最強の最底辺魔導士〜どうやらGは伝説の方だったらしい〜

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第42話 始まりはお伽話

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「えぇぇーーーー??!」

ビアンカとマルコは大笑いするダニエラに詰め寄った。

「そ、そんな!! 私たちは彼のゲップを取り払うために瀕死になりかけたと言うのですか?!」
「どれだけの魔導兵が倒れたと思っている!!」

信じられない。

そんなバカみたいな話があるのか?

でもダニエラ様は至って冷静だ。

「でもヴィンセントが何とかしたのじゃろ?」
「ま、まあ。彼が機転を効かせてくれたおかげでピンチを乗り越えることができましたけど・・・」
「なら結果おーらいではないか。ははは」

冗談じゃない。

下手したら皆んな揃って海の藻屑と消えるところだったんだ。

『下等生物どもは我の吐いた息程度に四苦八苦していたのか。滑稽よな』

いや、フランの腕の中でゴロゴロしながら言われても。

『しかし此奴のマナは最高に心地良い。とんだ策士よ』
「ほぇ?」

当人がこれだ。

フランが狙ってやっているなど天地がひっくり返ってもあり得ない。

・・・と言い切れないのが彼女の怖いところだ。

「どうしてゲップが障壁となって『原初の海』で障壁化していたのですか? やはりノームズを外界から隔離、守るためですか?」
「あー。それはじゃな・・・」
「何を躊躇っているのですか? 言ってしまえば良いではありませんか」

またシルヴァーナが微笑んでいる。

何か嫌な予感が。

「何かやらかしたのか?」
「ゼフィールを封印する際、ベヒーモスは穢化えかした世界中のマナを食い尽くし消化したのですが、その穢れたマナと彼のマナが混ざり合うことで特殊なマナの層を作り出し、彼はそれを大地が割れるような大きなゲップとして吐き出した」
「なるほど」
「そして、そのゲップの中に取り残され出られなくなってしまったのが私たちノームズの先祖です」
「・・・え?」

シルヴァーナは真剣な表情だ。

「冗談だよな?」
「大真面目です。ベヒーモスの吐いたゲップから出られなくなったのがノームズの始まりです」
「・・・・・・」

面白いお伽話だ。

五大賢者とは思えない間抜けなオチがいい。

今度ヴィクトリアに聞かせてあげよう。

「仕方ないじゃろ! 何百年も解除を試みたがどうしても無理だった! ゼフィールのマナがそんな作用するとは思いもしなかったんじゃ!」

顔を真っ赤にして涙を流すダニエラ。

本気で悔しのだろう。

地団駄踏んだ足で地面を叩き割っている。

「ほ、本当の話だったのか」
「あはは! な~んだ! じゃあノームズは自分たちの身を隠すためじゃなくて単に出られなくなっていたんだ」
「こら。大笑いするんじゃない。ダニエラ様が可哀想だろ」
「ごめん~。だってすっごく面白いんだもん」

そこは激しく同意。

「それだけ此奴の能力が大きいのじゃ。もちろん食したゼフィールのマナがそれだけ異質で膨大であったというのもあるが」

まだ泣きべそをかいている。

「はぁ。全然分かっていませんわねこのとんがりメイジさんは」
「とんがりメイジいうな」
「ノームズ誕生と孤立のきっかけがベヒーモスの噯気おくびだったことには驚きですが、注目すべきはそこではありません。彼の吐いたその噯気おくび程度が二千年もの間消えずに残っていたこと。それほど強大なマナを有している神霊ベヒーモス。そしてゼフィールの強大さ、真に恐ろしいのはこの三つです」
「た、確かにそうね」

フランは腕に抱くベヒーモスをまじまじと見つめている。

「先程、ダニエラ様は彼にこれ以上は本体が目覚めてしまうと仰っていました。つまり、とんがりメイジさんの腕の中で寝息を立てている彼は本当の姿ではないということですわね?」
「ローズといったか。いやはやお主もなかなか切れ者よの。お主の言う通り今の其奴は仮の姿じゃ。本来、ベヒーモスの身体は『原初の海』を飲み込める大きさなんじゃよ」

いよいよスケールが狂っている。

いくら神霊とはいえ規格外過ぎるだろ。

「待ってください。つまり、『大海龍リヴァイアサン』ですらそのチビ龍を倒しきれなかったということですか?」
「案ずるな。もとよりお主の呼び出した彼奴も本来の姿ではない。ベヒーモス、リヴァイアサンは神霊の中でも監暦に生きた神霊。監暦時代の生命はみな彼らのように巨大だったと聞く」
「かんれき?」

フランのとんがり帽子がはてなマークになるのも恒例だな。

「簡単に言うと、この世界の歴史はゼフィール討伐前・討伐後の二つの時代に分けられる。討伐前の年代を監暦、俺たちが生きる現在までの二千年間を散暦と呼ぶ。監暦時代、アークランドに生きていたとされる先住民、『揺籠ゆりかごの民』たちが日常的に使用していた超常現象。それが現在の魔法の祖だと考えられているんだ」
「さすがヴィンセント! 物知り♪」

なるほど。エイビーズや神霊は数あれど監暦時代の神霊となればそれは格が違うのも納得だ。

嬉しそうなフランと対象的に、ダニエラ様はやけに難しい顔をしている。

「お主どこでそれを?」
「サラマンドの書庫ですけど」
「そうか。うーむ」
「あの、何か問題が?」
「いやそうではない。ただ、妾のように二つの時代の狭間に生きた者ならばいざ知らず、この現代において『揺籠ゆりかごの民』を知る者はアークランドにおいてほんの一握りじゃ。彼らの残した痕跡はあまりにも少なく遥か昔に忘れ去られた古の一族なのじゃ」

何せ二千年よりも更に昔の話だからな。

古文書に書いてあっただけの知識のはずなんだけど、どうもダニエラ様は納得していないようだ。

「えっと・・・」
「ふむ。どうやらこれ以上話し込んでいる時間はないようじゃ」

フランの腕の中で寝息を立てていたベヒーモスは突然覚醒しダニエラの元へ戻っていく。

『おいダニエラ』
「分かっておる。これを見よ」

ダニエラ様のかざした魔導書グリモワールを巡る紙切れの束が空間に一枚一枚張り付いていき、やがて何か映像のようなものがぼんやりと浮かぶ。

映し出されたその映像に声を失う。

「・・・どうして」

それは国境で激しく互いを攻撃し合うサラマンドとオンディーヌの様子だった。
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