上 下
10 / 67
第二章

はじめての彼氏 1

しおりを挟む
「香織ー、部室行こう!」

 七限の授業が終わり、チャイムが鳴る。先生が教室を後にすると、帰り支度や部室への移動などで、教室内は喧騒に包まれている。

「うん、荷物まとめるからちょっと待ってね」

 私は机の中から教科書を取り出すと、鞄の中へと片付ける。
 課題がたくさん出されるので、置き勉と呼ばれる教科書を学校に置いて帰ることはできない。そのため通学用の鞄やサブバッグとして使っているリュックは常に教材でいっぱいになっている。

 一年生の入部届を回収後、全ての部で部員の選考があり、私と真莉愛は無事に写真部への入部が決まった。

 授業が終わると私と真莉愛は一緒に部室へ挨拶に向かった。

 部室には、部長と西村先輩以外の部員が勢揃いしており、初の顔合わせとなった。

 三年生、二年生と各五名ずつの十名に、一年生も五名の総勢十五名だ。私たち以外の一年生は、他のクラスの男子生徒で、私と真莉愛もはじめましての顔ぶれだった。そして、私と同じく高校で初めてカメラに触れる人たちばかりだ。

 二年生と三年生の男女比率は二対三。これはきっと、先生が部員を選考する際こうなるようにしたのだろう。

 写真部で貸し出しできる一眼レフは十台しかなく、五台は二年生がメインで使い、残りの五台は三年生が一年生に使い方を教えながら、引き継ぎするのが例年の慣わしだという。

 だから今の二年生は、今年の卒業生から使い方を教わり、来年の春、入学してくる新入生に教え方を教えてからの引退となる。

 私たちは一学期の間、三年生の先輩とペアを組む。

「西村先輩とペア組めるといいね」

 真莉愛が、私の耳元で囁くと、私の顔は一瞬で熱くなる。

 入部前に落合先生から部室に呼び出されたあの日、不覚にも私は先輩の目の前で赤面してしまった。緊張していたせいだと誤魔化したけれど、あの場にいた全員がそう捉えてくれたとは思えない。

 現に真莉愛は、ことあるごとにこうやって西村先輩ネタを私に振ってくる。

「私、先輩と香織ってお似合いだと思うよ? 先輩受験生だから難しいかもだけど、もし香織にその気があるなら、頑張れ!」

 入学式のあの時、人混みの中から救ってくれた先輩に恋心を抱いた私は、社交辞令でそう言われて嬉しい反面、現実はそう甘くないことを知っているので曖昧い笑って濁した。

「それより真莉愛、写真部に三年間在籍しなきゃならないって、大丈夫なの?」

 私は話題をそちらに振った。
 通学時間がかかるため、当初部活は二年になったら辞めると言っていたのだ。それを私と一緒に入部するため三年間在籍することとなると、活動日数は少ないとはいえ、その日は帰宅時間が遅くなるのは確定なのだ。

「んー……、写真部って、絶対に出なきゃならない日って月曜日だけでしょ。その日に塾がないから何とかなりそう。それに、部活の日に部室で先輩に課題も見てもらったら、先輩も一年時の復習になるし私も課題が終わるしで一石二鳥かな、なんて」

 真莉愛は、自分に都合のいいように、ポジティブな意見を口にする。私は呆れて言葉が出なかったけれど、背後から真莉愛の言葉にツッコミが入り、私たちは驚いて後ろを振り向いた。

「おいおい、俺らの都合、まるで無視だな。新入生たちは」

 そこには部長と西村先輩がいた。一体どこから私たちの話を聞いていたのだろう。私は恥ずかしくなり、顔が一気に熱くなる。加えて手汗も一気にかいており、鞄の持ち手がじっとりとしている。

「せ、先輩!? いつからそこに……」

「ん? たった今だけど? なに、俺たちの悪口でも話していた?」

 部長が真莉愛に軽口を叩くと、真莉愛は反論しながらそのまま部長と部室へ向かって歩いていく。

 私は驚きのあまりその場に立ち止まると、西村先輩も私に付き合ってその場に留まってくれている。

「びっくりした……」

 私の呟きに、西村先輩も苦笑いを浮かべている。

「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど。階段を下りてきたら、ちょうど二人の姿が見えたから」

 先輩が、まいったなと言いながら、鞄を持っていない空いた手で自身の頭をポリポリとかく。

「ここで立ち話も何だから、僕たちも部室に行こう。そういえば、香織ちゃんは今日から本格的に活動だね。カメラは初めてなんだっけ?」

 西村先輩が私に優しく問いかける。

「はい、だから壊したりしないかちょっと心配で……」

 私の返事に、先輩は笑っている。

「大丈夫だよ。もし仮に壊したとしても、部費で修理代は出るし。もし僕とペアになったら、今僕が使ってるカメラはちょうど新しくなるんだ。それまでは練習で今までのやつを使って、僕が引退してから新品を使えばいい。泰兄、最新型のやつでも買ってくれるのかな」

 いつの間にか、先輩は私を『香織ちゃん』と呼ぶのが定着していた。先輩に名前を呼ばれるのは、なんだか気恥ずかしいけれど、親しみを込めてくれているのがわかるので嬉しくもある。

 私は、先輩と並んで一緒に部室へと向かう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~

テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。 なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった―― 学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ! *この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。

男装部?!

猫又うさぎ
青春
男装女子に抱かれたいっ! そんな気持ちを持った ただの女好き高校生のお話です。 〇登場人物 随時更新。 親松 駿(おやまつ しゅん) 3年 堀田 優希(ほった ゆうき) 3年 松浦 隼人(まつうら はやと) 3年 浦野 結華(うらの ゆいか) 3年 櫻井 穂乃果(さくらい ほのか) 3年 本田 佳那(ほんだ かな) 2年 熊谷 澪(くまがや れい) 3年 𝐧𝐞𝐰 委員会メンバー 委員長 松浦 隼人(まつうら はやと)3年 副委員長 池原 亮太(いけはら ゆうた)3年 書記   本田 佳那(ほんだ かな)2年 頑張ってます。頑張って更新するのでお待ちくださいっ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

スカートなんて履きたくない

もちっぱち
青春
齋藤咲夜(さいとうさや)は、坂本翼(さかもとつばさ)と一緒に 高校の文化祭を楽しんでいた。 イケメン男子っぽい女子の同級生の悠(はるか)との関係が友達よりさらにどんどん近づくハラハラドキドキのストーリーになっています。 女友達との関係が主として描いてます。 百合小説です ガールズラブが苦手な方は ご遠慮ください 表紙イラスト:ノノメ様

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

処理中です...