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第4話 柴
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翌日。
柴は、定時に職場を退勤することができた。
新卒で入社して十年目となる柴は、現在、分譲住宅の設計職についている。
営業部との打ち合わせを予定よりも早く終わらせ、伊野崎の見舞いに急いで向かった。
途中でスーパーに寄り夕食を作る準備もする。
到着したのは午後七時だ。
寝起きの伊野崎に「熱は?」と訊くと「まだ少し高い」と返事がある。
「ごはんは食べたか?」
「まだ…」
「すぐ作るよ」
寝癖がついた伊野崎が、無愛想に言う。
「釜玉うどん、うまかった」
「素麺にしようと、思ってたんだけど、釜玉がいい?」
「どっちでも」
このどっちでもは釜玉が良いってことだろう。
うどんなら、まだある。
柴はうどんをさっと茹でて卵を混ぜると、スーパーの惣菜と一緒に並べた。
「お前も食えば」と伊野崎に言われ、もう一食分用意し、同じテーブルで真向かいに座った。
視線を交わす。
一瞬だけ時間が戻ったかのような錯覚をするが、戻れるわけがなく、伊野崎に触ることはできない。
伊野崎が先に食べ終わり、席を立った。
「ごちそうさま。少し仕事する」
「急ぎなのか?」
「メールの返信だけ。帰る時は声かけてくれ」
そう言った伊野崎が仕事部屋に消えると、柴だけがリビングに残った。
キッチンを片付け、ソファーにもたれかかると連続で欠伸が出た。
腹も満たされ眠くなってきた。
眠気に逆らうが、徐々に意識が遠といていく。
ゆっくりと瞼を閉じると、すぐに浅い眠りに入った。
リビングに伊野崎が入ってくる気配がする。
睡眠の心地よい波に体も頭も抗えない。
スラックスの上から足の付け根を、手のひらで揉むように触られ、夢だなと柴は思った。
触られる感触が妙に生々しいが、現実ではありえない。
ベルトを外される音に続き、前立てを開けられボクサーパンツの中から性器を取り出される。
朦朧とする中、伊野崎の手ではないと悟った瞬間、柴はぱちりと目を覚ました。
目の前に、柴の性器を握った知らない男がいた。
動揺と混乱と驚きで、ソファーから転げ落ちた柴は、残念そうな男の声を聞いた。
「起きちゃったか」
その男と目が合う。
「どこから入った?」
柴は不法侵入者に鋭い声で問い詰める。
綺麗で華奢な若い男だった。
鮮やかなTシャツを着た男は、泥棒にもホームレスにも見えない。
「玄関の鍵かかってなかったよ。不用心だね」
答える男の顔をまじまじと確認すると、見覚えのある顔だ。
音楽ユニット「ロマンス」の三井が、こんな顔ではなかったか。
「三井?」
半信半疑で確かめる。
「そうだよ。あんた誰?雨宮さんかと思って悪戯したんだけど違った。伊野崎先生の彼氏だったら、やばいな。俺、怒られる?」
「彼氏じゃ…」
「彼氏じゃないなら、続きしていい?」
三井がいやらしく舌を出す。
そこで、異変を察知したのか伊野崎の足音がした。
リビングに足を踏み入れた伊野崎が、三井と柴の乱れた様子を見て驚愕する。
しまった、と思い柴は下着を整え、下がったスラックスを履き直した。
「何やってんだ?」
憤りを抑えられない伊野崎は、声を荒げた。
「えー怒んないでよ。彼氏じゃないんでしょ」
平然と言い放つ三井を伊野崎は睥睨し、咎めるように言った。
「三井さん…どうしてここに?」
「伊野崎先生のお家の近くまで来たから挨拶しよと思って。そしたら、玄関が開いたから入った。驚かそうと思っただけだよ」
「それで?」
「それで、この人にフェラしていいかって聞いたとこ」
伊野崎が、ゴミ箱を蹴り飛ばした。
プラスチックのゴミ箱が壁に当たり、大きな音が響く。
三井は、ようやく手を出してはいけない相手だったと理解したようだ。
「やだ怒んないで。ごめんね、先生」
意気消沈とする三井の謝罪を伊野崎は拒否するように顔を歪めた。
「今すぐ出て行きなさい」
まだ謝ろうとする三井を柴は玄関に追いやる。
「やっぱ彼氏なんじゃん」
三井は口を尖らせた。
柴は頷くことも否定することもできない。
自分が伊野崎にとって何者なのかわからない。
「またね」と言う三井が家から去るのを確認した。
柴は、鍵をして伊野崎がいるリビングに戻る。
途端に伊野崎は怒鳴った。
「何やってんだよ。なんで触らせた!」
柴は、定時に職場を退勤することができた。
新卒で入社して十年目となる柴は、現在、分譲住宅の設計職についている。
営業部との打ち合わせを予定よりも早く終わらせ、伊野崎の見舞いに急いで向かった。
途中でスーパーに寄り夕食を作る準備もする。
到着したのは午後七時だ。
寝起きの伊野崎に「熱は?」と訊くと「まだ少し高い」と返事がある。
「ごはんは食べたか?」
「まだ…」
「すぐ作るよ」
寝癖がついた伊野崎が、無愛想に言う。
「釜玉うどん、うまかった」
「素麺にしようと、思ってたんだけど、釜玉がいい?」
「どっちでも」
このどっちでもは釜玉が良いってことだろう。
うどんなら、まだある。
柴はうどんをさっと茹でて卵を混ぜると、スーパーの惣菜と一緒に並べた。
「お前も食えば」と伊野崎に言われ、もう一食分用意し、同じテーブルで真向かいに座った。
視線を交わす。
一瞬だけ時間が戻ったかのような錯覚をするが、戻れるわけがなく、伊野崎に触ることはできない。
伊野崎が先に食べ終わり、席を立った。
「ごちそうさま。少し仕事する」
「急ぎなのか?」
「メールの返信だけ。帰る時は声かけてくれ」
そう言った伊野崎が仕事部屋に消えると、柴だけがリビングに残った。
キッチンを片付け、ソファーにもたれかかると連続で欠伸が出た。
腹も満たされ眠くなってきた。
眠気に逆らうが、徐々に意識が遠といていく。
ゆっくりと瞼を閉じると、すぐに浅い眠りに入った。
リビングに伊野崎が入ってくる気配がする。
睡眠の心地よい波に体も頭も抗えない。
スラックスの上から足の付け根を、手のひらで揉むように触られ、夢だなと柴は思った。
触られる感触が妙に生々しいが、現実ではありえない。
ベルトを外される音に続き、前立てを開けられボクサーパンツの中から性器を取り出される。
朦朧とする中、伊野崎の手ではないと悟った瞬間、柴はぱちりと目を覚ました。
目の前に、柴の性器を握った知らない男がいた。
動揺と混乱と驚きで、ソファーから転げ落ちた柴は、残念そうな男の声を聞いた。
「起きちゃったか」
その男と目が合う。
「どこから入った?」
柴は不法侵入者に鋭い声で問い詰める。
綺麗で華奢な若い男だった。
鮮やかなTシャツを着た男は、泥棒にもホームレスにも見えない。
「玄関の鍵かかってなかったよ。不用心だね」
答える男の顔をまじまじと確認すると、見覚えのある顔だ。
音楽ユニット「ロマンス」の三井が、こんな顔ではなかったか。
「三井?」
半信半疑で確かめる。
「そうだよ。あんた誰?雨宮さんかと思って悪戯したんだけど違った。伊野崎先生の彼氏だったら、やばいな。俺、怒られる?」
「彼氏じゃ…」
「彼氏じゃないなら、続きしていい?」
三井がいやらしく舌を出す。
そこで、異変を察知したのか伊野崎の足音がした。
リビングに足を踏み入れた伊野崎が、三井と柴の乱れた様子を見て驚愕する。
しまった、と思い柴は下着を整え、下がったスラックスを履き直した。
「何やってんだ?」
憤りを抑えられない伊野崎は、声を荒げた。
「えー怒んないでよ。彼氏じゃないんでしょ」
平然と言い放つ三井を伊野崎は睥睨し、咎めるように言った。
「三井さん…どうしてここに?」
「伊野崎先生のお家の近くまで来たから挨拶しよと思って。そしたら、玄関が開いたから入った。驚かそうと思っただけだよ」
「それで?」
「それで、この人にフェラしていいかって聞いたとこ」
伊野崎が、ゴミ箱を蹴り飛ばした。
プラスチックのゴミ箱が壁に当たり、大きな音が響く。
三井は、ようやく手を出してはいけない相手だったと理解したようだ。
「やだ怒んないで。ごめんね、先生」
意気消沈とする三井の謝罪を伊野崎は拒否するように顔を歪めた。
「今すぐ出て行きなさい」
まだ謝ろうとする三井を柴は玄関に追いやる。
「やっぱ彼氏なんじゃん」
三井は口を尖らせた。
柴は頷くことも否定することもできない。
自分が伊野崎にとって何者なのかわからない。
「またね」と言う三井が家から去るのを確認した。
柴は、鍵をして伊野崎がいるリビングに戻る。
途端に伊野崎は怒鳴った。
「何やってんだよ。なんで触らせた!」
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