最強の最底辺魔導士〜どうやらGは伝説の方だったらしい〜

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番外⑨〜傾国〜

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※視点が変わりますのでご注意ください


「ユリウスよ。戦況はどうなっている? ヴィゴーは大丈夫なのか?」
「『神の息吹グレイス・ヴェール』は西海岸、『神焔の駒インフェルノ』は東海岸から背後を取る形を取り、『円卓の騎士ラウンド・テーブル』の各魔導兵は遊撃隊として各レギオンのサポートと戦場の撹乱。それらの中心に添えた主戦力、『聖火セイクリッドファイア』による『断絶線デッド・ライン』の正面突破。国境周辺の制圧にはそれほど時間は要さないでしょう」

ヴァルカンの額に汗が滲んでいる。

ふむ。

まだ信じ切れてはいないか。

一国の王とは思えぬ小心ぶりには呆れるな。

「ヴィゴーは一騎当千のS級魔導士。それを保護するように配置した各レギオンリーダーの存在。彼らもまたとても優秀な魔導士たちです。万が一にも敗北はない。心配には及びますまい」
「そうか。そうだな」

実際、現代のレギオンリーダーはなかなか優秀だ。

四人で国境を落とすことなど造作もないこと。

オンディーヌを制圧するのも時間の問題。

その程度の力があるのはこの私が保証する。

とはいえ、たった一つだけ不安因子がある。

エレメント紛いヴィンセントの存在だ。

どういうわけか彼にだけは私の力が及ばなかった。

そして何故か彼からはマナが感じられなかった。

回避するには体内に流れるマナを変質させなければならないのだが、私の知る限りこの時代でそれが出来る魔導士など存在しない。

円卓の騎士ラウンド・テーブル』の女が最も近い所に位置しているが、彼女でも聖化しょうかがせいぜいだ。

生まれ持った特異体質なのだろうが・・・

まあいい。

計画に支障が出るわけでもない。

下準備は十全に整えた。

今は落ちこぼれに思いを巡らせている場合ではない。

「他ならぬお主の言うことだ。信じよう。しかし、この国の国王は私。前線とまではいかずとも戦場へ赴くべきではなかったのか?」
「ヴァルカン様の実力であればそれも十分可能でしょうが、ヴェルブレイズ家の一族にしかできない重要な使命がございますゆえ、どうかご理解頂きたい」

戦場へ赴いたところで君では後方支援が関の山だがね。

「それはさぞ名誉ある使命なのでしょうね。こうして私やヴィクトリアまで呼ばれたのですから」
「さすがご聡明なヴァネッサ様。仰る通りです」

どこまでもおめでたい連中だ。

ヴェルブレイズの血が何を意味するかまるで分かっていないようだな。

「ほら。ヴィクトリア。そんな怯えないであなたもご挨拶しないとユリウスに失礼でしょう?」
「・・・・・・」

この娘。

本能的に私という存在を避けている。

単に私から漏れ出るマナに敏感なだけなのか。

それともあいつと同じなのか。

「さてユリウスよ。我々は何をすれば良いのだ?」
「シルフィードやオンディーヌの『大聖典』が消失したことは既にご存知の事と思います」
「星護教団にそのような命を下した覚えはないのだが・・・ とにかくこれは世界にとって由々しき問題。早急に対策を考えなければいけない緊急事態だ。我が国の『大聖典』もいつ奪われるか分からぬ」

クク。あなた方がそれを心配する必要はない。

「これから行うのはサラマンドの『大聖域セラフィックフォース』と『大聖典』の強化。今よりも防御を強めることにより、星護教団の侵入を防ぐのはもちろん、魔王ゼフィールの封印をより強固にすることが目的です。そしてそのためにはヴェルブレイズ家の血を受け継ぐマナが不可欠なのです」
「つまり『大聖典』に我々のマナを流し込めば良いということだな?」
「仰る通り」

サラマンドの飾りでしかない男が少しは頭が回るようだ。

直接ゼフィールの封印を施している『大聖典』を強化すれば、自然とその効果は『大聖域セラフィックフォース』全体に及ぶ。これだけの領域を強化するには私のマナだけでは足りない。ゆえにヴァネッサとヴィクトリアも呼んだわけなのだな?」
「ご明察です」

ふむ。

なかなかいい推察ではあるが、あなた方は一つ重大な見落としをしている。

「であれば早急に『大聖典』へ向かう。世界の統治というサラマンドにとって最重要の役目があるのだ。世界を手中に収めることに集中するためにも、後方の憂いは絶っておかねばなるまい」
「・・・そうですね」

ヴァルカンとヴァネッサは愚かにも無防備にこの私に背を向けた。

一閃。

まるで呼吸をするように。

流れるように二人の首を刎ねた。

あまりにも速く鮮やかな剣筋に、首から下は直立不動で立ち尽くす。

二つの頭部が重く鈍い音を立て少女の前に転がり落ちた。

「確かに必要なのはヴェルブレイズ家のマナだ。のね」

真っ青な顔でつぶらな瞳を見開き絶望したまま固まる少女の目の前で、二つの頭部を掴み上げる。

これで材料は揃った。あとは・・・

頭部を持ったまま少女を見下ろす。

「安心したまえ。君もすぐに同じ場所へ行ける」
「あ・・・あぁ・・・」

怯える少女に向け剣を振り下ろす、まさにその時だった。

「あああああぁーーーーー!!!!!」

少女の身体から眩い閃光が発した。

「くっ?!」

爆発するようなマナの波動。

この娘、まさか・・・

対処を試みた時にはすでに遅かった。

彼女の放った拡散魔法により城の壁を悉く破壊し、身体は城の外へと一気に飛ばされたーーー。


気付けば深い森の中にいた。

どうやら『大聖域セラフィックフォース』の近くのようだ。

凄まじいマナの拡散。

あそこまで外放系としての練度が高い魔導士も珍しい。

「まさかあのタイミングで『聖化しょうか』するとはな」

サラマンド。

つくづく面白い一族だ。

「たかがS級魔導士を一匹取り逃したところで計画には寸分のズレも生じない。幸い『大聖域セラフィックフォース』はすぐそこだ」

北に向け足を踏み出した時、目の前に褐色の男が現れた。

「『大聖典』へ向かうのですね?」
「エレメントたちもすでに送っている。これでサラマンドの『大聖典』は我らの手中に収まる」
「いよいよですね」
「首尾はどうだナバル?」
「問題ありません。ノームズの『大聖典』も間もなくこちらに届くでしょう」

ナバルの手に顕現した二つの大聖典に目をやる。

まもなく望みが叶うと思うと笑みを浮かべずにはいられない。

「ようやく全てのピースが揃う」

身体の中に溶け込ませていた別のマナを放出する。

我が身から切り離したマナは、次第に人の形へとその姿を変えていく。

「ネフィリムがお前の文句を言っていたぞ。レイヴン」
「・・・・・・済まない」

突然現れた細身の男は細々と答えた。

「君の触れた者を一時的に支配下に置く隠蔽魔法は大いに役立ってくれた。おかげで彼らを含むサラマンドの人間の操作は容易だったよ」
「・・・・・・勿体なきお言葉」
「少しばかり例外もあったがね」

遠くに見える城を見つめる。

「長かったですね。あなたにとっては」
「そうでもないさ。せいぜい二千年程度だよ。今も耐え続ける本体に比べれば取るに足らないことだ」

そうは言うものの、ただ待つだけの時間が終わることへの喜びは間違いなく感じている。

その程度には退屈で長かったと言えるかもしれない。

「さて。そろそろ向かうとしよう」

自ら積み上げた物を壊す瞬間とは、果たしてどれだけの快感なのだろう。

想像しただけで胸が高鳴る。

「それでは二千年の歴史に幕を下ろすとしよう。サラマンド」

深森の奥。見据える先には煌々と光を放つ『大聖典』を映していた。
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