最強の最底辺魔導士〜どうやらGは伝説の方だったらしい〜

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第38話 いつの時代も悩みは同じ

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「ついたぞ。ここがノームズの『大聖域セラフィックフォース』じゃ」

雰囲気が全然違う。

これまで見てきたものは踏み入れる前から荘厳なオーラを感じられたけど、ここはそれとは程遠い。

どこを見渡しても枯れ果てた大地は地下、もしくは洞窟といったイメージの方が強い。

それなりに辺りを見渡すことができる点は唯一の救いと言える。

それでも、その名と正反対の陰鬱とした雰囲気が俺たちを戸惑わせるには十分だった。

「ここが『大聖域セラフィックフォース』? 地獄にしか見えないんだけど」
「こら。そんな正直に言うんじゃない」
「だって、どう見たって神聖さを感じられないんだもの。『大聖域セラフィックフォース』ってもっとこう、偉大なものでしょ」

フランは両手を目一杯広げて強調している。

「肝心の『大聖典』がありませんよぉ? 何だかお化けが出そうですしぃ・・・」

気付けば涙目で震えるハンナがしがみついていた。

「そんなに怖がらなくても大丈夫だって」

ハンナの頭をそっと撫でる。

「ヴィンセント様」
「『大聖典』の場所はここから近いのでしょうか?」
「寝ぼけたことを言うのぅ! 言ったじゃろ。もう到着しておるよ」
「え・・・?」

『悠久の時に眠りし真なる花実よ 我が声に従い 今ここに咲き誇れ』

ダニエラが杖で床を叩くと、杖は呼応するように光に包まれその形を変えていく。

ーーーその形はどう見ても何の変哲もない魔導書グリモワール

魔導書グリモワールの周りを螺旋を描くように舞う無数の頁が咲き乱れる。

何と言っても引き込まれるのは虹色に輝くその神々しさだ。

「きれい」
「信じられません。最高位アークウィザードをこの目で拝める日が来ようとは・・・」

フランとローズは虜になってしまったかのようにうっとりとその輝きを見つめていた。

「ほれ。起きる時間じゃぞベヒーモス」

ダニエラの呼びかけに応えるように地面が激しく揺れ始めた。

「な、何だ?!」

辺りを包んだ異様なマナに警戒を一気に強める。

ダニエラが流れるように宙を浮く魔導書グリモワールを払うと、本が物凄い速さで捲れ、壁に張り付くように周辺の空間そのものに張り付いていった。

やがてそれらが半円状に俺たちを覆うと、目の前に信じられない光景が飛び込んできた。

爽快に晴れ渡る空の下で一面に咲き誇る輝く花の海が広がっている。

さっきまでの陰鬱とした雰囲気と違い解放感がある。

『ダニエラ。もう少し丁寧に起こせないのか』

どこからともなく声が響く。

「わはは! すまんすまん!」
『笑い事ではない。お前のせいでせっかくの目覚めがいつも台無しだ』
「こればかりは仕方ないのじゃ。たまにしか起こさんから加減が分からんのじゃよ」
『笑わせる。そんな事が分からぬ器ではなかろう』

さっきから独り言を言っているようにしか見えない。

ダニエラは一体誰と会話しているんだ?

『ここだ。生意気な小童のマナを持つ人間よ』

目を凝らし声のする方を見つめると、ダニエラの魔導書グリモワールの上に小さなドラゴンのような姿をしたエイビーズらしきものが浮いていた。

「神霊・・・」
『お前たちの言葉で言えばそうなる』

見ただけで解る。

この神霊は群を抜いている。

俺は無意識に姿勢を正した。

『そうだ。それでよい。本来、お前たち人間は我らを崇拝する定めにあるのだ。身の程を弁えよ。だいたいお前たち人間は・・・』
「あははっ! 何このちっさい獣? ドラゴン? よく分かんないけど可愛い~♪」
「近づくな! 消されるぞ!!」

何を血迷った事を!

相手は天地を具現化したような、世界そのもののような、そんな途方もなく格上の存在なんだ!

相手が悪すぎる!

『ゴロゴロ』

突然、雷鳴のような轟音が響き渡った。

警戒を極限まで高め周囲を見渡す。

(何が起こるか分からない。せめてフランだけは・・・)

抱き寄せる腕に力が入る。

『ゴロゴロ・・・』

よく見るといつの間にか神霊はフランの腕に抱かれ、猫のように甘え気持ち良さそうに喉を鳴らしていた。

『ゴロゴロ・・・ はっ?!』
「あぁ!? いい触り心地だったのにぃ!」

我に返った神霊はそそくさとダニエラの元へ戻っていく。

『くっ・・・ 危ないところだった。また悪しき人間に手籠にされるところだったわ』

手籠ってそんな乙女みたいな。

あと、喉鳴らしにしては音がでかすぎだ。

「わはは! お主も一途よのぅ! ラファエルはとうに居らんというのに」
『五月蝿い。アイツはお前たちの中で唯一我を敬い続けた。そんな健気な奴に少しばかり応えてやったまでだ』
「完全に飼い慣らされておった身でよく言うわ」
『ほざくな! だいたいお前がアイツの気持ちに応えてやらんからアイツは元気を無くしていたのだぞ!』

いきなり喧嘩し始めた。

「ば、馬鹿者! 今はその話は関係なかろう?!」
『馬鹿はお前だ! 我はアイツを陰ながら応援していたのだ! それをあんな生意気な小童になんぞに現を抜かしおって・・・!』
「仕方なかろう! どうしようもなく好きだったんじゃ!」

もはやどこから突っ込んだらいいのかわからないが一つだけ言える事がある。

五大賢者も色々と複雑な関係だったんだな。

俺たち現代人にとって五大賢者は崇拝の対象。

正直そんな赤裸々な話はちょっと聞きたくなかった。

ああ、 どんどん彼らに対するイメージが崩れていく・・・

大きく落胆する俺の横で、フランやローズは言うまでもなくハンナやシルヴァーナ、ビアンカに至るまで女性陣は目を輝かせ食い入るように聞く耳を立てていた。

「はぁ・・・」

深呼吸して心を落ち着かせ状況整理に努める。

俺にできるのはそれだけだった。
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