最強の最底辺魔導士〜どうやらGは伝説の方だったらしい〜

SSS

文字の大きさ
上 下
25 / 59

第21話 信用に足るか否か

しおりを挟む

甲冑に身を包んだ兵士に囲まれながら前を歩く男の背中を見つめる。

サラマンドに負けず劣らずの広い回廊だ。

白を基調とした壁や柱の装飾が、敷かれた群青色の絨毯や壁に映えよく合っている。

まるで海底にいるようだ。

背負ったヘンリーも今は落ち着き寝息を立てている。

横を歩くフランがそっと耳打ちしてくる。

「捕まえておいて急に出ろだなんて、王様ってのはつくづく勝手よね」
「権力を持つとそうなりがちなんだろうな」
「ヴィンセントみたいに優しい人が王様になればいいのに」
「止せって。俺は優しくなんかない。自分のことで精一杯だ」
「よく言うよ。私やハンナのこと、本気で何とかしたいって思ってたクセに」

フランに脇腹を小突かれる。

「シオンの姿は見えなかったな」
「それは仕方ないよ。星護教団の奴らは世界中のエレメントを引き入れまくってるんだから再開する確率の方が低いと思うし。今は、その子を助けてあげられただけでも十分だよ」

フランは眠るヘンリーに微笑みかけた。

「いつか必ず助けよう」
「そうだね。ありがと」

しばらく真っ直ぐ進むと、天井まで伸びる大きな扉が目に入った。

「この先に陛下がおられる。いいか。くれぐれも粗相のないようにな」

頷くと同時に男は両手で扉を開いた。

「連れて参りました」
「ご苦労様ですマルコ。下がっていいですよ」
「はっ」

マルコは一礼し俺たちに顎で合図した。

「失礼致します」

広い王の間の緩やかな段差を上がり、真っ白の玉座に座る陛下の前まで歩いて行く。

天井から、薄い膜を張ったように透き通った水が壁を伝って流れ落ち、王の間の床全体を這うように、静かに流れている。

真っ青なドレスに身を包んだ女王陛下は優雅に立ち上がり俺たちの前に立った。

「オンディーヌ八十一代目女王、アリス・アダムスです。先ずはその身を拘束した無礼をお詫びしましょう」

彼女の深い海のように美しく長い青髪が揺れ、金色に輝く波を模した王冠がキラリと光った。

透き通るような白い肌に、全てを見透かすような蒼い瞳。

まるで海神を擬人化したような、そんな壮大さを感じさせる。

その美しさと荘厳さに思わず目を奪われた。

「あ、いや勝手に侵入したのは俺たちですし」
「ハンナも。一時的なものとはいえ同胞に対し手荒い対応をしてしまいました。お許しください。形式上、捕縛という形を取らざるを得なかったのです」
「いえ。私は・・・」
「我が国の『大聖典』が消失し奪われた事は建国以来の非常事態です。いいえ。アークランドにとっても」
「はい」

張り詰める空気に息苦しさを感じる。

「申し遅れました。ヴィンセント・ヴェルブレイズです。シルフィードより使者として遣わされました」

戦争が起こりそうな時にこの名前を発するのはかなり緊張するが、陛下を前に名乗らないわけにはいかない。

「あなたがヴィンセント。ノーランド王から話は聞いています。サラマンドを追放されたそうですね」
「ご存知でしたか」
「ふふ。使い魔を通して前もって連絡を頂いていたのです。驚くことではありませんよ」

アリスが手のひらを天に向けると、綺麗な水色の小鳥が姿を現した。

「そうだったのですか」

きっと、ノーランド王が気を利かせてくれたんだ。

「『大聖典』が奪われたのは星護教団の仕業であるということも既に判明しています。詳しい動機やその行動指針に関してはもう少し詳しく調べないといけませんが」

ネフィリム。

あいつらの目的は『大聖典』。

『大聖典』の消失は国家にとっても重大な問題だが、いずれは世界に影響を及ぼす。

これは一国だけの問題に留まらない。

だが、世界にとってもう一つ厄介な課題がある。

サラマンドとオンディーヌの関係だ。

単なるニ国間の争いというだけで片付けられない問題で、これはある意味『大聖典』と並ぶくらい大事と言えるかもしれない。

何故なら、仮にサラマンドがオンディーヌを落とした場合、恐らくその手はシルフィードやノームズにも伸びるからだ。

あの父上が一国を支配した程度で満足するような男には到底思えない。

オンディーヌ陥落を皮切りに世界を支配下に置くつもりであろうことは容易に想像できる。

もちろん父上の思い通りにさせないという個人的な思いもあるけど、決してそれだけではない。

これは、そんな一個人の小さな枠に収まらない問題でもあるということだ。

戦争を回避することはそれだけ重大な任務。

さて。

とはいえサラマンドのこと、どうやって切り出したものか。

しばらく悩んでいると、アリス女王はこちらの心を見透かすように優しく微笑んだ。

「話し合いに来られたのでしょう? そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ。私としても争いは望んでおりません」

ノーランド王と同様、アリス女王からも威圧感は全く感じない。

きっと、権力を振りかざして恐怖で支配しているのは父上くらいなんだろうな。

「ありがとうございます。実は、サラマンドがオンディーヌとその争いを起こすべくオンディーヌ北の国境にレギオンによる魔導士の兵を編成し進軍しているようです」
「派遣している兵からサラマンド側の不自然な動きがあったと報告を受けていましたが、そういう事でしたか」
「オンディーヌに被害を出すわけにはいきません。非常事態に備えて兵を国境へ動かす必要があります」
「そうですね。誤報に越したことはありませんが、万が一のことも考えなければなりません」
「ですが、陛下には出来れば話し合いで解決する道を選択して頂きたく思います。現在、直属の家臣にサラマンド側に話し合いの場を設けるよう働きかけてもらっています」

女王陛下はしばらく沈黙した。

「詳しくお話し頂けますか?」
「はい」

ノーランド王との会話。

ウェンディから知らされた情報。

魔物の襲撃。

その全てを伝えた。

「話してくれてありがとうございます。サラマンドの方は、そのウェンディさんが交渉役となってくれているのですね」
「はい。上手くいけば兵は撤退するはずです」

再び沈黙。

「誠意は感じられます。嘘を言っているようにも見えません。ただ、国を背負う立場として、たとえ誠意のある言葉であっても外国から来た者の話を安易に信じるわけにはいきません」
「むしろあなた方とウェンディさんによる偽物の情報でオンディーヌを混乱させ、サラマンド軍の進軍と流入を容易にさせようと画策している、ということも考えられます」

普通はそうなるよな。

いくらノーランド王の推薦でもオンディーヌからすれば信憑性に欠けるのは当然だし、陛下の立場からすれば尚更慎重になるのは当たり前だ。

「俺は父親に絶縁されました。そして実弟に殺されそうにもなった。俺はサラマンドが憎いし、追放した父上や弟のことも恨んでいる。国に対する未練はありません」
「何より力で支配しようとする父上のやり方には賛成できない。だからこそシルフィードの使者としてこうして参上したのです。ここに嘘はないと、大賢者ガブリエルに誓います」

女王の向ける視線に真っ直ぐ応える。

「だ、大丈夫です! ヴィンセントは嘘つくような人じゃありません! だからっ・・・!」
「こら。勝手に口を挟むなっての。ややこしくなるだろ」

フランの行動はいつも突拍子もない。

だけど今回ばかりは空気を読んでくれ。

何よりこれは感情でどうにかなる話じゃないんだ。

「ふふふ。ヴィンセント王子は仲間から信頼されているのですね」
「すみません。こいつ、思った事はすぐ口にするタイプなんで」

口を抑えられもがくフランをなだめながら、必死に女王に頭を下げる。

するとローズが一歩前に出た。

「彼はS級クエストである飛行石の採集を達成し、シルフィードの経済の要である飛行艇の燃料問題を解決に導いてくれた我が国の恩人です。ヴィンセント様は信ずるに値する素晴らしいお方ですわ」
「なるほど。S級クエストを」

女王は決心するように顔を上げ俺を見つめた。

「分かりました。そういう事なら一つ試させていただきましょう」
「試す・・・?」

女王の意味深な視線に、俺たちは互いに顔を見合わせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...