最強の最底辺魔導士〜どうやらGは伝説の方だったらしい〜

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第39話 最底辺魔導士のご指名

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ベヒーモスはゆらりとダニエラの前に舞い降りた。

『さて。それではお前たちを喰らうとしよう』

このチビ龍はまた突拍子もないことを。

どういう流れでそうなる。

「あの。言っている意味が分からないんですけど・・・」

ダニエラは俺たちの反応が分かっていたかのように微笑んだ。

「『穢化えか』の少年を救うには我がエイビーズであるベヒーモスと戦わなくてはならぬということじゃな」
「戦わなくちゃダメなの?! 何で?!」

フランの声に反応したベヒーモスはゆらゆらとフランに引き寄せられる。

「ベヒーモス」
『はっ・・・?!』

ダニエラの一言に我に帰るベヒーモス。

神霊らしからぬアホ面だな。

「此奴は長いこと冬眠状態じゃった。まだ能力を行使できるほどのエネルギーが溜まっておらんのじゃよ。エネルギーを満たすには良質なマナが不可欠。本当であれば自然界に充満するマナで事足りるのじゃが、此度の覚醒は本来の覚醒周期とだいぶズレておる」

無理矢理呼び起こした影響で中途半端な覚醒になってしまったわけか。

でも、それとチビ龍の能力と何の関係があるんだ?

「ベヒーモスは魔法発動で生じたマナを吸収していく性質を持つ。ゆえに刃を交えなければエネルギーが蓄積されないというわけじゃ」
「もし俺たちが負けたら?」
「残念ながらここで人生の幕を閉じることになるのう」

早い話、このチビ龍の腹を満たしてやればいいというわけか。

「此奴らは神霊とはいえエイビーズ。その本質はマナを源にするという点じゃ。アークランドのマナが存在するから異世界の住人である此奴らをこの世界に繋ぎ止める事が可能となる。神霊の中でも此奴のマナ消費は桁違い。生半可な魔法では此奴の腹は満たせぬぞ?」

ダニエラは開いた虹色に輝く魔導書グリモワールを目の前にかざす。

「此奴の暴食も止められんようではどの道遅かれ早かれ死ぬことになる」

このチビ龍、エイビーズとしての力は間違いなく女神アテナと同等、下手したらアテナよりも上の可能性すらある。

チビ龍の許容量がどれくらいの大きさなのか見当もつかない。

それほどの相手を満たせるマナなど一体どこから調達すればいいんだ。

仮にここにいる全員で応戦したとして、果たして持ちこたえられるかどうか・・・

と、以前の俺なら思ったんだろうな。

今の俺は国を追われたあの時とは違う。

幸運にも俺には魔法の才能があるらしいことは十分確認できた。

何せあのろくでなし大賢者様のお墨付きだしな。

ベヒーモスには悪いが美味しいマナを楽しむ余韻もなく満腹になってもらおう。

「ほう。この状況でその表情ができるか。単なる酔狂の顔ではない。何か秘策があるようじゃな?」
「あなたの可愛いペットには申し訳ないですがすぐにカタがつきますよ」
「だそうだ。これは面白くなりそうじゃな?」
『我はペットでもチビ龍でもない!! 塵以下の下等生物めが!!』

チビ龍といいアテナといい神霊って以外と感情的で案外可愛いもんだ。

「ね、ねぇ。本当に大丈夫なの?」
「フランたちは後ろにいてくれ。何なら寝ててもいいぞ」

肩を回し軽くウォーミングアップする。

「まさか、お主一人でベヒーモスとやるつもりか?」
「そりゃそうですよ。皆の魔法まで浴びせたら、チビ龍が破裂してしまいますから」
「・・・ほう」

ダニエラの纏う空気が刺すような殺気に一変する。

「ならば妾にその力を見せてみよ」

ベヒーモスの姿が瞬く間に巨大化し、大きな顎を大きく広げ襲いかかってくる。

そっと目を閉じ全意識を集中させ、見たことのない異世界のイメージを鮮明にしていく。

そこで一つのマナの欠片を探す。

まるで砂漠の真ん中でダイアモンドを見つけるような感覚。

途方もない作業だ。

でも今の俺なら出来るはず。

・・・・・・居た。

見つけた小さな輝きを大事に手の中に包み込む。

(ほんの少しでいい。力を貸してくれ)

呼びかけに応えるようにそれは強い輝きを放った。

目を開くと同時に手を天にかざす。

『我が前に姿を現せ! 大海龍リヴァイアサン!!』

掲げた手の上に真っ青な次元の裂け目が出現し、勢いよく放たれた激流が大気を流れる。

やがて周囲を流れ回る激流は光を発し、その本当の姿が現れた。

大蛇のように長い胴体を覆う煌めく鱗。

荒ぶる大海を具現化したような深い青色を纏いし水龍。

『随分と懐かしいマナに引き寄せられたと思ったら別人だったか』
「それは申し訳ない。ちょっと事情があって」
『よい。それにしても下等世界に降界したのは久方ぶりだ』
「あいつを倒してくれ」
『ほう。これはまた懐かしいヤツではないか』

リヴァイアサンは大きな咆哮を上げる。

『リ、リヴァイアサン・・・』

ベヒーモスは明らかに動揺している。

そうでないと困る。

わざわざリヴァイアサンを召喚した意味がない。

『その腑抜けた姿はどうしたベヒーモス。家畜へと成り下がったか』
『うるさいぞ。それを言うなら貴様もだろう』
『フ・・・中身はさほど変わっておらぬようだ』

地響きのような咆哮が響き渡る。

笑っている?

『我は起きがけで気分が悪いのだ。うっかり消滅させてしまっても文句を言うなよ』
『吠えるではないか。過去の闘争を覚えておらぬか。忘れることでしか自我を保てぬとは脆弱なものよな』
『余程死にたいらしいなリヴァイアサン』

ベヒーモスとリヴァイアサンは凄まじい殺気をぶつけ睨み合う。

「何と・・・ サモナーでもないお主が神霊を呼び出すとは。それもベヒーモスにとって相性の悪い神霊を的確に」
「あなたやシルヴァーナには遠く及びませんけどね」

ダニエラ様は天に向かって笑い声を上げる。

「よく言うわ! 神霊の指名などソウルバインダーである妾でも難しい。それを詠唱を省略して顕現させる事ができるヤツなど、妾は一人しか知らぬ。さすがはあの愚か者が気に入る器じゃ」
「あの人に気に入られるのは嫌なんですけど」
「わはは! 正直なヤツじゃ! 面白い! 久しぶりに燃えてきたわ!」

満面の笑みのダニエラ様とバツが悪そうなベヒーモス。

何とかリヴァイアサンを召喚できたが油断はできない。

しっかり神霊をコントロールし切れるかどうか。

こればかりは出たとこ勝負。予測が難しい。

『ただでさえ起きたてだと言うのにリヴァイアサンとはな。食事というものは腹八分目が適量なのだ』
「わはは! 食ってすぐ寝るより健康的で良いではないか!」
『我ら神霊を下等生物と同じ尺度で語るな!』
「何にせよ。こちらも本気でいかねばならなくなった」
『・・・面倒なことになったものだ』

手のひらを開閉し感覚を確かめる。

よし。思ったよりマナを消耗していない。

「マナの感覚はどうですか?」
『自分でも驚くほどうまく馴染んでいる。全く問題ない。あやつよりも居心地が良い』
「それは光栄だな。存分にその力を発揮してもらいますよ」
『承知。加減ができぬかも知れぬが』

さてやるか。

ダニエラ様の合図とともに凄まじい殺気を放ち襲いかかるベヒーモスに意識を集中させた。
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