緒に部室へと向かう。
七限の授業が終わり、チャイムが鳴る。先生が教室を後にすると、帰り支度や部室への移動などで、教室内は喧騒に包まれている。
「うん、荷物まとめるからちょっと待ってね」
私は机の中から教科書を取り出すと、鞄の中へと片付ける。
課題がたくさん出されるので、置き勉と呼ばれる教科書を学校に置いて帰ることはできない。そのため通学用の鞄やサブバッグとして使っているリュックは常に教材でいっぱいになっている。
一年生の入部届を回収後、全ての部で部員の選考があり、私と真莉愛は無事に写真部への入部が決まった。
授業が終わると私と真莉愛は一緒に部室へ挨拶に向かった。
部室には、部長と西村先輩以外の部員が勢揃いしており、初の顔合わせとなった。
三年生、二年生と各五名ずつの十名に、一年生も五名の総勢十五名だ。私たち以外の一年生は、他のクラスの男子生徒で、私と真莉愛もはじめましての顔ぶれだった。そして、私と同じく高校で初めてカメラに触れる人たちばかりだ。
二年生と三年生の男女比率は二対三。これはきっと、先生が部員を選考する際こうなるようにしたのだろう。
写真部で貸し出しできる一眼レフは十台しかなく、五台は二年生がメインで使い、残りの五台は三年生が一年生に使い方を教えながら、引き継ぎするのが例年の慣わしだという。
だから今の二年生は、今年の卒業生から使い方を教わり、来年の春、入学してくる新入生に教え方を教えてからの引退となる。
私たちは一学期の間、三年生の先輩とペアを組む。
「西村先輩とペア組めるといいね」
真莉愛が、私の耳元で囁くと、私の顔は一瞬で熱くなる。
入部前に落合先生から部室に呼び出されたあの日、不覚にも私は先輩の目の前で赤面してしまった。緊張していたせいだと誤魔化したけれど、あの場にいた全員がそう捉えてくれたとは思えない。
現に真莉愛は、ことあるごとにこうやって西村先輩ネタを私に振ってくる。
「私、先輩と香織ってお似合いだと思うよ? 先輩受験生だから難しいかもだけど、もし香織にその気があるなら、頑張れ!」
入学式のあの時、人混みの中から救ってくれた先輩に恋心を抱いた私は、社交辞令でそう言われて嬉しい反面、現実はそう甘くないことを知っているので曖昧い笑って濁した。
「それより真莉愛、写真部に三年間在籍しなきゃならないって、大丈夫なの?」
私は話題をそちらに振った。
通学時間がかかるため、当初部活は二年になったら辞めると言っていたのだ。それを私と一緒に入部するため三年間在籍することとなると、活動日数は少ないとはいえ、その日は帰宅時間が遅くなるのは確定なのだ。
「んー……、写真部って、絶対に出なきゃならない日って月曜日だけでしょ。その日に塾がないから何とかなりそう。それに、部活の日に部室で先輩に課題も見てもらったら、先輩も一年時の復習になるし私も課題が終わるしで一石二鳥かな、なんて」
真莉愛は、自分に都合のいいように、ポジティブな意見を口にする。私は呆れて言葉が出なかったけれど、背後から真莉愛の言葉にツッコミが入り、私たちは驚いて後ろを振り向いた。
「おいおい、俺らの都合、まるで無視だな。新入生たちは」
そこには部長と西村先輩がいた。一体どこから私たちの話を聞いていたのだろう。私は恥ずかしくなり、顔が一気に熱くなる。加えて手汗も一気にかいており、鞄の持ち手がじっとりとしている。
「せ、先輩!? いつからそこに……」
「ん? たった今だけど? なに、俺たちの悪口でも話していた?」
部長が真莉愛に軽口を叩くと、真莉愛は反論しながらそのまま部長と部室へ向かって歩いていく。
私は驚きのあまりその場に立ち止まると、西村先輩も私に付き合ってその場に留まってくれている。
「びっくりした……」
私の呟きに、西村先輩も苦笑いを浮かべている。
「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど。階段を下りてきたら、ちょうど二人の姿が見えたから」
先輩が、まいったなと言いながら、鞄を持っていない空いた手で自身の頭をポリポリとかく。
「ここで立ち話も何だから、僕たちも部室に行こう。そういえば、香織ちゃんは今日から本格的に活動だね。カメラは初めてなんだっけ?」
西村先輩が私に優しく問いかける。
「はい、だから壊したりしないかちょっと心配で……」
私の返事に、先輩は笑っている。
「大丈夫だよ。もし仮に壊したとしても、部費で修理代は出るし。もし僕とペアになったら、今僕が使ってるカメラはちょうど新しくなるんだ。それまでは練習で今までのやつを使って、僕が引退してから新品を使えばいい。泰兄、最新型のやつでも買ってくれるのかな」
いつの間にか、先輩は私を『香織ちゃん』と呼ぶのが定着していた。先輩に名前を呼ばれるのは、なんだか気恥ずかしいけれど、親しみを込めてくれているのがわかるので嬉しくもある。
私は、先輩と並んで一緒に部室へと向かう。
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