最強の最底辺魔導士〜どうやらGは伝説の方だったらしい〜

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第3話 目覚めた才能

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少し温かさが残っている両手は、未だ微かに黒い炎を纏っている。

間違いない。

魔法が使えたんだ!

「っっしゃ!!」

つい子供のように喜びを露わにしてしまう。

だって、まさか本当に魔法が使えるなんて思わなかったんだ。

この喜びはこの体ではとても表現しきれないくらい大きい。

そうは言うものの、いざ使ってみると案外呆気ないと感じてしまう自分がいるのも確かだ。

なんかこうもっと複雑な手順を踏むものだと思っていたけど違うんだな。

どうせなら彼女みたいに格好良く詠唱してみたかったけど、頭に浮かばなかったものは仕方がないか。

「ふぅ。お互い無事で良かったな。えーと・・・」
「すごーいっ!! 今の魔法、シャドウフレアよね?!」
「うわっ?!」

びっくりした。

この子がものすごい勢いで顔を近づけてきたものだから、つい動揺してしまった。

「ご、ごめんなさい」

少女はパパッと身だしなみを整えて腰に手を当てる。

「私はフランチェスカ・フェルノスカイ。Aランク・ハイウィザード。誇り高きフェルノスカイ家の令嬢よ」

確かに彼女の魔導書は金色に輝いていた。

自分で誇り高いと言うのはどうなのだろうという疑問はさておき、悪いヤツには見えないか。

「俺はヴィンセント。ヴィンセント・ヴェル・・・」

おっと。

一族を追放された身だ。ヴェルブレイズは名乗らない方が無難・・・というより名乗りたくない。

適当に偽名を使うか。

「コホン。ヴィンセント・グラントだ。G級・エレメント以下の最低階級だよ」

自分に対する精一杯の皮肉を込めて自己紹介。

「かっこいい名前ね! しかもイケメンだし♪」

バカにしてるのか? エレメントだぞ。

少女はこちらの気持ちにお構いなく更に顔を近づける。

「えーと・・・ そんなに見つめられると意識してしまうんだが」

そんな情熱的な視線を送るんじゃない。緊張するだろ。

「分かった!!」

声が大きい・・・

「あなた大賢者ガブリエルの子孫でしょ!! そうに違いないわ!!」
「待ちなさい。きみ、俺の話聞いてた?」
「すごいわ! まさか伝説の大賢者様の子孫に出会えるなんて!」

全然聞いてない。

何をどう解釈すればそんな発想に至るんだ。

この子の言う通り、先程発動した魔法はシャドウフレアと呼ばれる上級魔法。

本来ならハイウィザード以上の階級を持つ魔導士でなければ発動できない難易度の高い魔法だ。

それを魔導書も持たないヤツが目の前で上級魔法を使って見せたんだ。

魔導士なら誰でも彼女のような反応になるのは想像に難くない。

ヤケクソだったからか、それとも火事場の馬鹿力というヤツか。

どちらにせよただの偶然の産物に過ぎないだろう。

「ねえねえ! どうして超高難易度の魔法を詠唱も無しに発動できたの?!」
「か、顔が近いっ! 落ち着けって!」
「だって、シャドウフレアを詠唱しない魔導士なんて初めて見たんだもん!」

鼻息荒くしちゃってまぁ。

せっかくの可愛い顔が台無しだ。

あれ? そういえば魔法を使えたってことは、俺はエレメントではないのか?

それとも突然変異的な感じで生まれながらに魔法を使えるエレメントだったとか?

いやいやそれは流石にあり得ない。さすがに安直すぎる。

でも結局魔導書グリモワールだってまだ顕現していない。その気配すらない・・・ 

どういうことだ?

まあいいか。成り行きとはいえ狼のエサにならずに済んだんだ。

「ねえねえ! どうして魔導書も詠唱も無しで魔法が使えるの?! どうやるの?!」
「しつこいヤツだなぁ。俺自身まだ混乱しててよく分からないんだ」
「分かった! 企業秘密ってヤツだ! 代々伝わる門外不出の秘術的な」
「何でそうなる・・・」
「だって、魔導書グリモワールもなく魔法を使うなんて本当に有り得ないことなんだもん。少しでも参考にしたいじゃない。そうすれば今よりも階級上げられるかもしれないし。だからヒケツを教えてよ」

魔法発動の原理に関してそれなりに知識がある。これでも一度学んだ事を忘れないのは俺にとって誇れる密かな自慢。城の研究者たちのお墨付きだ。

ヴィゴーのヤツが新しく覚えた魔法の知識の披露宴に数えきれないくらい付き合わされ、その度に先に答えを言ってしまいそうになるのを抑えるのに苦労したもんだ。

それでも一生懸命に語る可愛い弟に横槍入れる気にはならなかった。

ヴィゴーもあの頃は可愛いかったのに。

今となっては古き良き思い出。

それと・・・

フランの体から僅かに漏れ出る白い霧のようなものに注意を向ける。

霧は流れる川のように流動しており少し輝きを帯びている。

もともと物心ついた時には見えていたが、今は単に見えるだけでなく色調や濃さまではっきりと分かる。

なるほど。

魔導士はこうやって視覚化したマナをコントロールして魔導書に流しているんだな。これは便利だ。

それにしてもこの子のマナはとても純粋だな。

「そんなに私が可愛い?」
「その発想はどこから来た」
「だって情熱的な視線を向けてくるから」
「・・・まぁ」

やや視線を落とす。

うん。今後に期待といったところか。

「頑張れよ」
「ちょ、ガン見するな変態!!」

今度は彼女の方が覗き込んできた。

「その頬のアザ! よく見ればGの文字に見えるわよね!」
「・・・それが?」

彼女の刺す指がしっかりと俺を捉える。

「伝説のGランク魔導士、ここに誕生!!」

彼女の小さな拍手だけが響く。

それが余計に惨めさを強調した。

「何を言い出すかと思えばガブリエルのGってか。そんな浅はかな設定があってたまるか。あとそれ、バカにしているようにしか見えないからな」
「そんなことないってば! あんな強力な魔法を簡単に発動できるんだから縁があるのは間違いないはずよ! 私の目に狂いはないんだから!」

この子が連呼する大賢者ガブリエルというのは、二千年前にこの世界を混沌に陥れた魔王ゼフィールを倒し世界を救ったと伝えられている伝説の魔導士のことだ。

世界の英雄である彼にまつわる逸話は神話となり、二千年経った今でも物語として語り継がれている。

個人的には神格化されているせいでよくあるファンタジーくらいの認識だ。

そんな錆びついた物語をよくもまあそんな安易に断定できたもんだ。

さっきの魔法だってきっと偶然。

魔導士ですらない底辺の俺が大賢者ガブリエルの子孫なわけがない。

・・・って今はそんな事どうでもいい。

俺の本能が告げている。

この子にこれ以上付きまとわれるのはよろしくない。

絶対面倒な事になる。

「とにかくお互い無事で良かったな。今度は襲われないように気をつけろよ」

踵を返したその瞬間、思い切り腕を掴まれた。

「うふふ! 逃さないわよ!」
「俺は犯罪者かよ・・・」
「森をこんな焼け野原にしたんだから、ある意味犯罪者よね♪」
「うぐっ・・・」

元々サラマンドを追放されている身だ。

死刑宣告までされている。確かに犯罪者といえばそうかもしれない。

くそ。痛いところ突きやがって。

尤も、今のは自分で墓穴を掘ったんだが・・・

「そうだ! 私も一緒に連れて行ってよ!」
「はいはい。わかっ・・・」

・・・・・・は? 

「ほら。こんなに可愛い女の子と出会うなんてきっと何かの縁よ」

自分で言うか?

まあ確かに可愛くないわけでは・・・ ってそうじゃなくて。

「Aランクのハイウィザード様には連れなんていらないだろ」
「いや~。こんな暗い森に置いていかれたら怖くて死んじゃうよ~♪」

嘘だ。

怖いならどうしてそんなに楽しそうなんだ。

「ダメだ。俺は目立つわけにはいかない。誰とも群れるつもりは無いんだ」
「えぇ~!? いいじゃないのよ~!!」

彼女に体を激しく揺さぶられる。

「すまんが分かってくれ」
「そんなぁ・・・」

今度は彼女はガックリ肩を落とした。

今にも泣き出しそうだ。

「はぁ。どうしてそんなに俺にこだわるんだ。俺たちはたまたま会っただけの他人だろ? 一緒に行動する理由なんてないはずだぞ」
「そ、それはそうだけど・・・」

彼女は恥ずかしそうにモジモジしている。

「だ、だってその・・・ カッコ良かったっていうか・・・ 私を庇ってくれたのが嬉しかったっていうか・・・」

上目遣い、だと?!

噂に聞く女子が使う男子必殺の秘技! 

なんて破壊力・・・!

慌てるな落ち着け俺。

平常心、平常心だ。

「ふぅー・・・」

目を閉じ意識を呼吸に向ける。

そしてゆっくと目を開ける。

潤んだ瞳とばっちり目が合う。

「・・・・・・」

うん。無理。

さてはこいつ、俺に女耐性がない事を知っているな?

これは俺にとって千載一遇のチャンス。

この機を逃したら二度と女の子と会話する機会が来ないかもしれない。

自分で言ってて悲しくなるが。

でも・・・

「事情があるんだ。分かってくれ」
「事情? 目立ちたくないとか何とかって言ってたやつ?」

実際エレメントは基本的に契約した魔導士の所有物で、主人の持つ私有地から出る事が許されないペットのようなものだ。

ひょうひょうと自由に街をぶらつくエレメントなんて見た事もない。

ただでさえ死刑を宣告されている身だ。そんな俺の近くにいれば確実にこの子を危険に晒してしまう。

ましてや俺はヴェルブレイズ家の人間。

エレメントとはいえ、フランチェスカのような一般魔導士が王族を奴隷のように連れ回したとなれば、父上の命令で彼女を捕まえることも容易だろう。

父上やヴィゴーならやりかねない。

そんなわけで、お互いに関わるべきではないんだ。

そういうリスクは極力避けたいし、何より個人の事情に他人を巻き込むのは気が引ける。

「フランチェスカ。俺は・・・」

彼女はその手をパッと離した。

「なーんてね! 可愛かったでしょ? あははっ!」
「なっ?! てめっ! 人の純粋な気持ちを!!」
「あはは! 顔赤くしちゃって可愛い~!」

前言撤回。

善意で助けてやったってのに。

一瞬でも信じた俺の気持ちを返してくれ。今すぐ。

「はいはいそうですか。分かりましたよ。それじゃあな」
「うそうそ! 格好良いって思ったのは本当だって!」
「お前な。今ので信用しろって方が無理があるぞ」

まったく身勝手な女だ。

するとフランチェスカは恥ずかしさを紛らわすようにとんがり帽子を深く被った。

「 助けてくれてありがとう。どうしてもあなたと一緒に行きたいの。連れて行ってください。お、お願いします」
「無理。それじゃあな」

再び腕を掴まれた。

「ちょっと待ってよ!! ちゃんと心を込めたのに!!」
「痛い痛い! そんなに腕を振るな! 千切れるっ!!」
「もう、大切なものを失いたくないの。お願い・・・」

彼女の掴む腕がわずかに震えている。

「それってどういう・・・」

先程と打って変わって思い詰めた表情を見せる彼女にたまらず唾を飲み込む。

こりゃテコでも動きそうにないか・・・

「はぁ・・・  分かったよ。連れていけばいいんだろ」
「ほんと?! やった!!」
「切り替え早すぎだろ・・・ まあいい。その代わり一つ約束してくれ」
「約束?」
「冗談抜きで素性は晒せないんだ。くれぐれも勝手な行動や目立つ行動は避けてくれ。いいな?」
「分かってるわ! 大賢者様の子孫ともなればおいそれと素性は明かせないものね♪」

いや全然分かってないから。

「安心していいわよ! 私、交わした約束は必ず守るもの!」

不安しかない・・・

結局誤解されたままだけど、まあいいか。弁明するのも疲れた。

「それじゃ行こう。フランチェスカ」

フランチェスカはピョンと俺の前に飛び出した。

「フランでいいわよ。よろしくねヴィンセント♪」
「ああ。よろしくな。フラン」

その屈託のない真っ直ぐな微笑みは、まるで俺の未来を明るく照らしてくれる太陽のように輝いて見えた。
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