32 / 59
第27話 要らぬお節介
しおりを挟む広がる大海原を裂くように、巨大な戦艦アトランティスが突き進む。
嵐の前の静けさというべきか、重大ミッションを背負っているとは思えないくらい海は穏やかだ。
かえってそれが俺たちの緊張感を煽る。
「皆さん準備はよろしいでしょうか」
デッキに集まる『荒天瀑布』の面々を前にビアンカの高らかな声が響く。
「作戦は今朝ミーティングで確認した通りです。まず私たち『荒天瀑布』のメンバーで『虚構の狭間』の交錯するマナの障壁を解除していきます。『大賢者の系譜』の皆さんは解除されたらいつでも飛び込めるように備えていてください」
「ああ。任せてくれ」
障壁はどれくらいの厚さなのか検討できていない。
何度も失敗しているミッションだ。
そう簡単に突破できるほど薄くはないはず。
やっとの思いで解除し終えたところで全員が力尽きていては、肝心なノームズに上陸できる者がいなくなってしまう。
出来る限り人員を温存する。
妥当な判断だ。
「ハンナさんには私たちのサポートをお願いします。あなたの支援魔法は必要不可欠ですから」
「お安い御用なのですぅ~!」
下手に手を出せば『荒天瀑布』の息を乱してしまう可能性もあるしな。
「ねぇねぇ。本当にビアンカたちだけに任せて大丈夫なの? 私たちも何か手伝った方がいいと思うんだけど」
「お馬鹿さんねぇ~。わたくしたちにはわたくしたちのやるべきことがある。いざという時に動けなければわたくしたちの居る意味がありません。肩書きだけ立派なエセハイ・ウィザードさんは黙っていなさいな」
「誰がエセハイウィザードだ! 私は歴としたAランクだよ!」
「どうでしょうねぇ? 何せあなたはとんがりメイジさんですから」
「とんがり言うな!」
フランは荒ぶる獣のように喉を鳴らしている。
エセかどうかはともかく誇張しすぎなところはあるな。
「フランさんのそのお気持ちは大変ありがたく思います。とても励みになります」
「えへへ! どういたしまして!」
ビアンカはやり手だ。
もうフランの手懐け方をマスターしている。
フランは勝ち誇ったように俺たちの方を振り返った。
「何ですのその腹立たしい顔は」
「励みになるんですって♪」
「社交辞令に決まっているでしょう? そんなことも分からない単細胞さんなのですね」
「なっ?! 単細胞言うな!」
「うふふ。ニックネームがたくさんあって羨ましいですわね。愛されている証拠ですわ」
「確かに! たまには良いこと言うじゃない!」
「・・・・・・」
フランよ。
馬鹿にされていることに気付こうか。
「フランさんの言葉は不思議と元気になれますね。心の底に小さな炎が灯るような、包み込んでくれるような。そんな温かさがあります。きっと、彼女の使う魔法はその純粋な心のように美しいのでしょうね」
「そうなんだよな。本当に不思議だけど」
初めてフランの魔導書を見た時に感じた。
直情的で喜怒哀楽が激しくて、思いつきで行動する事も多い彼女だけど、魔導書は純粋な彼女の心を表しているように思える。
きっと魔導書ってのは自然とその人の成り立ちや歴史ってヤツを具現化するんだろうな。
「具体的にはどうするんだ? 俺たちが直接援護することはないかもしれないけど、一応聞いておいた方がいいかと思って」
「そうですね。具体的には、十人のグループを組んで列を作り一列ごとに解除を進めます。先頭列の十人全員で解除を試み可能な限り解除をしていきますが、ある程度のところで後方に待機する十人と交代、これをローテーションして繰り返します」
「余力を残した状態で交代するのがポイントです。これはゴールの見えない持久戦。他の列が解除している間に少しでも体力と魔力を回復してもらいます」
これだけ入念にケアしていてもゴールが見えない。
それだけ障壁が厚いということ。
「ビアンカとマルコはそれぞれ列のサポートをするって解釈でいいのかな?」
「私とマルコはローテーションの枠には入らず二人で回します」
「ふ、二人で?!」
ざっと見ても『荒天瀑布』のメンバーは百を越える。
ビアンカとマルコの二人のマナで数百人分に相当するってことなのか。
信じられない。
「ふふ。こう見えて体力には自信があるんですよ」
「まじすか。ちょっと意外でした」
ビアンカの柔らかい笑みに心が和んでいく。
癒し効果抜群だな。
そんな俺の幸せなひとときをぶち壊すようにマルコが鼻を鳴らした。
「フン。お前らごときが俺たちを案ずるなんざ百年早い。余計なお世話なんだよ」
「何よ! 心配して言ってるのに!」
「人の心配より自分の心配をしろと言っているんだ。そもそも与えられた役割が違うんだよ。余計な事に気を取られて失敗したらどう責任を取るつもりだ。お前たちにとっては陛下に認められたいだけの軽い任務かもしれないが、俺たちにとっては仲間の命と世界の解明がかかった重大な任務なんだ。遊び半分でいられては邪魔なだけだ。やる気がないなら失せろ」
「・・・何ですって?」
掴みかかるフランの肩に手を置く。
「これは失敗の許されないミッションだ。俺たちは俺たちにできる事に集中しよう」
「ヴィンセントはあんな言い方されて悔しくないの? ヘンリーはハンナの弟なんだよ? 大切な仲間の弟なんだよ? 遊び半分なわけないよ」
「もちろん俺だって嫌な気持ちがないとは言わない。でも、それと任務の遂行は関係ないだろ? 頑張りましたけどダメでした、では済まされないんだ」
「それはそうかもしれないけど・・・」
ハンナは悔しさに顔を歪めるフランに抱きついた。
「ありがとうフラン。大丈夫。私にはフランの気持ちはしっかりと伝わってるよ。だから、今は目の前のことに集中しましょう?」
「ハンナ・・・」
フランの肩にそっと手を置いた。
「大丈夫だ。ヘンリーも障壁も」
「うん。そうだよね」
突然、艦内に割れんばかりの警報が鳴り響いた。
「ビアンカ様!! この先に障壁が確認されました!! まもなく接触する模様です!!」
見張り役の魔導士の大声が魔力増幅器を通して艦内に響き渡った。
「どうやらお出ましのようですね」
前方に目を凝らすと、薄らと虹色に光る空気の歪みのようなものが目に入った。
ビアンカは軽く頬を叩く。
「さあ、未知なる持久戦が始まりますよ! 気を引き締めて参りましょう!」
ノームズの前に立ちはだかる強力な厚壁に向かい、戦艦アトランティスは真っ直ぐ突き進んでいった。
11
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる