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第一章
出会い 3
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翌朝少し早めに自宅を出た私は、登校中に昨日の先輩を偶然見かけた。
昨日のお礼を伝えようと、少し速足で先輩の後ろをついて歩き、タイミングを見計らっていた。けれど先輩は、途中で友達に声を掛けられて一緒に並んで歩き始めたので、私は声を掛けることができなかった。
でも、昇降口に差し掛かった時だった。
「おはよう、昨日の新入生。入学おめでとう」
不意に後ろを振り返った先輩が、私の顔を見て声を掛けてくれた。
「え? あ、あの……、私、ですか……?」
周囲には、私以外にも数人の生徒がいる。もしかしたら、私じゃない新入生に声を掛けた可能性もある。だから、先輩が声を掛けた相手が私じゃなかった場合恥ずかしいので、先に確認の意味で問いかけた。
そんな私の問いに、先輩は屈託のない笑顔で返事をする。
「そう、君だよ。……ああ、名前を聞いてないな。君はだれちゃん? ちなみに僕は、三年の西村爽真」
「西村先輩、ですね。昨日はありがとうございました。私は、一年二組の中嶋香織です」
お互い立ち止まって挨拶をしていると、後ろから登校してきた生徒が続々と入ってきて、さすがに通行の妨げになる。なので、上靴に履き替えて話の続きは廊下ですることになった。
下足場から廊下へ出ると、既に先輩は上履きを履いて待っている。私は小走りで先輩の元へ駆け寄ると、自然と肩を並べて歩く形となった。
「昨日は、助けてくださってありがとうございました。あのままだと押し潰されるところだったので、本当に助かりました。」
先輩が隣に並ぶと、身長の高さにドキドキする。私の目線の高さが、ちょうど先輩の肩の辺りだ。先輩の視界に、私はどう映っているのだろう。もしかして、頭頂部だけしか見えていないかも。
一人でドキドキしている時だった。
「あ、ちょっと動かないで」
突然先輩はそう言って立ち止まると、私の頭の上に手を伸ばす。そして、少ししてその指先にあったのは、桜の花びらだった。
「はい、これ」
差し出された花びらを、私は両手で受け取った。
「ありがとうございます。やだ、いつの間に……」
どうやら先ほど突風が吹いた時、桜の花びらが偶然私の髪の毛にくっついたようだ。
「そういえば、落ちてくる花びらを地面に着くまでにキャッチできれば願いごとが叶うって、聞いたことがあるよ。中嶋さんの願いが叶うといいね。……あ、そろそろ教室に行かないと。新入生はたしか朝一で試験があるんじゃなかったっけ」
先輩の言葉にドキッとした。
入学式翌日なのに、春休みの課題の中から試験があるのだ。
中学校を卒業後、春休み中に高校の入学説明会があり、その時に課題が出されたのだ。今日はそのワークブックの提出と、同時にきちんと課題をしていれば解ける内容の試験があるのだ。先輩がそのことを知っているということは、これは毎年恒例行事なのだろう。
「試験、頑張って。じゃあ、またね」
先輩はそう言うと、階段で別れた。
一年生は一階に教室があり、学年が上がるにつれ、上階へ教室が移るのだ。
私の背後から、私と同じ色の名札を着けた生徒たちが駆け足で教室へと向かっていく。やばい、私も最後のあがきでワークに目を通しておかなきゃ。私も駆け足気味で、教室へと向かった。
ホームルームが終わってすぐに、試験が行われた。教科ごとに一時間ずつ試験があり、正解不正解は別として、とりあえず出された問題はすべて答えを埋めた。
午前中だけで四教科の試験が行われ、私たちはぐったりしていた。
昨日のお礼を伝えようと、少し速足で先輩の後ろをついて歩き、タイミングを見計らっていた。けれど先輩は、途中で友達に声を掛けられて一緒に並んで歩き始めたので、私は声を掛けることができなかった。
でも、昇降口に差し掛かった時だった。
「おはよう、昨日の新入生。入学おめでとう」
不意に後ろを振り返った先輩が、私の顔を見て声を掛けてくれた。
「え? あ、あの……、私、ですか……?」
周囲には、私以外にも数人の生徒がいる。もしかしたら、私じゃない新入生に声を掛けた可能性もある。だから、先輩が声を掛けた相手が私じゃなかった場合恥ずかしいので、先に確認の意味で問いかけた。
そんな私の問いに、先輩は屈託のない笑顔で返事をする。
「そう、君だよ。……ああ、名前を聞いてないな。君はだれちゃん? ちなみに僕は、三年の西村爽真」
「西村先輩、ですね。昨日はありがとうございました。私は、一年二組の中嶋香織です」
お互い立ち止まって挨拶をしていると、後ろから登校してきた生徒が続々と入ってきて、さすがに通行の妨げになる。なので、上靴に履き替えて話の続きは廊下ですることになった。
下足場から廊下へ出ると、既に先輩は上履きを履いて待っている。私は小走りで先輩の元へ駆け寄ると、自然と肩を並べて歩く形となった。
「昨日は、助けてくださってありがとうございました。あのままだと押し潰されるところだったので、本当に助かりました。」
先輩が隣に並ぶと、身長の高さにドキドキする。私の目線の高さが、ちょうど先輩の肩の辺りだ。先輩の視界に、私はどう映っているのだろう。もしかして、頭頂部だけしか見えていないかも。
一人でドキドキしている時だった。
「あ、ちょっと動かないで」
突然先輩はそう言って立ち止まると、私の頭の上に手を伸ばす。そして、少ししてその指先にあったのは、桜の花びらだった。
「はい、これ」
差し出された花びらを、私は両手で受け取った。
「ありがとうございます。やだ、いつの間に……」
どうやら先ほど突風が吹いた時、桜の花びらが偶然私の髪の毛にくっついたようだ。
「そういえば、落ちてくる花びらを地面に着くまでにキャッチできれば願いごとが叶うって、聞いたことがあるよ。中嶋さんの願いが叶うといいね。……あ、そろそろ教室に行かないと。新入生はたしか朝一で試験があるんじゃなかったっけ」
先輩の言葉にドキッとした。
入学式翌日なのに、春休みの課題の中から試験があるのだ。
中学校を卒業後、春休み中に高校の入学説明会があり、その時に課題が出されたのだ。今日はそのワークブックの提出と、同時にきちんと課題をしていれば解ける内容の試験があるのだ。先輩がそのことを知っているということは、これは毎年恒例行事なのだろう。
「試験、頑張って。じゃあ、またね」
先輩はそう言うと、階段で別れた。
一年生は一階に教室があり、学年が上がるにつれ、上階へ教室が移るのだ。
私の背後から、私と同じ色の名札を着けた生徒たちが駆け足で教室へと向かっていく。やばい、私も最後のあがきでワークに目を通しておかなきゃ。私も駆け足気味で、教室へと向かった。
ホームルームが終わってすぐに、試験が行われた。教科ごとに一時間ずつ試験があり、正解不正解は別として、とりあえず出された問題はすべて答えを埋めた。
午前中だけで四教科の試験が行われ、私たちはぐったりしていた。
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