最強の最底辺魔導士〜どうやらGは伝説の方だったらしい〜

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第10話 フランの過去

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俺とローズは太陽の光が差し込む回廊を歩いていた。

「西日が綺麗ですわね」
「そうだな」
「まさかノーランド王とヴィンセント様がお知り合いだったなんて驚きましたわ」
「そうだな」

二人の足音だけが虚しく響く。

気まずい。

さっきのことがずっと気になって全然頭が回らない。

ちくしょう。

フランのやつ、この空気どうしてくれるんだよ。

・・・今までと全然違った。

人の信頼が絶望に変わる瞬間というものを初めて見た気がした。

心が深く抉られたように重い。

ダメだ。思い出す度に胸が痛くなる。

気付けばシルフィード城の外へ出ていた。

飛行艇が飛び交う空と、眼下に広がる城下町。

吹き抜けるそよ風が頬を撫でる。

「では、わたくしはこれからギルドに顔を出しますのでこれで失礼致しますわ」
「ギルドのリーダーも大変だな」
「うふふ。やりがいがあって楽しいですわよ♪」

ローズは逞しいな。

「ヴィンセント様。元気を出してくださいまし。フランチェスカさんならきっと大丈夫ですわ」
「・・・そうかな。何か大きな過ちを犯したような気がするんだ」
「フランチェスカさんが言ったこと、覚えています?」
「何か言ってたっけ・・・」

肩を落とす俺にローズは優しく微笑んだ。

「彼女はと仰いました。本当にヴィンセント様と縁を切りたいのなら、この言葉は出てこないと思います」
「あ・・・」
「過去に何があったか存じませんが、彼女の中でずっと整理がついていないものがあり、恐らくその中心にあなた様がいる。だからどうしようもなくなってあのような行動に出たのだと思いますわ。人と良い関係を築いていくにはどうしても自己開示が必要です。もちろん全てを晒す必要などありませんけれど、信じてもらうには先ず自分が信じる。何かを得るには、先ず自分から与える」
「先ず自分が信じる・・・」
「それは勇気が要ることであり、とても怖いことです。けれど、だからこそ、それができる人は魅力的で、集まる人が多いのだと思います。あなた様のように」

ローズは恥ずかしげもなくウィンクしてみせる。

「俺にそんな魅力なんてないよ」
「そんなことありませんわ。事実、貴方様はフランさんのことをこんなにも気かけている。あなた様は誰よりも人を信じています。信じたいと思っています。それはあなた様が他人に好意を持って関心を寄せている証ですわ。何より、わたくしやフランチェスカさんがこうしてそばに居ることが動かぬ証拠です」
「・・・そうかな」
「そうです。それに、人は自分の性格を正しく認識できていないことが意外と多いものです。一人で見れる視点には限界があります。つまり、これはあなた様だけで簡単に判断できることではありませんし、時に周りの言葉も的を射ている場合もある、ということですわ♪」

ぐうの音も出ない。

ローズには叶わないな。

「そうだな。その通りだ」
「ヴィンセント様はとても優しく魅力的なお方ですわ。人としてはもちろん、一人の殿方としても」

ローズの、迷いのない視線に自然と元気が出てくる。

心が軽くなる。

どうしてフランの態度が変わった?

答えは一つ。

俺が王族、ヴェルブレイズ家の人間だと知ったからだ。

きっと俺が知らないところでヴェルブレイズ家とフランの間に何かあったんだ。彼女の中で混乱する何かが。

違うな。

そうじゃない。

俺はずっと、自分の事しか考えていなかった。

今もそうだ。

王族である事がバレれば面倒になると勝手に決めつけ、話さずにいた。

原因を外に向けていたんだ。

これは単に俺自身の問題。

俺の選択した行動の結果だ。

もっと早く打ち明けていればフランなら聞いてくれたかもしれないのにそれをしなかった俺の過ち。

サラマンドを出る時に未練は断ち切ったはずなのにまるで出来ていなかった。

いつまでも血筋に。サラマンドに拘っていたのは俺の方じゃないか。

フランは優しい。

もしもあの言葉が俺を気遣っての精一杯の言葉だったとしたら。

どうにか絞り出した彼女の優しさだったとしたら・・・

このまま放っておいていいわけない。

過ごした時間は短いかもしれないけど、シルフィードまで共に旅をした大切な仲間だ。

ちゃんと話をしよう。

「ありがとうローズ。人として大切なものを見失っていた」
「うふふ。仕方ありませんわね。今回ばかりはとんがりメイジさんに譲って差し上げますわ♪」

ローズに見送られ、フランを探すために町へ走り出したーーー。


町の真ん中を割るように流れる大きな川に架かる、石造りの橋の上に見覚えのある大きなとんがり帽子を被った女性が佇んでいた。

流れる川を眺めるその横顔はとても切なく、水に反射する夕日が寂しさを際立たせていた。

「まさかあなたがヴェルブレイズ家の人間だったなんてね」
「いつか話すつもりではいたんだ。あの時はまだ国から追放されたばかりで波風を立てたくなくて・・・ とにかく素性を明かしたくなかったんだ。もっと早くフランに打ち明けるべきだった。すまなかった」
「実を言うとね。あなたがヴェルブレイズの人間かどうかはどうでもいいんだ」
「どういうことだ?」

フランは一度大きく息を吸い込み呼吸を整える。

そして覚悟を決めたような表情で俺を見つめた。

「前にシオンの事話したの、覚えてる?」
「ああ」
「シオンは両親が保護地区から連れてきたエレメントでね。フェルノスカイ家は彼を家族同然のように迎え入れた。私自身、本当の弟が出来たように嬉しかったわ。私たちはシオンを一人の人間として接した。色々な場所へ連れて行ったし、一緒に食事もした」
「それって・・・」
「そう。魔導士はエレメントマナの供給以外で介入してはいけない規律がある。彼らを人として扱ってはいけない。それは階級制度の強いサラマンドの変える事の出来ないルール。私たち家族はその規律を破った」

父上がそれを見過ごすとは到底思えない。

緊張感を抱いたままフランの言葉を待つ。

「ある時、王の近衛騎士を名乗るユリウスという男が星護教団のナバルと呼ばれる男を連れて家にやってきた。たくさんの兵士を引き連れて」

フランの瞳に涙が浮かぶ。

「規律を破った事が理由で、その場で両親の公開処刑と教団によるシオンの引き取りを告げられた。あまりに一方的な決定に、両親はもちろん私も兄も抗議したわ。けど、それは無駄な抵抗だった。町の広場に連れて行かれた両親は、サラマンド王と集まる人々の前で見せしめのように斬首され、シオンはそのままナバルに連れ去られた」

そんな・・・ 

父上の命で、フランの両親が殺された・・・?

「その時誓ったの。こんなひどい規律を作ったサラマンドという国と、ヴェルブレイズ家のヴァルカン王、ユリウス。そして星護教団は絶対に許さないって。いつか復讐してやるって」

怒りを通り越して情けなくなってくる。

何が由緒正しい血族だ。

こんなの、単に魔導士としての威厳を保ちたいだけ。

いや、魔導士どころか、ただその血筋と権力を知らしめるため。

父上による、ただそれだけの私欲に塗れた一方的かつ無慈悲な暴力。

エレメントは何も悪くない。

それを人として扱ったフランの両親も。

彼らのとった行動は間違っていたとも思えないし、むしろ世界中の人が見習うべき姿勢だ。

それなのに・・・

こんな理不尽が許されていいわけがない。

でも・・・ 俺はそんな父上の血を引いている。

決して他人事のようには言えないんだ。

「・・・どうしてシオンは連れ去られたんだ?」
「星護教団の幹部は神から天啓とやらを授かるらしくてね。その天啓で示されたエレメントの子を引き取るのも教団の活動の一貫らしいわ。シオンだけじゃなくそういう子たちは世界各地にいて、そういう子を引き取って回っているみたい。星だか世界だか知らないけど、強引に家族を引き離すなんて酷いことするわよね」
「そうだな。エレメントに対する扱いは絶対に改善すべきだと思う。軽視していい命なんてないんだ」
「私もそう思う。けど、規律で決まっている以上、法を破ったのは私たちなんだけどね」

父上のせいでフランの家庭は崩壊し運命が捻じ曲げられた。

権力という名の暴力で。

こんなの、どうやって償えというんだ。

たとえ俺やヴェルブレイズの人間が残らず死んだとしても、この子につけられた心の傷は一生消えることがないんだ。

俺に・・・ 答えなんか出せるわけがない。

「なんて顔してんの。せっかくの顔が台無しだよ?」
「フラン。俺は・・・」

フランの手が頬に触れる。

「話を聞いてくれてありがとう。もう大丈夫だから」
「し、しかし・・・」
「私が憎いのはこんな規律を作った国と国王。そしてユリウスやナバルであって、あなたじゃない」
「でも、俺だって無関係じゃない。同罪なんだ。何か償える事が・・・ 俺は何をしたら・・・」

フランはゆっくりと首を振る。

「あなたがヴェルブレイズ家だって聞いた時はショックが大きかったけど、急だったからちょっと混乱しちゃっただけ。あなた個人に恨みなんてあるわけない。あなたは体を張って私を助けてくれた。それがとても嬉しかった。そんな人をどうして恨む事ができるのよ」
「あ、あれは成り行きというか。結果的にそうなっただけで・・・」
「あなたは私にとって命の恩人で、それはこの先ずっと変わらない。私は、これからも仲間としてあなたと一緒に居たい。私の本心だよ」

目の前の相手が両親を殺した仇の血族。

そんな相手にこんな優しい笑みを見せることなんてできるだろうか。

こんなに穏やかに話せるだろうか。

俺にはできる自信がない。

フランの人柄に救われた気持ちになる。

情けない。

これじゃ俺が慰められているみたいだ。

フランの方がはるかに辛いはずなのに・・・

「それは俺も同じ気持ちさ。フランと仲間であり続けたい」
「あなたと一緒に行きたいって言ったのは私の方。その気持ちに嘘なんてないよ。私はあなたを信じてる」
「フラン・・・」

フランは恥ずかしそうにくるっと回り背を向け何かを呟いた。

突如吹き抜けた風に邪魔されうまく聞き取れない。

「ごめん。よく聞こえなかった」
「な、何でもないっ! それはそうとギルドの立ち上げのこと、忘れてないよね?」
「お、おう」

本当に切り替えの早い奴だな。

でも、今はそれが有り難い。

「よし! 善は急げよ!!」

フランに思い切り腕を掴まれ、引きずられるように駆け出す。

「お、おい! そんなに急がなくてもギルドハウスは逃げないだろ」
「何言ってるの! 早くしないと閉まっちゃうでしょ!」

町を染める夕陽を背に微笑むフランの顔は、まるで不安を消し去る女神のように俺の心を優しく包み込み、癒してくれた。
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