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第3話 雨宮

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 翌日。
 昼過ぎ、悠生を送るつもりで、夏生のマンションまで車で行ったが、素気なく断られた。

 俺達に「昨日の話は、まだ待って」と夏生は言い、保留のまま悠生は帰ることになってしまった。

 夏生と俺は、悠生を駅まで送る。

 何もなかったかのように振る舞っていた悠生は、夏生のバイト先のカフェ店の前で、
「アイスカフェラテ買ってきてよ。俺達、ここで待ってるから」
 と夏生に頼んだ。

 夏生が店に入り、二人だけになると、悠生の態度が変わった。
  
「夏生とずっと一緒にいるのは俺だ。俺は家族だからな。雨宮さんなんて、どうせすぐいなくなる存在だろ」
 悠生が悪態をつく。
 嫌味を言う顔も様になっている。

「酷いな。夏生とは家族になるつもりで一緒に暮らしたいのに」

 安易な気持ちではなかったが、さらっとそう言った自分に内心驚く。 

「なれねえよ。もし、夏生が雨宮さんと暮らすことになったとしても、一時的だ。諦めて、女と付き合えば」
 
「諦めないよ」
 俺は否定した。

 俺と付き合っていることを、夏生は悠生に告げていない。
 悠生も聞きたくないらしく追及しないらしい。
 だが、俺に対して、敵意剥き出しで知らないフリが崩れている。

「明日は、模試なんだろ。受験、頑張れよ」
「くそっ。言われなくても邪魔するために合格する」

 戻ってきた夏生が、悠生にカフェラテを渡す。

 悠生はカップを持った夏生の手ごと両手で握りしめた。
「ありがと」
「気をつけて帰れよ」
 
 改札を通った悠生は、寂しそうに振り向いて手を振った。
 夏生が手を振り返す。

 悠生が帰り、残りの連休も終わる。
 その後、夏生の就職活動は佳境に入った。
 メッセージでは毎日連絡しているが、なかなか会える時間がない。

 俺の経験では一次面接が始まり、不採用メールに落ち込む時期だ。
 文系の学生は二十社以上にエントリーしても、内定がもらえるのは多くて三社程度だった。

 夏生が体力的にも精神的にも疲れきっている間に、俺は柴のメールアドレスに連絡してみた。
 伊野崎の家で柴に会ってから、一カ月が過ぎている。

 白紙になるかもしれないが、同性カップルでも借りられるものなのかメールで相談したら、次の日に柴からの返信があった。

 それによれば「同性カップルだと申告しても審査に通るようにできます」とあり、力強かった。

 徐々に気温が上がってきた五月末、会えない日は続く。

 待つ時間が長くなるほど、俺との同棲がなくなるようで不安になった。
 もしかして断られる俺にだけ返事がなく、悠生には連絡しているのではないか。

 夏生と同棲がなくなったとしても一人暮らしをしようと、俺は考え始めた。
 一人暮らしの物件も探す。

 そして、二人のマンションの近くに引っ越してやる。

 そんなことを決心した俺に、六月初め、夏生から内定が決まったと連絡があった。






「あとは卒業だな。単位は大丈夫か?」
 俺は、赤ワインのグラスを傾ける。
 
 夏生の内定のお祝いに訪れたイタリアンレストランは、高級でもないがチープでもなく照明を落とした洒落た店だった。

 客層もファミリーは見当たらない。

 前菜から注文した料理が運ばれて、テーブルが見えなくなるほどになった。

「もう取れてるから、心配ない」

 笑って答える夏生は、チキンの香草焼きを口に入れる。

 夏生が内定したのは有名な化学メーカーだった。
 これから夏生の環境は新たに変化し広がっていく。
 俺は、それが少し怖かったりする。
 
 だからこそ一緒に暮らし、俺から逃げられないようにしたいのだ。

「悠生に連絡した」
 手を止めた夏生が、改まって背筋を伸ばす。

 とうとう夏生は決めたようだ。
 俺か悠生。
 夏生は俺に言った。
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